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アルスストーリア  作者: ればにらのにもの
5章『醒めない夢』
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28/30

久々の客人

挿絵(By みてみん)


イヴェル・クーガへ足を進める私たちは迷いの大森林という森に行手を阻まれた。名前からしてロクでもない森だと思ったが、迂回すると1週間以上もかかってしまう。しかし突っ切れば一日と少し程度とのことだったので満場一致で森へと入った。かなりボロボロだが、石煉瓦で道路舗装がされていたのも決定に傾いた大きな要因だった。森に入って少しした頃、突然の土砂降りの大雨が私たちを襲った。

「さっきまであんなに晴れてたのにこんな豪雨ってびっくりしちゃうなぁ…」

「お天道様の機嫌が悪なったならしゃーないわ。それにしてもこんだけ酷いと流石にこの馬車の屋根も意味ないなぁ…」

「グレゴ様とグレイス様が風邪をひいてしまわれないか心配ですね…」

グレゴは上裸のような恰好をしているが心配しなくても大丈夫として、馬車を引く馬がいなくなるのは困る。早いところ村か洞窟を見つけたいところだ。

「それにしても…こんだけ湿気が多いと食糧がカビそうだな」

「勘弁してよあたしもうカビたパンなんてこりごりよ?」

私だって食いたかない。あれは不味いの一言では表せない。

マルクが荷車から顔を外に出す。

「グレゴさん、何か灯りは見えそうですか?」

「いや、今は何にも見えねえ。ひどい雨だから中に入ってろ…ん?あれはなんだ?」

その声を聞いて私も立ち上がって確認すると、雨粒のせいで朧げだが、何か大きな建物が建っていた。見たところ屋敷だろうか?

「人がいればいいけど…」

近づくにつれて、屋敷の全貌が明らかになってきた。見たこともないほどに大きな建物だ。マルクの屋敷より間違いなく大きい。だが、灯が点っていないところを見るに廃屋のようだった。

「この森の中にこんな屋敷があるなんて…僕も初めて知ったよ」

「こんな立派やのに雑草が荒れ放題なんは忍びないなぁ…せっかくの庭が泣いとるで」

「でも誰も住んでないなら都合がいい。雨宿りさせてもらおう。ちょうど厩舎っぽい建物もあるし」

大門を開けて、庭へと入る。見たところ、道路はこの屋敷を抜けて奥まで進んでそうなので、ここは中間地点として活用できそうだ。

グレゴとイサベルが馬車を厩舎へと連れて行ったので、私たちは先に入ることにした。鬱蒼とした庭を進んで、屋敷の中へと入る。出迎えてくれた玄関広間に私たちは目を疑った。あまりにも綺麗すぎたのだ。打ち捨てられて数十年と言った外観に対し、中は蜘蛛の巣一つない。違和感の塊のような物件だ。いかにも怪しげだが、警戒心が皆無のエルフはズカズカと奥へ進もうとしていた。

「なーんか妙に綺麗やな。誰か住んどるんか?」

「中だけってのが不気味だね…」

「きゃあああああ!」

先に進んでいたクロエが叫び声を上げる。ただならない雰囲気を感じて彼女の声がした方に行くと、彼女は腰を抜かしてガタガタと震えている。

「どうしたんだよ一体」

「あ、あれ!あれ!」

彼女が指差した先には人のようなものが壁にもたれかかるようにしてだらんと力なく座っていた。

「人…じゃねえよな?」

肩くらいまでの白髪に使用人が着るような服を着ている姿を見れば人にしか見えないのだが、身体は全体的にひび割れのようなものが目立ち、特に右頬は完全に表皮が剥がれて中の金属のような部品が露出している。両手も人の手というよりは複雑なからくり人形のようだった。目は開いていたが、頬の割れた方の片目は機能していないようだった。

「僕が確かめてみるよ」

マルクが恐る恐る近づいて、横たわるそれに触れてみる。

「これは…ただの人形…?」

「なんで人形がこんなところに?」

「屋敷の主の趣味なんちゃうか?外観と内装の差を対比するに随分変な奴やと思うしな」

人形屋敷とはこれまた倒錯的な野郎が主だったんだな。この屋敷の妙な雰囲気も納得だ。私は人形の前に歩いて行って見下ろす。

「お前には同情するよ。こんなところでずっと1人なんてな」

「人を不幸と決めつけないでいただきたいですね」

知らない奴の声が聞こえた。即座に周囲を警戒する。

「誰だ!?出てこい!」

姿が見えない敵か?それだと面倒だ

「あなたの目の前にいますよ〜」

「はぁ?」

正面を見ると、人形が私を見つめていた。

「こんにちはぁ」

「ぎゃあああああああ!!!!」

私の悲鳴が屋敷中を駆け巡った。

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ここは客間、先ほどの廊下から場所を移して来たところだ。それにしてもこの自律する人形…怪しすぎる。

「いやぁ、ごめんなさい。外が騒がしいから驚かせてあげようとしたら、まさかあれほどびっくりされるなんて。えへ」

彼女はあざとく機能していない方の片目を瞑り、舌を出しながら手で自分の頭をこつんと叩く。その動きはややがたつきはあるが、ほぼ生身の人間と変わりなかった。

「本当に魔族の手先じゃないんだよな?念押しして悪いけど」

「やだなぁ、あんな下賤な連中と一緒にしないでくださいまし。私はあの誉高いエリアン様のお抱えの使用人ですよ。魔族とは雲と泥、天と地、五十歩百歩の差がございます!…あら?最後のは違うんでしたっけ」

