第6話【鷲宮みずき_ラッキーすけべになる魔法】⑥★☆☆
「本当にごめんなさいね。
下のクリーニング屋さんに聞いたら、なんとか今日中に仕上げられるって言ってたから、なんとかそれで勘弁してちょうだい」
職員さんは、さっきから平謝りしている。
「いえいえ、本当にお気になさらず。
それよりもクリーニング代まで出していただいてすみません」
体操服姿の鷲宮先輩が、職員さんを宥める。
体操服姿といっても、コーヒーのシミはどこにもない。
鷲宮先輩が着ているのは、僕の体操服だ。
流石に濡れた体操服のままでは風邪をひきかねないので、僕がすぐに制服に着替え、脱いだ体操服を鷲宮先輩に貸している。
僕の脱ぎたての服を着てもらうのは、流石に申し訳ないかなと思ったが、鷲宮先輩は特に何も言わずに着替えた。
「17時には帰ってくるそうなので、あと……5時間はあるわね…」
職員さんは時計を見て項垂れる。
着替えたとはいえ、コーヒーを被った髪の毛はタオルです拭っただけなので、このまま5時間待機というのは少し厳しいものがある。
まぁそれでも、当日急にコーヒーまみれになった制服が綺麗になるというのはすごいのだが。
「あ、そうだ、あれがあった」
項垂れていた職員さんは、そう言うと控え室を飛び出していき、数分後にチケットのようなものを持って帰ってきた。
「隣のショッピングモールに、新しく入浴施設ができたそうなの。
来週本オープンなんだけど、実は今週からプレオープンしてるの。で、そこのプレオープンの無料チケットがこの前配られてたのを思い出して!」
そう言ってチケットを鷲宮先輩に渡した。
「災難でしたね」
職員さんがいなくなってから、僕は鷲宮先輩に話しかけた。
「まぁしょうがないわよ。あの人もわざとじゃないわけだし。
それに、入浴施設の無料券までもらえるなんて、ボランティアに来たのにこんなに得しちゃって悪いくらいよ」
鷲宮先輩は、あっけらかんとしてそう言うと、もらったばかりのチケットに目を落とす。
「あ!このチケット二人まで利用可だって。
せっかくだし、山田も一緒にどう?」
入浴施設というと、銭湯のようなものだろうか?
僕には幸いな事にコーヒーはかからなかったが、子供達と遊んでそれなりに汗をかいている。
ただで温泉に入れるなら、断る理由はない。
「喜んでお供しますよ」
僕らは、キッズルームの控え室を後にし、プレオープン中という入浴施設に向かった。
このときの判断が僕と鷲宮先輩の関係を決定的に変える事になるのだが、僕がその事を知るのは全てが終わった後のことだった。
「ここ、よね」
「ここ、ですね」
僕と鷲宮先輩は、チケットに書かれていたマップを頼りに、ショッピングモールの端にある施設の前まで来ていた。
完全個室saunaNERO
そこにあったのは、想像していたスーパー銭湯的な施設ではなく、間接照明を多用し全体的にアダルティな雰囲気を醸し出す、個室サウナだった。
ショッピングモールのメインエリアから離れているためか、はたまたまだプレオープンだからなのか、周囲に人影がなく、ショッピングモール内と思えないくらい静かだった。
「個室サウナって書いてありますよ」
「個室サウナって書いてるね」
個室ということはつまり、鷲宮先輩の持っているチケットで一つの個室サウナを貸し切るということだろう。
チケットの人数制限も、その貸切サウナに入ることができる人の数ということになる。
それはつまり、個室サウナに僕と鷲宮先輩の二人で入ることになるということか?
おそらく、鷲宮先輩も同じタイミングで同じ事を考えたのだろう、お互いにお互いの顔を見つめ合い目線が交差する。
「僕は遠慮しておきます」
「まぁ待て」
体を一歩引こうとしたところを、鷲宮先輩に捕まれる。
「こういう所って、サウナといっても水着を着て入るんだろ?ほら、入り口にも書いてある。
それに、水着はレンタルできるって」
鷲宮先輩の言う通り、お店の前には水着を着た女性がサウナに入っている写真が掲示されている。
ビキニタイプではなく、ワンピース型の水着でスクール水着よりも露出面積は少なそうだ。
「けど、こういう密室みたいなところに男女で入るというのは……」
「山田は私にそんな気は無いなら、間違いも起きないんじゃ無いのか?
私だって、山田のことはなんとも思ってないから、こう言うところに入るのだって気にしないよ」
さっきの発言を根に持っているのか、鷲宮先輩は強気で言い寄ってくる。
明らかに、動揺している僕を揶揄って楽しんでいる雰囲気を感じる。
そして、僕も僕で、何故かさっきから動揺が止まらない。
森崎先輩に目の前でオムツに着替えさせたり。
大神達のいろんな部位を触ったり。
半裸のお姉さんを抱き抱えて階段を登ったり。
ここ数日の間に、僕は様々なエッチな事を経験してきた。
鷲宮先輩とはいえ、女性と二人で個室サウナに入れるチャンスが目の前にあるのだから、むしろ自分から掴みに行ってもいいものを、どうしても尻込みしてしまう。
「いや、僕らは良くても、お店的にNGだったりするんじゃないかなぁと」
僕の言葉に、鷲宮先輩が「確かに」と頷く。
そうだ、普通に考えて、個室サウナに男女ペアの高校生が入ろうとしても、良くて入店拒否、下手をすれば高校に連絡がいってしまうだろう。
密室のサウナに高校生の男女が二人とか、『少し叡智な魔法の使い方』がなくてもエッチな事になるに決まっている。
「じゃあお店の人に聞いてきて」
「僕がですか?」
「こういうのは男が動くもの」
「そういうの令和の時代に馴染まないですよ」
僕は、鷲宮先輩の指示に従って、職員さんから貰ったチケットを持って受付に向かった。
どうせ断られる、と思いつつも鷲宮先輩の視線の圧が強かったので、コーヒーをかけられ関係者用のチケットをもらった経緯を含めて説明したうえで、サウナを利用できないか聞いてみた。
その結果、
「いいですよ。二名様で、お二人とも水着はレンタルですね」
あっけないほど簡単に入店は許可された。




