グレーターゴラモス
ゴラモスの咆哮のようだが、声の太さ、大きさが全く違う。かなり遠く、地下から響くその声はまさに地響きのように私たちの体を揺さぶった。作業員たちの中にはガタガタと震えている者が何人もいる。
「こっちに上がってくるかもしれねぇ。地下にいるうちに早いとこ逃げよう!イサベル、治療はあとどれぐらいかかる?」
「もうすぐです!」
「待ってくれ!」
グレゴとイサベルの会話にハンクが割り込む。
「ここの地下には発電所の重要部がある…もしそこにグレーターゴラモスが行ったら…」
発電所が破壊されれば、ドワーフたちの文明は数百年後退するだろう。ウッディが青い顔をしている。そうだ、確かメリッサが言っていた。子どもが病院の保育器ってやつに入ってるとかなんとか。つまりもし仮に発電所が破壊されるようなことがあれば命を落としてしまうということだ。
「…でも!グレーターゴラモスは発電所を壊せないんじゃ!?」
「その可能性も無くはないやろけど、言い伝えられてる話からすると無いとは言い切られへん。だから見に行く」
「1人じゃ危険だ。俺たちも行く」
「最悪死ぬのはオイラだけで十分や。ここまでする義理もないやろ」
さっさと行こうとする彼の肩をグレゴががっしりと掴む。そして自分の方に向き直らせて両肩を掴み言った。
「『みんな』無事に帰るんだよ。なぁ」
私たちへ問いかける。それに対する答えは決まってる。
「当然だ。せっかくここまで無事に来れたんだ。今更1人死にましたじゃ私たちがここまで着いてきた意味がないだろ」
「お前ら…」
腕を組んで頷いていたマルクは作業員たちの方を振り返り、声を張った。
「皆さんは一旦地上へ戻ってください!あとのことは僕らがなんとかします!」
「でも兄ちゃん、君らだけやったら…」
「大丈夫!あたしたち、すっごく強いから!」
その言葉を聞いて作業員たちは顔を見合わせ頷く。
「すぐ地上戻って、救援隊送るからな!お礼もちゃんとしてないんやから、あの世行くんちゃうぞ!」
地上へ向かう彼らを見送り、私たちは地下へと歩みを進める。
「ハンク様、グレーターゴラモスについての言い伝えでは、どのような形で討伐したとされているのですか?」
何百年も前の話で信憑性は薄いし、全く役に立たんけど、と前置きをした上で話し始めた。
「炎帝と呼ばれた亡国の皇帝がその炎の力であっという間に灰燼にしたって伝えられとる。でも今のオイラたちの持っとる武器で一番高威力なんはこの最後の一個の爆弾と、君らの魔法ぐらいや」
「そういうので本当に役に立たない時あるんだな」
「御伽話なんてそんなもんや」
そうなんだけどもっとこう、あると思ってた。まさかの力技で討伐したという記録とは。炎帝というのはどんな豪傑なのだろうか。
「だんだん暑くなってきたな…クロエ、魔力切れか?無理するなよ。いくら俺でも背負って入り口まで逃げられないぞ」
「そんなことないよ!まだまだ余裕!というか、あたしずっと出力変えてないし」
「火山の頂上に近づいてるからでは?流石に溶岩ほどの高温になると初級では厳しいでしょうし」
そうマルクが言い終わったか、言い終わらないかの時、地面が震え出した。ズズ…ズズ…というような這い寄る足音のようなものも聞こえる。私は剣の柄に触れる。いつでも抜刀する準備はできている。
「グルルギャァァアアアアン!」
お出ましだ!おそらくあれがグレーターゴラモス!体長はさっき見たゴラモスの4,5倍、町で聞いた特徴とぴったり一致する!しかし見た目はより奇怪だ。まずはその爪、ナタのような厚さに発達しており、私たち人間の胴体程度簡単に切断できるだろう。クチバシは普通のゴラモスと違って、やや地面に垂れ下がるように歪に変形している。確か溶岩を飲むとかなんとか言っていたので、その過程で溶けてああなったのだろう。そして一番目を引くのはその体だ。黒曜石のような甲殻で覆われた体は若干赤く発光しているように見える。
