第8話【風の魔法使いと真のラッキーすけべ】⑧☆☆☆
「まず魔導書と言うものは、この世界ではない別の世界。簡単に言うと異世界からこちらの世界へとやってきたものよ」
花澤さんは、早口というわけではないが、ハキハキとテンポのいい話し方で説明する。
「今ここには三冊の魔導書があるけど、この世界にやってきたのはこんなものじゃないの。
少なくとも数百から数千の魔導書がこの世界にやってきたと私たちは考えてるわ」
「数百から数千?その根拠は」
僕は、水着の上からズボン履くことに決めてズボンに足を通す。
水着を脱いでしまうとスッポンポンになってしまう。
「根拠はあるけど、それを今話してると時間が足りないから、とりあえず聞いて」
昨日保健室で話した時も感じたが、花澤さんは話の回り道を嫌う傾向にあるようだ。
しかし、『少し叡智な魔法の使い方』のようなものが百や千もあるとすると、世界への影響がかなり大きいのではと思ってしまう。
大事件の一つや二つ起きてもおかしくない……あ、今目の前で起きていた。
僕は隣の座席で気を失っている羽田さんの顔を見る。
『六門の魔法学 風魔法編』と言う魔導書を用いて、ショッピングモール一つを焼き払った凶悪犯だ。
「魔導書の恐ろしさは、それを一度でも使ったものならわかるはず。
正直、使い方によってはこの世界に大きな変化をもたらすことさえ可能よ」
僕の持つ魔導書『少し叡智な魔法の使い方』は、エッチな悪戯に使えるような魔法ばかり書かれているが【多少無茶な理屈でも言いくるめる魔法】のように人の行動を誘導するような魔法を使えばエッチなこと以外にも応用が効くだろう。
『六門の魔法 風魔法編』などはもっと単純に、この世の物理法則を無視したあらゆることができる。
今回の大火事も、おそらく風を巧みに操った結果が今の大惨事につながっていると思う。
もし軍事目的で使用していれば、戦術レベルで戦況を変えられるほどの威力を見せるだろう。
「けど、本当の脅威はそこじゃないの」
花澤さんが珍しく言葉を区切る。
僕はズボンを履き終えてパーカーに手を伸ばす。
「本当に恐ろしいのは、異世界からきた魔導書は人の心を変えてしまうの」
僕は袖を先に通してから、頭を通す。
パーカーのフードが頭にかかってしまったので、それを外しながら尋ねる。
「それは、ハンドルを握ると人が変わるみたいな、魔法を使える事で気が大きくなるみたいな話?」
「違うは、もっと直接的なこと」
僕は着替え終わったが、花澤さんは言葉を続ける。
「魔導書は、所有者の心を文字通り変質させてしまうの。
今日この火事を引き起こした彼女も、自分の意思で行動していると言っていたけどそんなことはない。魔導書の影響を大きく受けているはずよ。
そして、山田……先輩。あなたもその一人」
「変質って……、僕は何もかわっちゃいないよ」
「本当にそう?
魔導書を手に入れてから、気が大きくなったり、これまでじゃ考えられないような大胆な行動を取るようになったりしていない?」
花澤さんのその問いには、即答できなかった。
心当たりがないと言えば嘘になる。
『少し叡智な魔法の使い方』を手に入れてからの僕は、間違いなく大胆になっていた。
先輩の尿意を操り目の前で失禁させ、目の前で着替えさせたり。
クラスメイトに痒みを押し付け、それを口実に体中を触ってみたり。
お漏らしトレーニングを理由に、先輩にオムツを履かせてみたり。
半裸のOLをお姫様抱っこしてみたり。
仲のいい先輩を上裸にしてサウナに入ってみたり。
その先輩とキスしてみたり。
けど、それは魔法という特別な技を使えるからであって、僕の心が変わってしまったのだとは思えない。
マリカーでスター状態の時にあえて他のプレーヤーにぶつかりに行くようなもので、それができる能力が一時的に手に入ったから、その能力に見合った行動をとっているだけだ。
マリカーでスター状態になったからと言って、僕の心まで変わることはないのと同じだ。
「こういうのは、大抵自分自身じゃ気が付かないものなのよ。
今は心の底から理解していなくてもいいわ。
それに、あなたは魔導書の魔力に対して耐性がある方だということも分かったし」
花澤さんは諭す用意そういうと、車の扉を閉めた。
僕だけが、車の外に残される。
助手席のウィンドウが下がる。
「私たちの目的が何か?そう聞いたわよね。
私たちの目的は、魔導書の力で心が変質してしまった人たちを救うこと。
そのために、魔導書の行方を追い、魔導書を回収することよ」
車のエンジンがかかる。
「それなら僕の魔導書は回収しなくて良かったのか?
昨日、そのチャンスがあっただろ?」
「もちろん、そのつもりだったわ。
けど、あなたはこれまで見てきた魔法使いとは違う。
魔導書の魔力に取り込まれて、ニグレドになるならその時は全力で回収するつもりよ。
けど、今は協力してもらう方が旨みが多いと思ってるわ」
ニグレド。
さっきからちゃくちょく出てくる知らない単語を、花澤さんはまた口にした。
「出すぞ」
運転席の男が小さくそう言った。
「それじゃあ山田先輩またね。
今日は助かったわ。
またよろしくね」
花澤さんのその言葉を残して、ファミーワゴンはゆっくりと駐車場を出て行った。
第8話 完
先週からノクターンノベルの方でR18版のIFストーリーの連載を始めました。
そのおかげか、この三連休でポイント・PV共にちょい伸びしてます。ありがとうございます。
8話は4話に引き続き、ストーリーを進めるためのお話でしたが、9話は普段のくだらない話に戻る予定です。




