戦い終わって、
「…ニ様!…ラ……ま!」
「……だろ!必……って!」
「ラニ…!まだ……!」
「死…な!嬢……ん!」
声が聞こえる。誰だろうか。疲れてんだから、ちょっとは寝かせて欲しい
「起き…!戻……来…!」
うるせぇ…。これは…多分グレゴだな。そう認識した瞬間一気に意識が覚醒に向かう。
「……んあ!」
ガバッと勢いよく起き上がると、私を取り囲んでみんながいた。
「あれ…?私確かグレーターゴラモスと戦ってて…」
言い終わるか終わらないかのところでイサベルが勢いよく抱きついてきた。
「よがっだ…よがっだでず…!わだくじ…あなだざままでうじなゔがどぉ…」
泣いてて半分ぐらい何言ってるかわからん。でも多分喜んでくれてる。
「あー、うん、ありがとな!」
そう言って頭を撫でてやると、彼女は顔を私の胸に埋めて静かに泣き出した。
「そんなに私酷かったの…?」
グレゴに聞いてみると、
「いやぁ、上級治癒魔法ってすげぇなぁって思ったな。よく生きて帰って来れたもんだよ」
「僕も本当に死んだと思ったよ。ハンクとイサベルが死力を尽くしてくれなかったら間違いなくあの世だったね」
ハンクも助けてくれたのか。曖昧な記憶しかないので覚えてないのが悔やまれる。それにいつのまにか服を着ている。クロエが着せてくれたのだと思うが、中に何も着ていないところを鑑みるにどうやら下着類は全部燃え尽きてしまっているらしい。かろうじて生き残ったが人として大事なものは失ったかもしれない。
「改めてありがとな、2人とも」
私の尊厳がどうこうは置いておいて、そう感謝を伝えるとハンクは恥ずかしそうに頬を搔くが、イサベルは私に向けた顔を青ざめさせる。
「あの…ラニ様、私謝らなくてはならないことがございます…」
「えっ」
彼女が凄まじく悲壮に満ち満ちた顔をするのでどこか不随になっているのかと戦々恐々としてしまう。
「その…ラニ様のお髪の一部は回復出来ず、少し短くなってしまいました…お許しください…」
髪を触ると確かに肩甲骨あたりまで伸びてた後ろ髪が肩にかかる程度まで短くなっている。この程度どうとも思わなかったが、彼女はそれを気に病んでいるようだった。
「ああ、その程度か…大丈夫。ちょうど髪が伸びてきて鬱陶しいと思ってたとこだから」
「軽いなぁ…君は」
「命あってのなんとやらって言うだろ?だから全然気にしないって」
お前らしいな、とグレゴは笑っていた。
「おーい!大丈夫かーっ!?」
何やら入口の方が慌ただしくなってきた。どうやら救援の面々が到着したようだ。先頭には武装したウッディがいる。先陣切って来てくれるのは嬉しいけどお前は嫁さんと子供のとこにいてやれよ。
「これは…お前らがやったんか!?」
「そう!…あたしたちってよりは主にハンクのおかげだけど、とにかく凄かったわ!」
「そうか…ハンクが…」
彼がハンクに向かっていって、握手を求める。もちろんハンクはその手を握り返す。
「ほんまにありがとう。これでお前を爪弾きにしてた奴らをやっと見返せるな!どんなことしたい?一先ず広場にお前の銅像作るか?」
「見返すつもりが無かった言うたら嘘なるけど、遠慮しとくわ」
笑いながら提案を拒否する。私なら街中の酒は全部私のもんだから持ってこいって言うけどな。
「願いを聞いてくれるってなら、あいつの第一解体権貰ってええか?」
「そんなん当たり前やろ!それどころか全部あげるわ!なぁみんな!」
ウッディの声に誰もが賛同している。今日の大金星を上げたのだ。むしろ断る理由を探すのが難しい。ハンクは歓声をあげられるのに慣れていないのか、久しぶりだったからか、照れを隠すように死骸の前まで走って行く。しばらくまごついているように見えたが、ゴラモスの下顎に短剣を突き刺し、何かをくり抜き始めた。
「あ、有ったで!」
「何があったんだ?」
彼はこちらまで走って来て、手のひらに抱える真っ赤な石を見せてきた。光が反射してゆらゆら煌めいており、とても貴重なものであるのは間違いない。素人目に見てもそれは明らかだった。
「それは?」
「煌火石の上位物、煌炎玉や。眉唾の御伽話やったが、これだけは本物やったわ。君らにやるわ」
「いいんですか!?ありがとうございます!これで剣も修理できそうです!」
マルクが興奮気味に食いつくのをハンクが制した。
「その代わりやねんけど…君らの治したいっていう剣をオイラに打たせて欲しいんや」
マルクがこちらを見て、「いいかい?」という視線で見てくる。特段断る理由もない。ウスターも相談と見積もりに乗ってもらっただけで依頼したわけでもないしな。
「好きにしなよ。アンタの所有物なんだから」
「それじゃあ、よろしくお願いします、ハンクさん」
ハンクは「任しといてくれ!」と言って胸を張った。神童と呼ばれた男の鍛治なら信用に値すると思う。
「そろそろ帰ろっか。あたし流石に疲れちゃった」
クロエに同意だ。こんな暑いところに長居はしたくない。
「せや!発電所見に行かな!」
そういえばそうだ。討伐したことですっかり忘れていたが、元々そのつもりで来ていたんだ。壊れていたらすべての努力が水の泡だ。
「オレらに任せてハンクたちは先に帰っとき!疲れとるやろ?グレーターの死骸も持って帰るから心配せんでええで!」
お言葉に甘えさせてもらうとする。流石にこいつがもう1匹はいないだろう。
「あれっ…?」
立ちあがろうとしたが体がうまく動かない。
「ああ!まだ動こうとしないでください!今の貴女様は軽い貧血と脱水症のはずですから!飲料水を作ることのできる魔法があれば良かったのですが…」
そう、魔法で作った水は魔力の塊であるため、飲めた物ではない。というか、空気中の幻素を増幅したものなので、腹にたまらない。
「ま、病人は俺に担がれろってこったな」
嘘だろ?またグレゴの世話になるのか?嫌というわけではないが借りを作りっぱなしな気がする…
「うぅ…面目ない…」
「気にすんなって。破茶滅茶だけど、お前の案でなんとかなったんだからそれで貸し借りなしだぜ」
彼におんぶして貰って洞窟を脱出する。岩盤の残骸を越え、洞窟の壁の色が変わる場所をゆっくり歩き、ゴラモスの群れのいた場所の隣を息を殺して通り過ぎた。
出口へ向かっていくごとに徐々に気温が下がっていき、コールドもいらないぐらいになった。
「んー!外の空気おいしいー!」
「もう完全に真っ暗だね…」
洞窟の外はすっかり陽も落ちて、月が天高く輝いていた。
馬車を停めた場所に戻ると、馬車に繋がれた彼はご機嫌斜めのようだった。流石に半日ぐらい放置したのは可哀想だったな。
「ごめんなさい、グレイス様。明日はご飯いっぱい食べていいですからねー」
イサベルのその言葉を聞いて「二度とすんなよ」とでも言いたげにフン、と鼻を鳴らした。
私たちは荷台に乗り込み、ドレタニアの中心へ向けて馬車を走らせた。