全然違う。そうなったら敵だろうが。

「自立する人形なんて見たことないわ…どないな技術なんや…?」

「お人形様の使用人だなんて、なんだか童話みたいですね!素敵です」

うなるハンクの隣でイサベルが両手を合わせてうっとりとしている。素敵ってそんな簡単に済ませていいのかこんな超技術。

「嬢ちゃんよ、さっきエリアンって言ってたけど、この屋敷の主人がそうなのか?それともここに行くようエリアンって人から頼まれて来たのか?」

グレゴの質問に優しい微笑みを浮かべて丁寧にお辞儀をしながら

「はい!ここの主人はエリアン・ブレンドスティー様です。そして私がそのお抱えのリリィと申します!どうぞリリィちゃん、もしくはリリィたんとお呼びくださいませ」

と説明と自己紹介をした。自分自身でたん呼びするな。

「外がこんな大雨だから、俺たちを一晩だけ泊めてくれるよう主人に掛け合ってくれないか?もしダメってなら厩舎を貸してくれるだけでいいんだ」

「うーん、まぁいいと思いますよ。エリアン様は優しいので」

「いや許可取りに行かないとダメだろ」

あまりの適当さに呆れてしまう。流石に思考回路は人形か。

「でもエリアン様は今お休み中ですから。それにすごく強いですし、あなたたちが問題を起こそうと蟻んこが竜巻に立ち向かうようなものですからね」

なるほど、主人がそんな強いんだったらこれだけ頭お花畑なのも合点がいくな。機嫌を損ねないようにしないと。マルクの屋敷といい、家主の機嫌を損ねるとろくなことがないからな。

「それにしても、皆さんは久しぶりのお客様なんですよぉ。だから、お料理を振る舞いたいなって思うんです。いいですよね?」

渡りに船な提案だが、尚更彼女がますます怪しくなってくる。私たちは本当にここを訪れた久しぶりの人間なのか?この森を迂回せずに突っ切る人間なんて大量とは行かなくてもそこそこいるだろうと思うが…

「本当!?保存食じゃない柔らかくてあったかい食べ物食べれるなんて嬉しいなぁ」

このエルフ、詐欺とかそういうよくないのにホイホイ引っかかる人間だろう。

クロエに耳打ちする。

「正気か?めちゃくちゃ怪しいだろ」

「でも悪い人じゃなさそうだし…」

「そういう油断が命取りになるんだぞ。多少一人旅してたならわかるだろ」

そうこう話していると、グレゴが横から

「人を疑い過ぎんのはお前の悪い癖だぞ。それにもし仮に魔族ならもう殺されててもおかしくねぇだろ?」

「万一ってことがあるからだな…ん?リリィはどこ行った?」

気づかないうちに室内から忽然と彼女は姿を消していた。

「ラニ様たちが内緒話をしている間にお料理を作りに行きましたよ」

「鼻歌混じりでとても微笑ましかったね」

マジかよこののほほん二人組。判定中だったってのに…。私の味方になりそうなのはさっきから唸っているハンクだけか…

「なあ、ハンク…アンタも思うところあるよな?」

「せやな、関節と動力部見せて欲しいわ…一体どんな動力でどんな風に動いとんのやろか…」

違う、私が言いたいのはそういうことじゃない。

「いやいや…もっとこう他にあるだろ?彼女怪しさ全開じゃなかったか?」

「確かに妖しい雰囲気があったな。あんだけ滑らかで艶やかに表情作れる人形作れたらウハウハやろなぁ」

ダメだこいつリリィに使われてる技術しか見てない!

「どこに行くんだい?ラニ」

「決まってんだろ、怪しい動きしねえか見て来んの」

「喧嘩吹っ掛けねえよな?」

「それは相手の挙動次第だね」

それを聞くとグレゴが立ち上がり、足早にリリィのもとへ向かおうとする私の元へ来た。

「じゃあ俺も一緒に行く。お前1人じゃ何しでかすかわからん」

「どうもさん」

こうして私とグレゴはともに偵察へ向かった。屋敷の構造は一切わからないが、明かりが灯っていて、かつ音のする方へ行けば彼女はいるはずだ。

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おそらく昼過ぎだというのに外は夜明け前のように薄暗い。ザアザアという雨音に足音がかき消されるほどの土砂降りを降らすほどの雲があることを考えれば、それは自然なことだった。

「あそこだよな?」

しばらく歩いていたが、やっと明かりが漏れる部屋を見つけた。廊下の明かりはどれもこれも薄ぼんやりと明るいだけなので、強い明かりは見つけやすくて助かった。

半開きの扉越しに、中を観察する。音を立てないようにこっそりと。中からはトントントンという包丁の音が聞こえてきた。

「ふんふんふーん、ひっさびっさの〜お客様は〜どんな料理が好きかしら〜♪もっとお肉も〜奮発しよっかな〜♪」

随分と楽しげに料理をしている。料理中にあんなに声出して歌うって演劇の主人公ぐらいでしか聞いたことねえ。

「…怪しい動きは特にしてないな」

「だから言ったろ?そんな疑り深すぎるのもよくねえって。それに見ろよ、あんだけ楽しそうに料理する子が毒とか盛ると思うか?」

「………」

何か言い返したいところだが、眉間にしわが寄るばかりで何も思い浮かばない。仕方がない、ここは一旦戻るとしよう。

いや待てよ、そういえば一発で見分ける方法があるじゃないか。なんで思いつかなかったんだ私は。考えを胸に広い客間へと2人で彼女に気付かれないよう戻った

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