第3話【森崎千紗_感覚を遮断する魔法(低級)】②★☆☆
「これ、この前お借りした体操服です。
あと、お詫びと言ってはなんなんだけど、うちの近所のケーキ屋さんの焼き菓子です。とっても美味しいの」
森崎先輩は、申し訳なさそうに肩を丸めて紙袋に入った体操服と洋菓子を差し出してきた。
ここは、図書準備室。
僕が『少し叡智な魔法の使い方』を見つけた閉架書庫を兼ねた部屋だ。
人が多いので気兼ねなく話をするために、と僕が誘った。
鍵は予め職員室で借りていて、今は内側から鍵を閉めているので第三者に邪魔される心配もない。
「そんな、お気遣いいただかなくてもよかったのに」
「そんなわけにはいかないです。
山田くんには、体操服を貸してもらったばかりが私の粗相の後始末までしてもらって、さらにその事を黙ってもらっているんですから」
森崎先輩は、先週この図書室でお漏らしをした。
きっかけは僕の魔法ではあるが、僕はあくまでも尿意を催させただけ。
漏らすまでトイレに行かなかったのは森崎先輩だ。
森崎先輩は、図書室で漏らしたことが先生にバレて図書室の利用を禁止される事を恐れている。
僕は、森崎先輩に頼まれて先週の事を秘密にする約束を交わしている。
森崎先輩には申し訳ないが、今回はこの弱みを活用させていただく。
「その事なんですけどね。
僕としても森崎先輩が図書室を使えなくなるようなことにはなってほしくないんですよ。
けどやっぱり、先週みたいな事が繰り返されるのも良くないと思うわけです」
僕の言葉に森崎先輩が顔を俯ける。
「もうあんな事はしません!って私が口で言っても信用ないですよね」
「そうですね。だから出来れば行動で示してください」
僕はそう言ってカバンから用意していたものを取り出す。
「それは……」
僕が取り出したそれを見て、森崎先輩が固まる。
「今日はこれを履いて勉強してくれませんか?」
「え、でも、それってオムツですよね?」
「そうですオムツです」
僕が取り出したのは成人用のオムツ。
成人用といってもサイズが大きいだけで赤ちゃんが履くオムツと見た目は全く変わらない。
「い、嫌です!恥ずかしい」
森崎先輩は数秒フリーズした後、自分が何を要求されてるかを理解してブンブンと首を振った。
まぁ正常な反応だろう。
僕はあえてまだ魔法を使っていない。
このまま、魔法を使わずにどこまでいけるかを試してみる。
「けど、もう漏らさないと口で言われても、はいそうですか、とはならないじゃないですか?
本当にもう漏らさないかどうかを確かめるためにも、これを履いて一日勉強をしてもらうのがいいと思うんです?」
「だからってこんな、山本くんって優しい人だと思っていたのに、こんな変態さんだったんですね」
「変態だなんてショックだなぁ。
僕はただ、先週の事を秘密にしたまま森崎先輩にもう一度図書室を使ってもらうためにはどうしたらいいかを考えただけですよ?」
「そのお気持ちは嬉しいんですが、流石にそれを履くというのは」
なんだか魔法がなくても押し通せてしまいそうだ。
チョロすぎないか?森崎先輩。
変なモラハラDV男に捕まって不幸な目に遭わないか心配になる。
もう少し魔法なしで押し通してみてもいいが、他にも試してみたい事がある。
次は魔法ありで言いくるめてみよう。
「まぁ、まずはこれがどんなものかちゃんとご自身で確認してみてください。普通の薬局で売ってる普通の商品ですよ」
僕がオムツを差し出すと森崎先輩はじっくりとそれを見つめる。
なんというか、森崎先輩は生真面目なところがある。
普通この状況でオムツを手渡されても、履く気がなければそんなに真剣に確認したりしないだろう。
だが今回はその生真面目さが好都合。
僕はその隙に、『少し叡智な魔法の使い方』に手を触れる。
本は予め、【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】のページを開いている。
魔法を使いたいと心の中で念じる。直後、本に触れる指先がビリリと痺れた。
さて、魔法を使っだ場合はどうなるか?
「改めていいますが、僕は森崎先輩に安心して図書室を使ってもらうためにこの提案をしています。 これを履いてくれますね」
「そうですよね!山田くんは私のために色々と考えてくれて、これだって私が万が一お漏らしをしてもいいようにわざわざ買ってきてくれたんですよね。
それなのに私はなんで履かないだなんてワガママを。
本当にお恥ずかしい限りです。
このオムツは喜んで履かせてもらいます」
なんと森崎先輩は、喜んでオムツを履くという。
あまりの豹変っぷりに逆にこちらがたじろぐ。
「本当にいいんですか?」
「はい!むしろ感服しました。
私がお漏らしはもうしませんと口で何度言ったところで無意味ですよね。
信用を勝ち得るには実際にお漏らししない事を見せつけないといけない。けど、こんな私がなんの対策もなく図書室を使ってしまうと万が一もう一度漏らした場合に山田さんの立場をも危うくしてしまいます。
だから信用を勝ち得るまではオムツを履く。
これは素晴らしいアイデアです」
森崎先輩はこちらが言っていない理屈まで持ち出して今回のオムツの件を正当化してくれる。
流石に効きすぎて笑えてくる。
まずは第一関門突破だ。
ここからは魔法を使った状態でどこまで無茶な理屈を言いくるめられるかのテストをしよう。
森崎先輩にはこの魔法が聴きすぎている気がするので一般的なデータにはならないかもしれないが、まぁこの際それはどうでもいい。
今の僕の頭の中は、目の前の女性がどれだけ理不尽な要求に答えてくれるのかという期待で満ち溢れていた。
僕は興奮を落ち着かせながら、森崎先輩に言う。
「じゃあ早速着替えてください。
ここなら人も来ないので、今ここで着替えちゃってください」




