第7話【鷲宮みずき 男性水着サウナチャレンジ】①★★☆
店員さんが入れ間違えたのか?
男性用水着を手に持ったまま、僕はこれがここにある意味を考えようとした。
今日はプレオープン。オペレーションミスはあり得る話だ。
だが,あの店員はたどたどしい接客ではあったが、マニュアルを確認しながら一つ一つのタスクを順にこなしていた。
あの姿からは、単に水着を入れ間違えるというミスは考えずらい。
ミスではない可能性はないか?
僕は受付の時の様子を思い出す。
あの時、話していたのは僕と店員さんだけで、鷲宮先輩は声を出していない。
そしてその時の鷲宮先輩の格好。
元々のボーイッシュな見た目に加えて、僕のジャージを着ていたせいでいつもよりの体の線が見えず、性別が分かりづらくなってきた。
店員さんはプレオープンということもあり、僕らに店のルールを説明する間、ずっとマニュアルを見ていたので僕らのことはあまり見ていない。
思い出せば思い出すほど、鷲宮先輩が男性に間違われたという可能性が高い事に気づく。
ガチャ
トイレの扉が開き鷲宮先輩が出てくる。
先輩の目が、僕と僕が手に持つ水着に向かう。
水着と僕
鷲宮先輩の視線が交互に揺れ動く。
初めは怪訝な顔をしていた先輩だったが、徐々に徐々に顔が赤くなっていく。
表情から読み取れる感情は、おそらく怒りと羞恥。
鷲宮先輩も、僕と同じ結論に至ったようだ。
すなわち、店員さんに男性に間違われた、という結論に。
揺れ動いていた鷲宮先輩の目線が僕の方を見て止まる。
数秒、僕らは見つめ合った。
先に動いたのは、僕だった。
「すぐに取り替えてもらってきます」
「待って」
男性用水着を持って駆け出そうとした僕を鷲宮先輩が引き止める。
「もし私が女だったて分かったら、利用を止められたりしないかな」
鷲宮先輩の心配はもっともだ。
僕だって初めは高校生の男女ペアが個室サウナの利用を許可された事を不思議に思っていた。
蓋を開けてみればなんのことはない、鷲宮先輩が男に間違われていたからこそ、スムーズに利用許可が降りたのだ。
このタイミングで、実は片方は女性なので水着を変えてください。なんて言えば、
「多分、使えないと思います」
「そうだよね。
私が男に間違われてるから、二人で入れてるんだよね」
鷲宮先輩は、しばらく考え込むように目を瞑った。
そして、
「交換しなくていい。私その水着を使うから」
覚悟を決めた目でそう言った。
鷲宮先輩の選択に、僕はひどく動揺した。
「使うって、これですよ?
僕が今履いてるのと同じものですよ?
これじゃあ胸は……」
胸は隠せない。
鷲宮先輩の控えめは、でも間違いなく女の子の胸。
今手元にある水着では、そこの防御力はゼロだ。
「手で隠せば大丈夫
どうせ、私の胸は手のひらサイズだし」
鷲宮先輩は、そういって僕の手から水着を取ると更衣室に向かう。
「山田は私のことそういう目で見ないんでしょ?
だったら、この水着でも大丈夫」
僕はその背中を引き止めることができなかった。
鷲宮先輩が更衣室に入り、また一人になって考える。
これは一体何が起こっているのか?
僕は今朝、『少し叡智な魔法の使い方』を使って【ラッキーすけべになる魔法】を使った。
その効果のおかげか、朝から半裸姿のOLお姉さんを助けるというハプニングに巻き込まれた。
ここまでは、いい。
問題はここからだ。
鷲宮先輩とのこの一連の流れは、果たしてラッキーすけべなのか?
先輩がコーヒーをかけられるところまではラッキーすけべ感があった。
だが、普通ならそこで下着が透けておしまい。になりそうなものだ。
ラッキーすけべとは、そういった即効性のある刹那的なすけべのはずだ。
翻って今の状況はどうだ?
確かにすけべな状況ではあるし、チケットをもらったり店員に性別を間違えられたり、ラッキーの要素も多い。
だがそれ以上に、鷲宮先輩の意思が強く介在しているように感じる。
どこかのタイミングで、「やっぱりやめた」と鷲宮先輩が一言いれば、この状況はあり得ない。
鷲宮先輩の意思決定にも魔法が作用しているのかもしれないし、していないかもしれない。
今の僕には何も分からなかった。
ただ一つ確かなのは、ロッカーに預けてしまったため、今手元に魔導書がなく魔法が使えないということ。
僕はこの難所を魔法なしで乗り越えなければならないということだ。
そんな事を考えていると、更衣室にの扉が開く。
扉の奥には、上半身裸の鷲宮先輩が立っていた。
「あんまりジロジロ見るな」
扉を開けるために右手を使っているので、左の腕で胸を隠している。
これまで散々と煽ってきたくせに、いざその姿で僕の前に出るとなると相当に恥ずかしいらしく、扉を開けて出てくるだけの動作が異様にぎこちない。
鷲宮先輩は、胸を必死に隠している。
手のひらで隠せる右の胸は上手く隠せていたが、腕で隠さなければならない左の胸は難しいらしく、男の子と見間違えそうなほどささやかな胸の、真ん中のシンボルがチラチラと見えていた。
胸の膨らみ自体はささやかながら、そのシンボルの形は彼女の体が女性のものである事を雄弁に語っていた。
それを見た瞬間、僕の中の何かが切れた。
感覚を遮断する魔法を使っていた森崎先輩の太ももに手を伸ばした時に近い感覚だが、その時よりも冷静だ。
ただ、鷲宮先輩の体に明確に興奮を覚えている事を自覚した。
そして、鷲宮先輩が恥ずかしがる姿をもっともっと見たいと欲している自分の欲を自覚した。
ただそれだけだった。
過去の関係値とかこれからの関係とか、そういうのは関係ない。
森崎先輩に、大神達にやってきたのと同じ熱量でこの人ともエッチなことがしたい。
その思いに、心と脳が支配されていく。
鷲宮先輩に抱いていた遠慮は、綺麗さっぱり無くなっていた。




