第7話【鷲宮みずき 男性水着サウナチャレンジ】⑥☆☆☆
煙の勢いは一層増している。
火の手はいまだに見えないが、この煙の雰囲気を見るに、火はすぐ近くまで廻っているはずだ。
サウナがあるのはショッピングモールの三階。
今は一刻も早くこの場を離れる必要がある。
だが、
ドンドンドンドン
警報や避難を促すアナウンスをかき消すように、ロッカーが鳴る。
僕は腕につけていたロッカーの鍵を手に取る。
背中の鷲宮先輩の姿勢がズレたので背負い直す。
ドンドンドンドン
内側からなる打撃音は、激しさを増す。
僕は、恐る恐るロッカー鍵を回し、ロッカーを開ける。
すると、その時を待ち構えていたかのように、中から鳥のようなものが飛び出した。
いや、鳥なんてロッカーに入れていない。
飛び出してきたのは、背表紙を上にしてページを開き鳥のように羽ばたいて空を飛ぶ『少し叡智な魔法の使い方』だった。
『少し叡智な魔法の使い方』は煙の濃い方に向かって飛んでいく。
僕は飛び去る魔導書と背中の鷲宮先輩を見比べ、一瞬の逡巡ののち、ロッカーに残った他の荷物を引っ掴み、鷲宮先輩を落とさないように気をつけながら飛び去る魔導書の跡を追った。
魔導書は、本物の鳥のように素早くショッピングモールのフロアを飛び回る。
でも、まるで僕が追いかけてくるのがわかっているかのように定期的に旋回を挟みつつ、少しずつ進んでいく。
進むにつれ、煙の勢いはいよいよと増し、通路の端や壁に火の手が見えるようになってきた。
本能がこれ以上先に進むのは危険だ、と告げている。
それでも、一人でに飛び立ちどこかへ向かう魔導書の目的地を確かめたいという好奇心に抗うことはできなかった。
それに、なんの根拠もないが、魔導書について行けばなんとかなるのではという期待が僕の中にあった。
どうせあのまま真っ直ぐ下に降りたとて、火がどこまで廻っているかわからない以上、無事に逃げ切れる保証はない。
それに、あの魔導書が僕らを死地へと誘っているようには見えなかった。
とは言え、魔導書を追うにつれて煙と火はドンドンと勢いを増していく。
僕は、鷲宮先輩が煙を吸わないようできるだけ姿勢を低くして進む。
永遠かと思えるほどの時間、煙の中を進んだ気がする。だけど、多分実際は数分の出来事だったはずだ。
僕は気がつくと、ショッピングモールのイベントホールの上に来ていた。
ヒーローショーや売り出し中のアイドルなんかがライブを行うそのホールは、三階まで吹き抜けになっている。
さっきまで勢いを増していた煙と火が、そこに近づくと急に晴れた。
サウナから出た時のような、熱い風から肌が開放される清々しさを感じる。
この清々しさ正体は、下階から噴き上げる風だった。
久しぶりの新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。
呼吸を整えて改めて周囲を見渡すと、ものすごく不自然な状況に気がつく。
イベントホールとそこを囲む吹き抜け全体を煙と火から守るかのように、まるで意思を持っているかのような風が噴水のように噴き上げている。
例えるなら、巨大な羽のない扇風機が上を向いて設置されているかのような光景だ。
僕は、自然と風の出どころである下界のホールを見下ろした。
吹き上げる風が、前髪を巻き上げる。
一階は、三階よりも先に火の手が回ったのか、もはや逃げ場のないほど轟々と炎がのたうち回る。
大蛇のように蠢くその大火が、まるでそこに結界でもあるかのようにホールの周辺を真円状に取り囲む。
見えない結界に守られたホールは、そこだけが日曜日のショッピングモールの表情を残している。
そんな無傷のホールの真ん中に、二つの人影があった。
三階からでもその姿は、よく見える。
二人とも、僕と同じ年頃の女の子だった。
一人は、黒いレザーのミニスカに、同じく黒いレザーのジャケットを羽織った、細身の女性。まるで韓国のアイドルユニットの一員のような出立ちは、イベントホールにはマッチしている。
もう一人は、短パンに長袖のトレーニングウェアに身を包み、白いキャップを被った小柄な女性。軽いジョギング中のようなその格好は、日曜のショッピングモールにいてもおかしくない。
どちらも単体でみれば、日曜のショッピングモールのイベントホールにいても違和感がない格好をしている。
だが、この大規模な火災の最中、なぜか不自然に燃え残っているホールの真ん中で対峙する組み合わせとしては違和感しかない。
さらに、違和感を感じさせるものがある。
それは、二人が手に持っているものだ。
二人の手には、本が握られている。
それもただの本ではない。
流石に詳細はわからないが、分厚い装丁の重厚なその本は、今僕の頭上で旋回しながら飛んでいる魔導書とそっくりだった。
そしてそのうちの一冊は、つい昨日目にしたばかりのものだった。
「花澤さん?」
思わず声が漏れてしまった。
慌てて口を塞ぐが、どうやら下から噴き上げる風が僕の声をかき消してくれたようで、下階の2人はこちらに気づいた様子はない。
僕は改めて、二人の人影を凝視する。
間違いない。
レザーの女の子は見たことがないが、ランニングウェアを見に纏った方の女の子は、昨日倒れた僕を保健室まで運んでくれた図書委員一年の花澤みつきだった。
そしてその手には、あの『科学的魔法学入門』が握られていた。
ということは、もう一人のレザーの女の子が持っているのも魔導書なのだろうか。
僕は、頭の上で羽ばたく『少し叡智な魔法の使い方』を見る。
この魔導書は、僕をここに誘ってどうするつもりなのだろうか?
当然、魔導書は答えてくれない。
「もう一度だけ言うわ、大人しくその本を渡して。
その本は危険なものなの」
状況を飲み込めない僕の耳に、花澤さんの声が届く。
本来であれば三階までは届かないような声量だと思うが、したから吹き上げる風に運ばれてここまで届いてきたのだ。
「嫌だと言ったら?」
レザー少女の声も届く。
どうやら、二人は対立関係にあるようだ。
「実力で奪い取るまでよ」
花澤さんのその声が合図となり、二人は同時に魔導書を開いた。
第7話 完
第6、7話は、本作の物語が動き出す話として、当初から予定していた内容ではあったのですが、鷲宮先輩とのサウナシーンを中心にR18にはみ出さないように、ブレーキを踏むのが大変でした。(もしかしたらはみ出してるかもしれませんが)
結果的に、不完全燃焼な表現になってしまった箇所が多々あり、物語の流れ的にも不本意な箇所が残っています。
ブレーキを取っ払った【R18版】をノクターンの方で連載するのもありかなと思っていますが、需要ありますかね?
需要あるよ!と言う方は、ぜひリアクションで教えてください。




