第3話【森崎千紗_感覚を遮断する魔法(低級)】①☆☆☆
掃除当番の週を無事に(?)終えた週末、僕は土曜日にもかかわらず高校に来ていた。
普段と違い人のまばらな校舎は、平日とは別の空気を纏っているように見える。
休みの朝特有のこの空気を、僕は気に入っていた。
とはいえ、休みの日も学校に来て勉強するほど真面目な生徒でもなく、部活動に参加しているわけでもない僕は、その空気を味わうためだけにわざわざ登校するほどの物好きでもない。
今日の目的は別にある。
ポケットに入れていたスマホが震える。
僕はスマホを取り出してメッセージアプリを表示する。
[ごめんなさい、弟たちの世話をしていたら出発が遅くなりました。
10分ほど遅れます]
メッセージの相手は、コメントの後に可愛いキャラクターが土下座しているスタンプを送ってきた。
[わかりました。先に図書室に行っているのでついたら声をかけてください]
僕は返事を打って校舎へと向かう。
メッセージの相手は森崎先輩。
一週間前、二人きりの図書室でおしっこを漏らしていたあの先輩だ。
森崎先輩からメッセージが入ったのは、今週の月曜日。
大神たちとの初日の掃除を終えて帰宅後、ひとしきり一人活動をした後のことだった。
心地よい疲労感と共に午睡を貪ろうとしていたところを、スマホの着信音で邪魔されて少しイラッとしながら開いたメッセージアプリには、先日のお礼と貸していた体操服の洗濯が終わったこと、次の土曜日に図書室を使いたい事が書かれていた。
メッセージを開いた事で、先日の一件を思い出し、疲れ果てていたはずのムクムクが少しだけ起き上がる。
僕は土曜日の図書室の利用に立ち会う旨とその時に体操服を返してもらえればいいという事をメッセージアプリに打ち込みスマホを閉じた。
ただ少し図書室の利用時間を過ぎてしまっただけの森崎先輩にこれ以上意地悪な事をするのは気が引けるが、あらかじめ準備をした上で魔法を使える機会というのはなかなかに得難い。
これまでの二回は突発的な思いつきによる魔法の使用だったので、使ってみたい魔法や各魔法の効果の確認などはほとんどできていない。
森崎先輩には申し訳ないが、僕の魔法力向上のためもう一度だけ被験者になってもらおう。
僕はそのメッセージのやり取りがあってから今日まで、改めて『少し叡智な魔法の使い方』を読み込んだ。
『少し叡智な魔法の使い方』には、それぞれの魔法の効力について書かれているのだが、その内容と実際の効力に違いが見られる場合がある。
例えば【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】
この魔法の説明には、意見が分かれた時の誘導ができるとあるが実際はそれ以上の効力を秘めているように思う。
実際この魔法を使った森崎先輩は、僕の前でパンツを脱いだし、山本は同席していた他の二人がドン引きするような提案にも渋々ながら承諾した。
完全催眠や相手をいいなりにする魔法など、それこそ18禁の漫画に出てくるような絶対的な魔法ではないが、僕がちょっとエッチな悪戯をするのを見逃してもらうのには十分すぎるほどの言いくるめ力が備わっていると思う。
もう一つ、【任意の部位を痒くする魔法】
これも説明には痒みを引き起こすこととそれを解除できることのみが記されている。
だが、実際に引き起こされる痒みは尋常ではないらしい。
安井曰く蚊に刺された時の十倍。
大袈裟に言っているだけかなと思ったが、その後の大神の半狂乱の姿を目の当たりにすると、それがあながち嘘でもないということが分かった。
しかも尋常な痒さに加えて、術者以外が患部を掻いても快感を得られず、術者が触ると猛烈な快感と共に痒みが無くなるという効果があった。
あの後AIに聞いてみたところ、人は痒い部位を引っ掻いた時に生じる痛みによって快感を得るようになっているらしい。
その快感を得られず、尋常じゃない痒みだけが延々に残り続けるというこの魔法は、説明文だけでは計り知れない邪悪性を秘めていると言ってもいいだろう。
このように、『少し叡智な魔法の使い方』に記載された魔法は、その説明文を鵜呑みにしない方がいいものがいくつかある。
まだ使っていない魔法に関しても同じことが言えるだろう。
こればかりは、実際に使ってみてその効果を確かめていく必要があるだろう。
だからこそ、すでに魔法を使ったことがあり、【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】が効きやすいことが分かっている森崎先輩と会えるこのチャンスは非常に重要なのだ。
僕はすでに、今日試す魔法を三つピックアップしている。
一つ目は【多少無茶な理屈を言いくるめる魔法】
森崎先輩はこの魔法の影響下で下半身裸のまま僕の目の前を横切る、という普通ならまずあり得ない行為を行なっている。
高校三年生にもなって人前でおしっこを漏らしてパニックになっていたという状況を差し引いても、多少どころか気なら無茶苦茶な理屈で言いくるめられていた。
今日は、それがどこまで通用するかをより慎重に確認したいと思っている。
そのための小道具も用意している。
果たして森崎先輩はどこまで言いくるめられてくれるのか。想像しただけでムクムクが鎮まらない。
残り二つは初めて使う魔法。
この二つもずっと使ってみたかった魔法なので今からワクワクが止まらない。
そんな事を考えながら歩いているといつのまにか図書室の前まで来ていた。
扉を開けて中に入ると、朝早い時間にも関わらず数人の生徒がすでに勉強を始めていた。
図書委員をしている関係で、ほとんどが顔見知りだ。
本をよく借りる人もいれば、図書室を自習室がわりに使う人もいる。
みんな総じて図書室の利用マナーに従う優良利用者たちだ。
この前のように森崎先輩と二人っきりというわけではないが、今日の趣向を考えるとこの方がいいだろう。
僕は空いてる席を見つけて座ると、文庫本を取り出し森崎先輩が来るのを待った。




