第7話【鷲宮みずき 男性水着サウナチャレンジ】⑤★★★
「んっ」
鷲宮先輩が、熱い息を漏らす。
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
アナウンスが繰り返される。
僕の手は、鷲宮先輩の胸から離れない。
手のひらの真ん中に小豆大の柔らかな出っ張りがある。
その出っ張りを、手のひらの中で転がす。
「んんっ」
鷲宮先輩の吐息が増す。
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
アナウンスが繰り返される。
僕は、手のひらの中にあった小豆を摘む。
ずっと鷲宮先輩と見つめ合ってるので、手の感触だけを頼りに摘もうとしたのだが、失敗して小豆を弾いてしまう。
「ああっ」
鷲宮先輩は、声を出した。
僕を見る目がどんどん潤んでいく。
鷲宮先輩は、僕に胸の小豆を摘まれたまま、腰を上げてこちらに顔を寄せる。
さっきまで目線の下にあった鷲宮先輩の顔が、同じ高さに並ぶ。
潤んだ瞳がどんどん近づく。
僕は無意識に、小豆を摘む手に力を入れてしまう。
鷲宮先輩の肩が揺れる。
けれど、鷲宮先輩は止まらない。
「先輩……」
朦朧とする意識の中で出したその声は、距離0センチで鷲宮先輩の口の中に吸い込まれていく。
唇にとても熱くて柔らかいものが押し付けられる。
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
警報が三度繰り返される間、僕らは唇を合わせていた。
唇を離したのは、鷲宮先輩だった。
僕の肩に手を置き、またすぐに触れることができる距離で止まる。
「山田……」
僕の名前を呼ぶために口から出た息が、僕の唇に触れる。
「なんですか」
たぶん、鷲宮先輩の唇にも僕の息がかかってる。
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
肩に置かれていた手が背中に回る。
触れそうな位置にあった唇が、横に移動する。
さっきまで手を置いていた肩に、先輩の顎がのる。
先輩の平な、でも確かに柔らかさのある胸が僕の胸に当たる。
先輩の胸は、火傷しそうなほどに熱い。
上半身が最大限に密着する姿勢になって、鷲宮先輩が僕の耳元で囁く。
「……目が回る」
その言葉を最後に、僕に抱きつく鷲宮先輩の体が重くなった。
僕の頭は、再び一瞬にして冷めた。
「鷲宮先輩!先輩」
先輩の体を抱き抱えて名前を呼ぶが返事がない。
僕は慌てて、先輩を抱えたままサウナから出る
冷えた空気が肌と肺に心地がいいが、焦げ臭いが鼻をつく。
よく見るとうっすらと煙が漂っているように見える。
[近隣店舗にて火災が発生。
ご利用中のお客様は、直ちに従業員の指示に従い避難してください]
サウナの中とは桁違いに大きな音で館内放送が鳴り響く。
この個室には、従業員の姿は見えない。
僕は、鷲宮先輩を抱えたまま更衣室に向かう。
本当は汗を流したかったが、そんな暇はない。
更衣室の椅子に鷲宮先輩を寝かせて、飲みかけのドリンクを口に持っていく。
「飲めますか?」
僕が問うと、鷲宮先輩が小さく頷いた。
僕は、ドリンクが入ったボトルを鷲宮先輩の口につけ、ゆっくりと傾ける。
口の端からいくらか漏れてしまったが、鷲宮先輩の喉が動き水分をカラダに入れることには成功した。
鷲宮先輩の体は赤く火照ったままだが、表情は幾分かマシになった。
だが、以前ぐったりとしていて体を動かすことは難しいだろう。
レンタル品の中からバスタオルを取り出し、鷲宮先輩の体を拭う。
タオル越しに先輩の体を触ることになるが、今は非常事態なので許してもらおう。
あらかた水分を取り終えたら、水着の上から僕のジャージを着せる。
下着類を着せる時間はないので、半袖の運動着と長袖のジャージ、長ズボンを力の抜けた鷲宮先輩の体に通していく。
なんとか着せ替えが終わった頃には、更衣室に充満する煙の量が増え、視界がどんどんと悪くなってきた。
心なしか息苦しい気がする。
僕は自分の着替えを諦め、鷲宮先輩の口にハンドタオルを巻きつけたあと、その先輩を背中に担ぐ。
力が抜けているせいでずしんと思いさな体を支えながら、個室を出る。
従業員の指示に従えと言うアナウンスはずっと流れているが、その従業員が見当たらない。
もしかしたらもう既に逃げてしまったのかもしれない。
どうやら、緊急時のオペレーションは、改善の余地がありそうだ。
プレオープンということもあり、客も少なかったのだろう。
サウナでの周辺は人の影がなく、がらんとしている。
個室を出た僕は、鷲宮先輩を担いだまま受付の方へ向かう。
受付には手荷物を預けたロッカーがある。
そのロッカーには、スマホや財布が入っているが、今それを回収する暇はなさそうだ。
泣く泣く諦めて出口へ向かおうとすると。
ドンドンドンドン
何かを叩くけたたましい音が響いた。
驚いて音がする方を見ると、そこには人影がなく手荷物用のロッカーがけが鎮座していた。
ドンドンドンドン
そのロッカーの右中段。
一つのロッカーの内側から、何かが跳ね回るような音がしている。
それは、僕が手荷物を預けたロッカーだった。




