第2話【大神京子_任意の部位を痒くする魔法】①☆☆☆
【任意の部位を痒くする魔法】
任意の部位を痒くすることができる。
その部位に触れるか、解除するまで痒みは治らない。
魔法を使った翌日。つまりは日曜日。
僕は起き上がることができなかった。
確かに昨日は遅くまで森崎先輩の姿を思い出しながら発散を頑張った。
だから腕が多少重たくなることは覚悟していた。
だが、朝目覚めた時の体調はそんなものではなかった。
まず全身が重い。
まるで見えない真綿の布団が100枚くらい体の上に乗っているのではないかと思うほどの重さが全身にのしかかっていた。
そんな状態で起き上がれるわけもなく、午前中は布団の中で過ごした。
午後になってようやく起き上がることが出来たが体を少し動かすたびに、まるで沼の中を進んでいるような異常な抵抗を感じる。
気を紛らわせようと手に取った文庫本がダンベルのように感じられた。
明らかに異常な疲労感だった。
原因は考えるまでもなく昨日使った魔法だろう。
「少し叡智な魔法の使い方」には魔法を使った際の副作用については、書かれていなかった。
だが魔法を使うのに何の代償も支払わなくていい、と言うことは無いだろう。
ファンタジー小説やゲームで良くあるのは、MPなど魔法を使うための体力のようなものを消費するパターンだ。
この世界にMPが存在しているかは分からないが、実際に魔法が使えている以上、その現象を引き起こすのになんらかのエネルギーが消費されているはずだ。
エネルギーの源は、術者本人に依存するものや空気中から得るもの、道具から発するものなどいくつかのパターンがあるが、このかだの怠さを考えるに、術者の何らかのエネルギーを使っていると考えるのが妥当だろう。
昨日使った魔法は、尿意を操る魔法を8回と多少無茶な理屈でも言いくるめる魔法1回の計9回だ。
それでこの反動ということは、一日に使える魔法は10回までだろう。
それも翌日に相当の代償を払う覚悟の上で。
そうで無いなら5回以内に収めるのが得策だろう。
とりあえず、しばらくの間魔法を使うのはやめておいたほうがいいだろう。
そう考えていた。
しかし、幸か不幸か魔法を使える、使いたいと思う絶好の機会がすぐに訪れた。
それは、まだ重たい体を引きずって何とか登校した月曜日の放課後。
教室の掃除をしていた時のことだ。
僕の高校では、教室の掃除は生徒が行う。
男女二人づつの四人組が一班となり、各班が週替わりで掃除を担当することになっている。
今週は僕の班が当番というわけだ。
高校生とは言え、四人で教室全体を掃除するのはなかなか骨が折れる作業だ。
だが、今日に限っては四人どころか教室の掃除に勤しむ生徒は僕一人という状況だった。
教室に僕一人、というわけでは無い。
教室の後ろに大神、山本、安井のJK三人衆が陣取り、スマホを片手におしゃべりに興じていた。
山本と安井は元々僕と同じ班の女子生徒。
大神は別の班なのだが、うちの班のもう一人の男子横田の代わりで入っている。
横田はサッカー部のレギュラーで、大神はサッカー部のマネージャー。
大会が近い選手の代わりにマネージャーが掃除を担当するということは、今回に限らずよくあることだった。
男手が減ったのは痛いが、ちゃんと代わりの人員を立ててくれるのはいい。
問題はその代わりを含めた女子全員が全くの役立たずということである。
僕が、重たい体を引き摺りながら机を運び、床を掃き、クイックルワイパーで仕上げ磨きをする間、三人は全く動こうとしなかった。
それどころか、
「もっとテキパキやりなよー
あんまり部活に遅れるとサボってるって思われるじゃん」
などとヤジを飛ばす始末。
流石に温和な僕にも堪忍袋は存在する。
そしてその緒は、今この瞬間に切れた。
僕は机を移動させるフリをしながら自分のバックに手を伸ばし、「少し叡智な魔法の使い方」に触れる。
現時点で僕に使える魔法は、昨日までに全て暗記済みだ。
そして、今この瞬間に使いたい魔法についても、本を読むまでもなく決めることができる。
僕は本をバックに入れたまま目当てのページ、すなわち【任意の部位を痒くする魔法】を開きそこに手をかざして念じた。
すると、本に触れていた指にわずかな電気が流れた。そしてそれと同時に頭に情報が流れてきた。
その情報は、二つのことを決めろと僕に告げる。
この魔法を誰に使うか?
どの部位を痒くする?
僕は頭の中で答える。
『あそこでたむろしている女性たちに使う。
痒くする部位はそれぞれーーー』
念じ終わるとまた指先に電気が流れた。
これは3回分の魔法としてカウントされたのだろうか?今日よりも強い刺激に感じた。
僕はさらに【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】にも一度触れてから本を閉じ、掃除に戻った。
掃除をしながら3人の姿を盗み見る。
すると、すぐに誰かがモゾモゾと動き出すのが見えた。




