第10話【山田のモーニングコーヒー】①
上野さんを見送った後、僕は『少し叡智な魔法の使い方』を片付けてコーヒーを淹れなおしリビングのテレビをつけた。
テレビでは、土曜朝のワイドショーが流れている。
〔一週間のニュース総浚い!
さぁ、このコーナーでは一週間に起きたニュースを、独自の目線で深掘りしていきますよ〕
アナウンサーの元気な声がリビングに響く。
〔まずはなんといってもこの事件。
あえて事故ではなく事件と呼ばせて頂きますが、ショッピングモールで発生した火災についてです〕
コーヒーをもう一杯淹れる。
〔この火災で、約16万平方メートルの建物がほぼ全焼。また、隣の役所にも一部被害が出ています。
これだけで未曾有の被害だと言うことがお分かりいただけるかと思うのですが、奇跡的なことにこの火災での死亡者は確認されておりません〕
コーヒーを淹れ終わり、ダイニングテーブルについた僕はテレビの音量を下げる。
画面に映る情報は、この一週間散々とか擦られた内容の使い回しだ。
目新しい情報が出てくるまでは、音を出す必要はないだろう。
僕はスマホを開いてニュースサイトへ飛ぶ。
[ショッピングモール火災、原因はガス管の劣化?]
[奇跡の死者ゼロの裏に、火災発生前にかかってきた謎の二本の通報]
[ショッピングモール火災放火の可能性?!]
[ショッピングモール火災重症者一名]
[全身に切り傷を負って入院中の男性
ショッピングモール火災との関連性を調査]
[火元と見られる店舗の店長
全身に切り傷がある状態で発見]
[プレオープンでの悲劇
火災のあったショッピングモールで、来月サウナをオープン予定だった男性の心境]
いくつか気になる記事はあったが、羽田さんや花澤さんに言及している記事はない。
ニュースの記事を信じるなら、警察はこの火事を事件と事故の両面から捜査しているらしい。
だが、どちらにしても火が回るのが不自然なほど早かった点の説明がつかないらしい。
ガス管などのインフラ設備の劣化が原因とも考えられたそうなのだが、肝心のインフラ設備のメイン装置がほぼ無傷で焼け残っていた事からその線は薄いとみられている。
放火の場合、ほぼ全館に渡ってガソリンを撒いていた場合なら今回のような火災も想定されるそうだが、当然日曜のショッピングモールでガソリンを大量に撒く人が現れれば、火をつける前にお縄についている。
火の手が回るのが早かったのは、放火犯が風の魔法使いだったからなのだが、正常な精神を持つ人ならそんな考えにはいきつかない。
僕は視線を再びテレビに移す。
今は火事当日の映像が流れている。
右上に視聴者提供というテロップがついたその動画には、轟々と燃え上がる炎に包まれるショッピングモールと、それを遠巻きに見る人々、そしてその群衆の頭上を下着姿でM字開脚をして飛び去るレザー少女こと羽田さんの姿が映っていた。
僕はテレビの音量を上げる。
〔改めて見ても、死者が出なかったのが不思議な火災ですね〕
〔なんでも、火災が起きることを予知していたかのような通報の電話が二件かかってきていたそうで、この日の朝に各店舗で消火設備や避難経路の確認を行っていたそうなんです。
この動画でもわかるように、これだけのお客さんを混乱なく避難誘導できたのは、スタッフの皆さんの活躍なくしては語れませんね〕
ある意味火災よりもショッキングな映像が流れていると言うのに、アナウンサーもコメンテーターも誰一人下着M字空飛び女の羽田さんには触れない。
あえて無視していると言うわけではなく、認識できていないのだ。
僕はまた音量を下げる。
この一週間、下着M字空飛び姿の羽田さんは、おはようからおやすみまでありとあらゆる時間帯のお茶の間に流れ続けた。
けれど、テレビの演者は誰一人反応しないし、放送事故好きのネット民は全く反応を見せない。
これはつまり、記録媒体を通した映像であっても、【取るに足らない存在になる魔法】の効果が持続することを示している。
今流れている映像なんて、火災を映すためにズームしているようだが、ちょうどその先に羽田さんの胸があったせいで揺れる谷間がアップになっている。
音量を上げる。
〔これは凄いですね〕
コメンテーターがスタジオのモニターにデカデカと映し出された羽田さんのドアップバストを真剣な目で見つめて呟く。
画角が少し下にずれ、今度は谷間ではなく下半身がドアップになる。
モニターの横に立っていたアナウンサーが、指示棒を取り出してモニターを叩く。
他の人にはどう見えているかわからないが、僕にはその棒で羽田さんの下半身を突いているようにしか見えない。
〔この映像を見ると、ここ、この辺りが特に激しく燃えているように見えるんですよね〕
棒でくるくる止まるを描く先には、羽田さんのパンツが映し出されている。
流石に見ていられなくなった僕はテレビを消す。
自分がしたことであり、僕以外には見えていないと分かっていても、下着姿を公共電波に乗せてしまったことはいつか謝らなければならないなと思う。
コーヒーを一口のみ、一呼吸おく。
静かになったリビングで、僕は日曜日のことそしてその後の一週間について思いを巡らせる。




