第3話【森崎千紗_感覚を遮断する魔法(低級)】⑤★★★
【取るに足らない存在になる魔法】
他人にとって取るに足らない存在となり、認識されづらくなる魔法。
透明化などと違い、あくまで認識されづらくなるだけなので極端な音や匂いを放つ、第三者に強く触れるなど目立つ行為をすると認識されるようになる。
また魔法を使用する瞬間に第三者に強く視認されている場合、そのものには認識される。
他の多くの魔法と違い、術者本人にかける事が可能。
他人にかけることもできるが、その場合術者本人には被術者のことが認識できる。
僕は自分の席に戻って、森崎先輩の様子を観察する。
【感覚を遮断する魔法】を使った事で、下半身の感覚が遮断されている森崎先輩は、上半身だけが浮いた状態で勉強しているように感じるはずだ。
不要な情報や刺激が脳に入らず、非常に集中した状態で勉強ができているはずだ。
森崎先輩は普段集中して勉強する事が難しいと話していたので、この時間は貴重なはずだ。
森崎先輩が勉強に集中しているので僕も一息、と言いたいところだが、今日は試したい魔法がもう一つある。
既に図書準備室でのやり取りでお腹いっぱいという感じだが、魔法を使える機会は多いようで少ないので試せる時に一気に試してしまいたい。
僕は『少し叡智な魔法使い方』の目当てのページを開く。
【取るに足らない存在になる魔法】
そのページには、こんな名前の魔法が載っている。
この魔法は、『少し叡智な魔法の使い方』を手に入れた時からチェックしていたものだ。
なんせこれは、全男性の夢である透明人間になれるような効果を持っているからだ。
透明人間というよりも、某ロボットアニメに出てくる石ころ帽子に近いか?
透明になるのではなく、認識されづらくなるという効果が分かりづらく、どの程度の効力があるのかもわからない。
だからこそ一度試しておく必要があると思っていた。
もし仮にこの魔法をつかって女湯に侵入したとして、あっけなく見つかってしまえば目も当てられない。
(女湯への侵入がR15の範疇か否か問いもあるがそこは一旦目を瞑る)
快適な『少し叡智な魔法の使い方』ライフのためにも、この魔法の効果の程を確認するのは非常に重要なことだ。
僕は早速魔導書に触れてから、この魔法を使いたいと念じる。
いつものように指にピリリと刺激が流れる。
頭に流れ込む情報が、誰を対象に魔法を使うのか?と問うてくる。
(僕を取るに足らない存在にして)
その瞬間、周囲の音が一段階小さくなったように感じた。
これまでどの魔法を使っても、指先への刺激以外に変化を感じることはなかった。
もっとも自分自身に魔法を使ったのが初めてのことなので単純な比較はできないが。
僕はゆっくりと周囲を見渡す。
土曜日の図書室は元々勉強をしている真面目な生徒しかいない。
まだ朝も早い時間ということもあって、誰もがノートや参考書に目を落として集中している。
誰も僕のことなど見ないが、これは魔法を使っていなくても同じだっただろう。
僕はゆっくり立ち上がる。
やはり誰からも注目を集めない。
僕はそのまま歩いて森崎先輩に近づく。
今日はヘッドホンをしていないのでわざと足音をたててみたが、森崎先輩は僕の接近に気づかない。
森崎先輩の手元を見る。
数学の参考書が開かれていて、ノートにかなりのスピードで計算式を書き込んでいる。
インテグラルが見えるので積分の問題なのだろうが、僕がまだ習っていない範囲なので何をやっているのかさっぱりわからない。
僕は森崎先輩の顔の前に手を差し込んで、ふるふると左右に振ってみた。
普通であればどれだけ問題に集中していても確実に気がつくはずだ。
だが、森崎先輩は全く意に介さず、いや無視しているのではなく本当に気がつかないという様子で問題を解き進める。
「森崎先輩」
今度は声を出して呼びかけてみる。
さっきまでのヒソヒソ声ではなく、かなりしっかり目の声量で声をかけた。
大声というほどではないが、図書室という場所を考えると明らかにTPOを弁えていないその声にも森崎先輩は反応しない。
周囲の生徒も同様だ。
勉強の妨げになる、と眉を顰めるような人もいない。
僕は思い切って森崎先輩の体に触れる事にした。
森崎先輩の肩に触れる。
反応はない。
手を肩から背中に滑らせる。
やはり反応はない。
夏服の薄い生地越しに、森崎先輩の下着の形がはっきりと伝わってくる。
女性の下着については詳しくないが、背中にホックのような物があるのがわかる。
僕はそこから下着の形に沿うように脇の方へと手を動かす。
すると今まで集中していた森崎先輩がくすぐったそうに体をくねらせた。
僕は慌てて手を離す。
森崎先輩はさっきまで僕が触れていた脇の辺りを触り、少し爪を立てて掻くとまた問題に集中し始めた。
もう一度顔の前で手を振るが反応はない。
まだ僕の存在には気が付いていないようだ。
どうやら"僕という存在"はかなり認識されづらいようだが、"僕が行動した結果"についてはあまり認識阻害の効果が無いようだ。
あくまでも、僕という個人の存在感を薄くする魔法であって、森崎先輩の脇の触覚には作用していないという事だ。
この魔法を使って好き勝手体を触るということは、どうやらできないらしい。
と、そこまで考えたところで、僕の中に邪なアイデアが浮かんだ。
【取るに足らない存在になる魔法】だけでは無理でも、他の魔法と組み合わせればもっとすごいことができるのではないか?
僕は、集中して勉強する森崎先輩の正面に移動する。
音を立てないように、正面にあった椅子を退けて机の下に潜り込む。
僕のこの奇行を咎める人はいない。
僕は森崎先輩のスカートの目の前で胡座をかいて床に座る。
腰を落ち着けて、一度冷静な頭で今の状況を確認する。
【取るに足らない存在になる魔法】で、今は僕は誰からも認識されない。
【感覚を遮断する魔法】で、森崎先輩の下半身の感覚は遮断されている。
ごくっ
喉が渇いた気がして生唾を飲み込む。
だが喉の渇きは癒えず、逆に乾くばかりだった。




