グレーターゴラモス その2
「爆弾はさっき教えた通り、上のつまみを回したら20秒ぐらいでボン!や。というか…ほんまにやんのか…?狂気の沙汰やぞ」
「大丈夫だって、なんとかなるから」
私が思いついた作戦というのは簡単で、私が背中に乗って爆弾を起爆するので、その密着している間はイサベルに回復魔法をずーっとかけ続けてもらうということだ。あのトカゲを討伐するのが先か、それとも彼女の魔力が無くなって私がこんがり焼けるのが先かの根性比べだ。
「ん、クロエ、これ持ってて」
「え…?いいけど…」
服は多分燃えると思うので、お気にの上着だけクロエに預ける。膝まで隠れる長いものなので、これさえあれば今身につけているもの全てが燃えようが痴女になることはない。人としての尊厳は失うかもしれないが。
「ラニ様…!やはり私恐ろしすぎて出来ません…!」
肌着のまま準備運動をしていると、イサベルが抱きついてくる。
「今更怖気付くなよ。しゃーねぇだろ?他の方法も思いつかないんだから」
「ですが…!ですが!」
グレゴが引き剥がして諦めたような口調で彼女を諭す。
「こいつは自分から言い出したらちょっとやそっとでは曲げねえ奴だから、諦めな。それに死んでも死なねえような奴だから焼かれるぐらいワケねえよ」
ワケなくはねえよ。私痛覚のある人間だぞ。
マルクにがしっと肩を掴まれる。
「ラニ、必ず帰ってくるんだよ」
「当たり前だろ?私が死ぬとでも思うのか?」
軽口を叩くと、彼はニコッと笑う。
「まさか。それに、まだあのサリエルっていう魔族との決着も着いてないんだから死なれちゃ困るよ」
「お前こんな時に嫌なこと思い出させるなぁ…」
「そう返せるなら血迷った訳じゃないみたいだ。安心したよ」
そう言われてぽんぽんと頭を軽く撫でられた。それに私は彼の胸を軽い握り拳でこつんと叩いて返事をする。
「それじゃあイサベル、よろしく」
泣きそうな彼女は目をごしごしと擦ると、覚悟を決めた表情になり、詠唱を始めた。
「【ハイヒール】!」
その声が聞こえた瞬間に奴の死角になっていた岩から飛び出し、全速で駆ける。走る音が聞こえたか、すぐに奴は首をこちらに向けた。
「よう!流石鋭いな!」
しかし、体を向けるには少々時間がかかるのか、もたもたと回転させる。ちょうどいい具合に弱点の場所が私の飛び乗りやすい位置に来ていた。
「なんだよあれェ!」
さっきは気が付かなかったが、背中の弱点辺りが黒く盛り上がっている。
「弱点を守ってるって訳かよ!」
今更止まることはできなかった。速度を維持したまま飛び乗る。
「あッつッ!クソが!」
体に着いた足が途端にジュウジュウと焼ける音がする。長靴を履いていると言うのにこの有様だ。普通の靴だったら骨までこんがりと焼けるほどの大火傷ものだが、長靴であるのと、絶えず流される上級回復魔法のおかげで多少熱いお湯に浸かっている時のような軽い火傷に抑えられている。しかしこれも長くは続かない。早いところ仕留めなくては。
「暴れてんじゃねえぞ!お前の相手は俺たちだ!」
陽動を頼んだグレゴたちがゴラモスの前に出て挑発をする。あいつらにも負担はかけられない。早いところぶっ壊さなくては。
カァン!と金属音がなって剣が弾かれる。生物の出す音とは到底思えない。
「ふっざけるな!」
もう一度振り下ろすもまた弾かれるだけだ。ならば逆手持ちで…
「は?」
手が動かなかった。見ると剣の柄と手が癒着していた。ゾッとした。傷がどんどん治っていくから大丈夫と思っていたが、こういうことが起きるとは想像だにしていなかった。この振り回しにくい順手持ちで振り下ろすしか無い。
「畜生!畜生!」
どんどん焦りが出て適当になっているのがわかる。でも冷静になれというのが無理な話だ。
「ラニ!」
「グルルルルガァァァアアン!」
グレゴの声が聞こえた直後、グレーターゴラモスが大きく咆哮する。すると体から蒸気が噴き出た。怒った影響だろうか。蒸気は掠めたなのに目が開けていられない。喉が灼ける。
「あガッ…!」
手から爆弾が落ちた感触がした。衝撃では起爆しないそうだが、踏み潰されてはどうかわからない。私は死ぬのか。ここで死ぬのか。まだだ、せめて死ぬなら、足掻いて、足掻いて、あいつらが逃げる時間は稼いでやらないと。私に集中させるんだ。ダメだ…意識が…!
