第6話【鷲宮みずき_ラッキーすけべになる魔法】③★★☆
「久しぶりにお洗濯を外で干せるわ〜」
「ほんとにねー」
「梅雨が明けたのはいいけどもうすぐ夏休み。
今年は学童受かるといいんだけど」
下の階から上がってきた主婦たちが、そんな会話をしながら上がっていく。
僕は、三階の階段入り口の前でほっと息をついた。
主婦たちが、三階の住人だった場合、半裸のOLを抱き抱えて通路に座り込む男子高校生を目撃される羽目になっていた。
最終手段として【取るに足らない存在になる魔法】準備はしていたが、できれば人の目があるところで魔法は使いたくない。
「とりあえず、急場はしのぎましたね」
僕は、腕の中で震える女性に声をかける。
休みの日に会社があると勘違いをして、服も満足に身につけないまま家を飛び出したおっちょこちょいの腰の抜けたお姉さんを、僕はお姫様抱っこでここまで連れてきた。
途中、胸やお尻に触れてしまったが、この緊急事態のことなので多めに見てもらおう。
「ありがとうございます」
お姉さんは、小さくお礼の言葉を口にする。
お姫様抱っこをしているので当然なのだが、顔と顔の距離が近い。お姉さんは、化粧をしておらず髪の毛もボサボサのままだったが、それでも美人であることがわかるほど整った顔立ちをしている。
この距離で見つめ合うと照れてしまう。
だが、容易に目線を外すことはできない。
なぜなら、その下には、大きな果実が二つも実っており、ピンクのブラジャー一枚でしか守られていないそれが、視界の端で踊っているからだ。
気を抜くと、目がそこに吸い寄せられる。
ここ最近、『少し叡智な魔法の使い方』のおかげで、女性の体に触れる機会が増えている。
クラスメイトのおっぱいだって触ったことがある。
だが、その経験を持ってしても、目の前の光景の破壊力は桁違いなものだった。
これまで触れてきたのは、あくまでも実りかけの果実だったのだということがよく理解できた。
大きさはもちろんのこと、そんな大きなものが二つついていても、決してアンバランスに見えないプロポーションは、大人の女性でないと成り立たない。
まぁ、マンションの公共部で半裸姿のまま高校生に抱っこされて泣きじゃくるこのお姉さんが、大人の女性であるかは議論の余地があるが。
「立てますか?」
僕の問いに、お姉さんは首を横に張って意思表示する。
「分かりました。
もしよろしければ、このまま部屋まで送りますよ」
高校生とはいえ、男には部屋を知られたくないかなと心配して聞いてみたが、特に気にする様子はなく
「405号室です。何から何まですみません」
そう言って、僕にしがみついている腕の力をわずかに強めた。
一つ上の階であれば、非力な僕でもなんとか連れていけるだろう。
階段の様子を観察し、人が来ていないことを確認してから僕は階段を登り始めた。
さっきまでの、お姉さんに押し倒されているシーンを目撃されたなら逮捕されるのはおそらくお姉さんだっただろう。
では、この状況を誰かに目撃されてたら、果たしてどちらが通報されるだろうか。
おそらく両方だろう。
そんな事にならないよう、僕は運動不足な体に鞭打って懸命に階段を登る。
しかしながら、と、階段を登りながらあらためて腕の中のお姉さんを見る。
こんな格好の綺麗な女性が降ってくるなんて、おそらく【ラッキーすけべになる魔法】の効果だとは思う。
だが、一体どこまでが魔法の効果なのだろうか
お姉さんが深酒をした昨日の段階では魔法を使っていない。お姉さんが起きたのは魔法を使った後だが、多分寝坊が確定したのは魔法を使う前だ。
半裸の姿で家を飛び出し、あの階段で躓いたのは魔法を使った後。
突風が吹いてスカートが捲れたり、バランスを崩したことで偶然胸を触ってしまったり、たまたま着替えシーンを目撃してしまったり。
僕がイメージしていたのは、もっと刹那的なラッキーすけべだ。
今回の場合、お姉さんが躓いて僕の上に落ちてくるというのは、テンプレートなラッキーすけべと言っていい。
問題は、下着姿にジャケットを羽織りストッキングを履いただけという、それそのものが羞恥心を掻き立てるような格好で落ちてきたことだ。
もしかして、この格好は魔法の影響ではないのかもしれない。
だとしたらこの人は、相当なおっちょこちょいだ。
初めて使う魔法は、その効果の範囲がどれくらいなのか分かりづらい。
今日一日はラッキーすけべが継続するはずなので、他のラッキーすけべと比較して判断しよう。
そんな事を考えながら歩いていると、405号室の前に到着した。
階段に比べ、部屋前の通路は一本道で見晴らしもいい。
できるだけ早く部屋に入らなければ。
「鍵は」
お姉さんに鍵を出して貰おうとしかけたところで、もしやと思いドアノブを回すと、思った通り鍵はかかっていなかった。
この格好で部屋を飛び出して、鍵をかけていたらそっちの方が驚きだ。
お姫様抱っこのまま扉を開けるのには苦労したが、なんとか体を部屋に滑り込ませる。
部屋に入った瞬間、お姉さんを床に降ろす。
かなり体力の限界が近かったので、投げ出す、というほど乱暴ではなく、だが、本物のお姫様を扱うほど丁寧でもない、ほどほどに雑なおろし方になってしまった。
お姉さんは、床に尻餅をつきながら手を後ろについて体を支える。
足を僕の方に投げだし、両膝は少し曲がっている。
その姿は、山の浅いM字開脚のように見える。
カーテンが閉め切られているのか、薄暗い室内。
さっきまでの公共部とは異なり、密室空間に半裸のお姉さんと二人。
その状況の異常さに、脳が一瞬で沸騰する。
が、ここで本能に身を任せるとどういう目に遭うか、ぼくは学習済みだ。
「それじゃあ僕はこれで!」
お姉さんのカラダに後ろ髪を引かれながら、扉を開けて再び外に出る。
「待って、お礼を!
名前とあとお部屋を教えてくれませんか」
後ろからお姉さんの声が呼び止める。
一瞬、名乗るほどのものではない、と言って立ち去ろうかという考えがよぎるが、僕がやっても様にならないし、このお姉さんとの縁は繋いでおきたいと思い踏みとどまる。
僕は、名前と部屋番号を告げて、今度こそ部屋を出た。
部屋を出る直前まで、お姉さんのカラダをよく観察し、大人の女性の細部までを目に焼き付けた。