「あれも溶岩飲の影響か!?」
そう叫んだ瞬間には火球を放つ態勢になっていた。
「避けろ!」
グレゴの声でとっさに回避行動をすると、次の瞬間には火球が横を通り抜ける。さっきのやつの比じゃない。大きさも、熱量も。
「弱点は普通のやつと同じですよね!?」
「そのはずや!」
よし、ならば!とマルクが走って向かい、体に飛び乗ろうとする。がしかし、
「熱ッ!」
彼は一瞬だけゴラモスに着地したが、体を蹴って飛び退いた。
「大丈夫か!?」
「なんとか…でもあの一瞬で足が焼けたよ、こんがりね」
見ると靴が溶けて足が見えている。一瞬だったのが幸いしたか火傷はしているが焦げてはいない。急いでイサベルが治療にかかる。
「【アイスグレート】!氷ならどう!?」
続いて詠唱をしていたクロエが前に出て巨大な氷柱を放つ。一直線に飛んでいく。しかしゴラモスの前で蒸発して、消えた。
「は?え?」
確か水の沸騰する温度が百度。氷が一瞬に蒸発して消えてなくなるということはそれ以上の温度の空気がヤツの周りには流れているということ。
「なんて体温してんだよ…」
「あ…ああっ…えあっ!『力の根源たる火炎の幻素よ、焼き尽くせ!』【フランマ】!」
「馬鹿野郎!なんで火の魔法撃ってんだ!」
「だって!だって!」
案の定一切効いていない。そりゃあそうだ。人間で言うと水鉄砲ぶっかけられたようなものだろう。
次の瞬間、グレゴに抱えられて私たちの体は空を舞っていた。
「馬鹿はお前もだ!よそ見すんな!」
どうやら火球を吹いていたらしい。危うく人型の炭になるとこだった。
「打つ手なしや!一旦逃げるで!」
ハンクの言葉に全員が同意し、ひとまずそこから離脱した。
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奴は体温こそ異常に高いが、代わりに動くのが遅くて撒くことができた。あれで動きも素早かったら本当に1人ずつ炭になっていた。
「なんとか逃げられましたが…これからどうしましょう…?」
「地図やと確か出てきた方向に発電所の重要部があるから、とにかくあいつは絶対に倒さなあかん。これは第一や」
こういう当たってほしくない時に限って予感は的中するものだ。酒が空からドバドバ降ってくるみたいなものだけ当たればいいのに。
「氷が一瞬で蒸発するから水の魔法もダメだろうしねぇ…」
あの体温をどうにかしつつ、背中の弱点を破壊する。そんな器用な真似できるだろうか。
「そういや、爆弾が使えるみたいなこと言ってたけど、その外装はどんだけの高温にまで耐えられんだ?」
「炉に突っ込んで確認したことあるけど、二、三百度に数十秒なら余裕やで。」
つまりグレーターゴラモス相手だの最低でも10秒くらいは持ってくれるだろうか。クロエの魔法で覆ったらもっと持つか?
「僕が遠くから投擲しましょうか…?」
「流石にそれは外した時の不利益が大きすぎるからダメだ」
やはり一番は至近距離で爆破すること…なんだがそれの方法が思いつかない。…いや、一つだけあるかもしれない。
「イサベル、上級回復魔法って連続で使えるか?」
「試したことはありませんが…使えると思います」
「何分ぐらい連続で?」
「そうですね…5分…いえ、全力で魔力を絞り出すなら6分程度なら連続使用は出来るかと」
そうか、6分もあるなら十分だ。
「へへ…いい作戦を思いついた」
私は立ち上がってそう宣言した。




