第8話【風の魔法使いと真のラッキーすけべ】⑤★★☆
火はドンドンと勢いを増している。
遠くの方で天井が落ちたのかけたたましい落下音が響く。
海パン姿の剥き出しの肌には、先ほどから我慢できないほどの熱が押し寄せてくる。
「最低なサウナだな」
つぶやいても、反応を返してくれる人はいない。
こんな状況でもつまらない冗談を口に出来ることに、自分自身で驚く。
普通なら絶対に助からない状況に身を置いているにも関わらず、なんとかなると思えているのは手の内にある二冊の魔導書のおかげだ。
僕は改めて『六門の魔法学 風魔法編』を開く。
本の構成は、『科学的魔法学入門』と似ていて、前半が風魔法の原理について書かれた基礎パート、後半が具体的な魔法について書かれた応用パートに分かれている。
幸いなことに、この魔導書もほとんどのページを読むことができた。
僕は後半の応用パートに書かれた魔法の一つを指で触れながら念じる。
【風のバリアを生み出す魔法】
途端に、体をジリジリと焼いていた熱波が消えた。
サウナから出た後のような清々しさが、全身を覆う。
よく見ると、僕の足元を中心に半径2mほどの球体状の風の膜ができている。
球体といっても、地面に膜はないので実際はドーム状だが。
バリアがどう言ったものなのか触ってみたくて一歩前に出た。
すると、僕の移動に合わせてバリアが付いてくる。
どうやら、僕を起点に一定範囲のバリアを生成する魔法のようだ。
一旦応急処置的な意味で使ってみたこの魔法だが、自動的についてきてくれるならこのままはの中を突破できそうだ。
となるとあとの問題は……。
僕は、下着姿で伸びる元レザー少女を見下ろす。
素性は一切わからないが、この火災の原因を使った女の子は、僕の作り出したバリアの内側で穏やかな顔をして気絶している。
花澤さんと対峙していた時の、狂気じみた雰囲気は今は感じない。
この子をどうやって運ぶかが問題だ。
僕の手には今、二冊の魔導書が収まっている。
これを持ちながら、元レザー少女を抱えるのは、無理ではないが少しキツそうだ。
それに、これからこの火の海に突入することになる。
今は風のバリアに守られてはいるが、このバリアの耐久がどの程度か分からない以上、もしもの時に備えてすぐに魔法を使えるようにしておくべきだろう。
僕は、改めて『六門の魔法学 風魔法編』を開き、何が良い魔法はないかを探した。
幸い、目当ての魔法はすぐに見つかった。
本には、開き癖がいくつかついており、そのうちの一つが目当ての魔法だったのだ。
僕はすぐに念じる。
【風でものを持ち上げる魔法】
すると床で伸びていた元レザー少女の体が持ち上がる。
僕が三階から引きずり下ろされた時に使われた魔法と同じもののようだ。
風でものを持ち上げる魔法は、大きな第3の手を作り出すようなもので、術者の思い通りに動かすことができる。
僕は、元レザー少女がずり落ちないようにしっかりと握る。
気絶して伸びているので全身に力が入っていない。
運ぶ時に落ちないよう、深めのソファに座っているような姿勢をとらせ手足と腕を固定する。
初めて使う魔法なのでなかなかうまくいかず、ようやく安定した時には、元レザー少女は、足を大きく開き膝を曲げた状態で空中に座り、腕は足首を掴むような位置で固定される、という姿勢で固まった。
どこからどうみてもM字開脚のポーズだ。
下着姿の少女が、炎に包まれながらM字開脚のポーズで空中に浮かんでいる。という何ともシュールな光景が出来上がった。
もう少し時間をかければ、マシな姿勢に変えることは可能だろうが、ここまででもそれなりの時間を消費しており、火の手はもうすぐそこまで迫っている。
バリアがあるとはいえ、流石に急いだほうがいいだろう。
僕は意を決して。M字開脚の元レザー少女を連れて、火の中に飛び込んだ。
すると、僕の周りの炎がサッと引いていく。
僕を中心に、半径2mほどの安全地帯が出来上がる。
さっきまで立っていたイベントホールと異なり、すでに火が回ったエリアなので、床が燃えていたり物が散乱していたりするのだが、風の膜がそう言ったものを全部吹き飛ばしてくれて歩くのに支障はない。
僕らは、ものの数分のうちに炎を抜け出した。
ショッピングモールの外は、物々しい雰囲気で包まれていた。
多数の消防車と救急車、パトカーが駐車場にひしめいており、客を誘導する警察官の声、怪我人に声をかける救急隊員の声、消化活動の指揮を取る消防士の声が飛び交っている。
皆が皆、それぞれや役割を忠実に果たそうと懸命に働いているので、火の中からひょっこり現れた海パン男と下着M字開脚少女の存在に気づいた人はいなかった。
僕は、【取るに足らない存在になる魔法】を自分と元レザー少女、現下着M字開脚少女にかけて人ごみの中を進む。




