第4話【花澤みつき_爪に火を灯す魔法】②☆☆☆
「あなた魔法使いでしょ」
「あなたまほうつかいでしょ」
「アナタマホウツカイデショ」
「ANATA MAHOUTUKAI DESHO」
花澤さんの言葉が頭の中でリフレインする。
頭の中で繰り返しされる度に、その言葉は輪郭をなくし、意味を持たないただの音になる。
僕は何を聞かれているんだ?
頭痛の続く頭では、一度意味をなくした音を再構成する事もできない。
「えっと……」
何か話さなければと思ったが、言葉が続かない。
口が情けなく半開きの形で固まる。
「じゃあ聞き方を変えるわ。
あなたこの本を使って魔法を使ったでしょ」
フリーズした僕の姿に若干の苛立ちを見せながら、花澤さんは質問のニュアンスを変えてきた。
そしてそれは、彼女が手に持つ本がどう言ったものなのかを理解している人間にしか出せない質問だった。
今度は、なんとか質問の意図を頭が理解した。
僕は動きが鈍い脳みそをなんとか働かせて、彼女がこの質問をするに至った経緯を推測する。
そうだ、僕が初めて『少し叡智な魔法の使い方」と出会った時を思い出せ。
僕はあの時、本に触れただけで見たことのない文字をスラスラと読むことができた。
そのおかげで、『少し叡智な魔法の使い方』が魔導書であることを知れたのだ。
花澤さんも同じなのではないか?
僕はこれまで魔法を使う時は、極力『少し叡智な魔法の使い方』を取り出すことはせず、バックの中など人目につかないところで使用してきた。
それは、第三者が僕と同じようにこの未知の文字で書かれた魔導書を解読することができ、僕がやっていることを知られてしまうリスクを回避するためだった。
その懸念が現実のものになったということだろうか?
「君はその本に書かれていることが読めるのか?」
僕は、花澤さんに倣って真っ向から訊ねた。
だが、花澤さんの返答は予想とは違った。
「この本は読めないわ。けど、これがどう言う類のアイテムかは知っているわ」
「この本は?」
「そうね、もっと話を簡潔に進めるにはこれを見せたほうが早かったわね」
花澤さんはそうつぶやくと、再度カバンを開き中を漁る。
数秒の後、花澤さんが取り出したのは見たことのない文字で書かれた分厚い本だった。
最近の出版物ではまず見られない豪華な装丁。
その見た目には、見覚えがある。
「僕の本……じゃない!
『科学的魔法学入門』?」
花澤さんが取り出した本は、『少し叡智な魔法の使い方』とそっくりな見た目をしていた。
使われている文字は相変わらず読めないが、同種の言語であることは容易に判別できる。
『少し叡智な魔法の使い方』同様、見たことがない文字で書かれているので当然読むことができないはずなのに、目で見ただけでそこに書かれている情報が頭に流れ込んできた。
その本の表紙には『科学的魔法学入門』と書かれているらしい。
「やっぱり。あなたはこの本の文字も読めるのね」
それまでは、苛立ちを隠そうともしていなかった花澤さんが、僕が本のタイトルを口に出したことでその苛立ちを抑え、逆に目論見通りと言った様子で笑う。
花澤さんの笑った顔を見て、僕は自分が墓穴を掘ったことに気づく。
「あ、いや、いまのは、その……」
「もうそういうまどろっこしいのはいいから。
あなたがどう言葉を取り繕うが、この本の文字を読める時点で、私にとっては同じこと。
やっぱりあなた、魔法を使えるのね」
使えない頭をフル回転してここからの挽回策を練るが、失策を積み重ねているここからでは、どう足掻いても逃げきれなさそうだ。
それに、『少し叡智な魔法の使い方』が花澤さんの手にある時点で僕の勝ち目は無かったのだ。
万全の状態ならいざ知らず、体も満足に動かせない今の状態では力ずくで奪い返す事もできない。
「動画を撮って、本も取って、一体何が目的なんだ?
僕を脅したところで何も出ないぞ」
「脅すだなんて人が気が悪いわね。
私はただあなたとお話がしたかっただけ。
あなたには協力して欲しいことがあるの」
花澤さんは、今日一番の笑顔を見せてそう言った。
「協力?」
「そう、もし協力してくれるならあなたの本は返すし動画も消してあげるわ」
花澤さんの申し出は願ってもないものだった。
だが、だからこそ僕は警戒した。
そもそも、『少し叡智な魔法の使い方』と同じ異世界からやってきた魔導書が他にもあったことが驚きだ。
その上、それを同じ高校の生徒が持っている事も。
そして、その魔導書を持つ者が他の魔導書を持つ者へ接触を測ろうとする目的もわからない。
花澤さんの目的がなんなのかがわからなければ、何も信用することができない。
異世界からやってきた魔導書のとんでもない力については、この僕が身をもって経験している。
『科学的魔法学入門』というタイトルの魔導書がどの程度の魔法について記載しているかはわからないが、タイトルの印象だけで言えば、『少し叡智な魔法の使い方』より学術的な内容が記載されてそうだ。まぁ、それも憶測に過ぎない。
だいたい科学的魔法とはなんだ?
科学的な魔法なんてあるのか?
疑問が後から後から溢れてくる。
だが、これらは僕一人で考えても埒があかない問題だ。
そんな時は、ウジウジと考えずに素直に聞くのが問題解決の近道だろう。
「で、僕は何をすればいいのかな?」
単刀直入にそう尋ねると、花澤さんはニヤッと笑って言った。
「その前に確かめることがあるわ」
花澤さんは『科学的魔法学入門』を僕に手渡す。
「その本を読んで。
そして、どれでもいいから魔法を使って見せて」




