第8話【風の魔法使いと真のラッキーすけべ】③★★☆
レザー少女は、受け身を取る暇なく頭から床に落ちた。
ゴツン
鈍い音と共に倒れたレザー少女は、そのまま動かない。
可哀想なことに、そこにはついさっき自分が出したおしっこの水たまりに顔を突っ伏すように倒れている。
おしっこの表面が震えているので息はしているようだ。
レザー少女が倒れると同時に、僕の体が見えない何かから開放される。
僕は空中で投げ出され、床に落ちる。
急なことにしっかりとした着地が取れず、そのまま床に膝と手をつく。
僕は床に手をついたまま、今起こったことの衝撃でしばらく動けなかった。
信じられなかった。
信じたくなかった。
脳が理解を拒んでいた。
そんなことがあっていいわけがないと思っていた。
だって……
「ラッキーすけべの予告があるってことは、朝のアレとかサウナのアレって魔法関係なかったのー!?」
レザー少女が転んでパンチラする際、魔導書から脳内に情報が流れてきた。
それ自体は他の魔法でも起こることで、珍しくはない。
問題は別にある。
今の事象をもとに考えると、【ラッキーすけべになる魔法】を使った場合、実際のラッキーすけべが起こるタイミングは、魔導書が教えてくれる、と言うことになる。
もしそうであれば、半裸のOLが階段から降ってきた時も、鷲宮先輩と海パンで個室サウナに入った時も、そんな情報は流れてきていないので、逆説的に【ラッキーすけべになる魔法】とは関係ない出来事であるといえてしまう。
あの二つの出来事が魔法と関係していないだって?!
だったら、だったら……
あれは天然のラッキーすけべだったと言うことか?
そんな、嘘だろ……
あれが天然物のラッキーすけべだと分かっていれば
「もっと感動できたのに!」
今朝のOLの件も、鷲宮先輩とのサウナの件ももちろん興奮した。
客観的に見て、とってもエッチな経験だと思う。
けど、どこかで冷めてる自分がいたのも事実だ。
それは、どんなにラッキーなことがあっても、結局は魔法の力によるものだと思っていたからだ。
確かに、【ラッキーすけべになる魔法】を使ったのは僕だし、それはラッキーなすけべに遭遇したいと言う下心があったからだ。
けれど、今朝のOLの一件を経験して気づいてしまった。
用意されたラッキーは、素直に楽しめない。と
もちろん、さっき言ったようにエッチで素敵な体験だとは思うが、どこか作り物な気がしてしまって楽しめないのだ。
ドキュメンタリー番組だと思って見ていたら、バリバリ脚本のあるドキュメンタリー風番組だった。みたいな、そんな気持ちになっていた。
それに、OLの件と言い鷲宮先輩の件といい、演出が過剰と言わざるを得ないところがあった。
OLのお姉さんは、ただ上から落ちてきて僕の上に乗るだけでもラッキーすけべといえたのに、下着姿にジャケットを羽織りストッキングを履いただけという、それそのものが羞恥心を掻き立てるような格好で落ちてきた。
鷲宮先輩の場合は、ただ先輩と個室サウナに入るだけでも相当エッチなのに、男性用の水着を着て上半身裸になるというおまけまでついてきた。
それに、最後はもっとすごいことを……
思い出すだけでも、昭和のバラエティ番組もびっくりの過剰演出のオンパレードだ。
ほんとに魔法の影響がなかったのか疑いたくなるレベルだ。
鷲宮先輩なんて、素の状態で僕と上裸サウナを承諾したということになる。
普通なら鷲宮先輩の正気を疑う場面だが、【ラッキーすけべになる魔法】の効果だと思っていた僕はスルーしていた。
だが、レザー少女のパンチラ時に脳内に魔導書の情報が流れ込んできたことで事態は一変する。
OLの時も鷲宮先輩の時も、脳内には一切情報が流れ込んできていない。
改めて言うが、あれは天然物のラッキーすけべだったのだ。
天然物のラッキーすけべを、人工のラッキーすけべだと勘違いして享受してしまった。
天然物と分かっていたなら、それなりの覚悟を持って楽しめたはずだし、その方がより良さを分かったはずだ。
言うなれば、
天然物のタイを養殖の安物と勘違いして、串カツにして、ソースびたびたで食べてしまったような。
羽毛の寝袋を化学繊維と間違えて、雨の日に使ってしまったような。
観賞用にしようとしていたサイン入りの初版本を、布教用と間違えて友達に貸してしまった時のような。
それぞれの用途としては間違えてなくて、目的を達することはできるのだけど、絶対的に勿体無いと感じてしまう、そんな感情に胸が支配されていた。
「くそ……
魔導書を使って初めて後悔している」
僕は、ショッピングモールのイベントホールの床を叩いた。
鈍い音が響き、右手が痛くなっただけだった。
そんな傷心の僕に、後ろから声がかかった。
「まずは助けてくれてありがとう。
そして、多分くだらない後悔をしているところ悪いけど、あんまりここにいる時間はなさそうよ」
見ると、苦しそうにした花澤さんが、今にも倒れそうになりながら立ち上がってこちらに歩いてきていた。
「ああ、連絡にすぐ気が付かなくてごめん。
すごい攻撃とか受けてたけど大丈夫?」
「私のことはいい。
あなたがどうしてショッピングモールで水着姿をして女の子を連れてたのかも詮索しない。
それよりも、今はここから無事に出ることを考えないと」
花澤さんの言葉を聞いて今の状況を思い出す。
僕らは大火事のど真ん中にいたのだ。
慌てて周囲を見渡す。
「え、火が迫ってきている?」
さっきまで風に守られていたはずのイベントホールに、熱風と炎が迫っていた。




