嵐
今月頭はすみません!すっかり投稿してるつもりでいました!これは9/1に公開予定だったお話です!
「ここが記憶結晶にあった場所か…」
あれから1時間ほど歩き回り、ついに見つけた。似たような建物が非常に多く、たどり着くのに非常に苦労した。ピロティとなっている一階に係留できる空間があったので、そこに馬車を止め、二階へと上がった。
「やあやあ、よくぞこの俺の別邸までたどり着いてくれたよ。もう少し掛かると思ってたけれど、流石はマルクが惚れ込んでるだけはある!名探偵になれるよ!君たちはっ!」
足を組んでくつろいでいたヴェルナーが立ち上がり、ずかずかと大股を開けてこちらへと歩いてきた。リリィの快活さをさらに数段押し上げたような、もはや鬱陶しいと感じるぐらいだ。
「さっきも名乗ったが…改めて!俺はヴェルナー・レギア・クリペウス!一応聞くが!クリペウスの名前は知ってるよな?」
「はい!もちろんです!五大貴族だからという理由もありますが、『かいりきアダム』の話は有名ですから!」
ヒュウ、と口笛を鳴らし、ヴェルナーがイサベルを指差す。
「そうそうそれそれ!そのアダムの子孫が俺ってワケ」
「そういえば、なんでお前さんは俺たちのことを知ってるんだ?あの時屋敷にいなかっただろう?」
そうだ、さっきも気になっていたが、彼はエラド騒動の時はデゾルディアの屋敷にはいなかったはずだ。なのになぜか私たちのことを知っている。私たちと行き違ったのだろうか。
「ああ、それはですね。どうやらヴェルナーに父が伝書鳩を送っていたそうなんです。僕らが出てからその日のうちに」
「なるほど…それで…。でもさ、なんでクリペウスの人がここにいるの?ここってクリペウスの領地だっけ?旅行?」
「鋭い質問!」
指を鳴らし、クロエに指差す。
「ここは俺の妻の故郷なんだ。要は俺の義実家があるとこなんだけど、最近何やら海が酷く荒れることがあるらしい。ただのシケじゃなくて、海が怒ってるような、そんな異様な雰囲気だそうなんだ。それで見に来たんだよ」
海が怒ってる?見た時は穏やかでそんな大事になりそうな気配など微塵も感じなかったが、あの姿は束の間の平和というやつなのだろうか。何事もなく海に出られるといいんだが…
「船はどうなんや?出とるんか?」
「一応は出ているけど、いきなり荒れるものだからかなり少ないね。幸運なことに死者は今のところいないけれど転覆事故も起きているそうだからね」
その時、ドタドタと大きな物音を立てて扉が開かれた。血相を変えたびしょ濡れの男が大声で伝令する。
「大変だヴェルナーさん!海が!船が!」
「今行く。マルク、お前たちも一緒に来てくれ」
断る理由もないので、着いていくことにした。大の大人があそこまで慌てるほどなんてよっぽどだ。
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雷響く大雨の中、先導される形で船着場へと向かう。こんな兆候一切なかったはずなのに。
それはまさに凄惨と呼ぶしかなかった。沖合30レアルほどの場所におそらく漁船が浮いているのが見える。乗組員たちが必死になって操舵しているのがうっすらと見えた。奇妙なのはそれを取り囲む雲と海だった。空は真っ黒に染まり、海はかなり波立っているのだが、まるでその船を飲み込まんとするばかりに直上の雲と直下の海には渦巻きが発生していた。
「なんだ…あれ…」
「確かにこれは異常だ…街の方の空を見てみろ」
ヴェルナーに言われるがまま、街の方を振り向いて、ゾッとした。
「なんで…街の切れ目で嵐が消えてんだ…」
まるでこの街だけが独立したかのように綺麗に、ぴたりとそこで嵐が止んでいるのだ。
「あの船の乗組員の数は?」
「3人です!」
「ありがとう。行ってくる」
ヴェルナーは衣服を脱ぎ去り、海へと飛び込んだ。こんな大荒れの海の中飛び込むなんて自殺行為だ。
「何やってるの!?マルク!ヴェルナーを止めなきゃ!」
マルクは首を横に振る。そして落ち着いた声で
「大丈夫、彼なら乗組員全員を助けて戻って来れる。信じて待つんだ」
待つって、そんな悠長なことを言ってる場合かよ。いや…あいつのことを一番知ってるのはマルクだ。何かそう言わせるだけの力があるのだろう。
次の瞬間、一層海が荒れ始め、上空から何かが渦を巻いて船へと降下していくのがはっきりと見えた。
「あかん!竜巻や!」
不気味なほど正確に竜巻は船へと向かっていく。船はあっという間に、なす術なく破壊され、乗組員たちは木片となった船とともに海へと放り出された。衝撃的な光景だった。
「ディジヤ様…どうか…彼らをお守りください…」
イサベルは震えながら静かに祈っていた。誰もが神に縋りたくなるほどに、絶句するしかない光景だった。
船の破壊が終わって数秒も経たないうちに急速に嵐が消えていく。まるで目的を果たしたかのように。あまりにも不自然だ。
「そうだ、ヴェルナーは!?」
目を凝らすと、船の残骸に3人を乗せてヴェルナーはこちらへと泳いで帰還している最中だった。先ほどの光景も目を疑うものだったが、こっちも大概意味がわからないな…