「ラニ様!」
イサベルの悲痛な声が洞窟内に響く。ラニの剣による奴の弱点に対する攻撃が効かない上に、彼女は爆弾を落としてしまった。これではただ死を待つだけの存在だ。
「どうしよう!ラニが死んじゃう!あたしも二重で重ねがけすればなんとかなるんじゃ!?」
クロエの言うそれは延命措置に過ぎない。ハンクは考えを巡らせる。ゴラモスを倒して、ラニを救う方法を。どうしようもないのか?そんなことはないはずだ。彼はあることを思い出した。
「嬢ちゃん!君そういやオイラの作った一対の短剣持ってたよな!?今も持っとるか!?」
「う、うん、持ってるよ」
「それ一本くれ!それさえあれば助けれる!」
焦るクロエから短剣を一本受け取る。
「オイラにもラニにかけてるみたいに治癒魔法かけてくれ!弱くてもいい!一瞬や!」
「い…いいけど、その剣なんなの?」
「めちゃくちゃ質の悪い青銅と真銀の精錬物や!ほな行くから頼むで!」
それは賭けだった。武器に使えば龍の鱗さえいとも容易く貫くと言われている真銀、純粋な真銀の精錬物と比べると、短剣に含まれる真銀は1割どころか1分ほどだろう。しかし、自身のドワーフの筋力と合わせればもしかすると弱点を守る堅牢な部位をも破壊することができるかもしれないと、そうハンクは考えた。
「うおおおおお!」
雄叫びを上げながら走る。グレゴやマルクに合図を送るためか、それとも自身を奮い立たせるためか。
「ハンクさん!何を!?」
ハンクは落ちて転がっていた爆弾を走りながら拾いあげ、上部のつまみをねじる。
「マルク!」
彼が出てきた意図を彼の持つ短剣と爆弾で理解したグレゴが合図を送る。ゴラモスは火球を吹こうとしていたが、直撃する危険を承知で踏み台となる。
「すまん!」
「大丈夫だ!行け!」
「…ッ!グレゴさん、来ます!」
ハンクを高く打ち上げてすぐに巨大な火球が放たれる。本来は殺気を隠さないハンクに向けて放たれたものであろうが、すでに彼は空中だ。当たることはない。さらに地面に取り残された2人にも簡単に避けられた。
「ラニの嬢ちゃああああん!助けにィィィィィ来たでぇぇぇぇぇ!!!」
その叫びはきっとラニにも聞こえていたかもしれない。短剣は砕け散ったが、ゴラモスのこぶのように盛り上がった岩盤の如き外皮を引き裂いた。ブシュウ、と切り裂かれた箇所から蒸気が溢れ出る。
「くぁっ…こんなもん、いつも溶解炉の近くで作業しとるオイラからしたらそよ風みたいなもんや!」
爆弾を切れ目から無理やりねじ込み、ラニを抱えてハンクは飛び退く。
「グルルルガァァァ…!」
怒り狂ってハンクたち目掛けて再び火球を放とうとするゴラモスであったが、数秒後彼の背中であの手のひら大の小さな爆弾から生まれたとは到底思えない規模の爆発が起き、
「ギャオオォォォ…」
と断末魔を上げて地面にその巨体を沈ませた。
「もう起き上がってくんなよ…」
ハンクは小さく呟く。そしてハッと我に帰る。
「イサベルの嬢ちゃん!はよ来て治してやらな!」
彼は脇に抱えている大火傷を負って意識を失っているラニを地面にそっと下ろして叫んだ。




