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第79話 みゆみゆ躍動

 グスタフはみゆみゆを抱きかかえながら、リンドウ丸の甲板に降り立った。


 奇跡的ともいえる戦いぶりでアゲハの最新鋭戦闘AIブラックウィングを倒したグスタフだったが、もはや満身創痍だった。


 手を取ってみゆみゆを丁寧におろすと、グスタフは彼女に対して胸に右手をあてて深く一礼した。みゆみゆもスカートの裾を両手でつかんで礼を返した。


 それから二人とも踵を返してつかつかと歩き離れて行った。ふたりともすがすがしいまでの無表情。

「そこはやっぱりビジネスカップルなんだ」

 遠目に見ていたユキナガが苦笑した。


 ただ、立ち去ろうとするみゆみゆは止まってグスタフのほうを振り返った。

「お前はもう無理じゃ。安全な場所で休んでおれ」


 グスタフはそちらを向かず、右手をわずかに上げてみゆみゆの言葉に応えた。


 そしてみゆみゆは、ユキナガとハツの姿を見つけて、両手をぶんぶんと振った。ぴょんぴょんと跳ねた。

「また会えたのう、うれしいのう!」


 ベスパにまたがったユキナガとハツも手を振り返した。それから遠くのみゆみゆに向かってユキナガが大声で伝えた。


「ミユパイセン! こんなときに何ですが、僕リンドウ丸辞めまーす!」

「はあー!? ほんとこんなときにだな!! いま交戦中じゃぞ!」


「みゆみゆー、わたしも辞めるー」


「ハツまで!?」


 そしてユキナガとハツは大きな声で一緒に「ごめんなさーい」と叫んだ。

「ハツユキ腹立つな。辞めてどうすんのよー?」


 あきれた口調のみゆみゆにユキナガが答えた。

「好きにします。いまより僕とハツは永世中立国です。僕たちに危害を加えるものは全部やっつけます。助けを求められたらリンドウだろうがアゲハだろうが助けます」


「ふむ」

 その答えは珍妙ではあったが、みゆみゆには納得がいくものであるようだった。


「じゃあ、わたしとユキナガはもう上司と部下ではないわけだな」

「これからはあなたの一ファンです!」


「やかましいわ!」


 そうしているあいだにも甲板での白兵戦は続いていた。海上のリンドウ艦隊と空中に浮かぶ他のアゲハ船団との砲撃戦も激しい。


 リンドウ丸とアゲハ号は衝突して密着した状態が続いていた。


 みゆみゆは、甲板の兵士たちに向かって両腕を下から真上に何度も何度も振り上げて煽った。


「リンドウーー! まだまだやれんのかーー! 大丈夫だよ。わたしも一緒だよーー!!」


 そしてみゆみゆは振り返った。ユキナガとハツのことをまっすぐ見てくれていた。そしてその場にいる全員に向けるかのように叫んだ。

「一秒でも長く生きてね!」


「あの子は戦うことなんかほんとは大嫌いなんだろうな」

 ユキナガはつぶやいた。

 自分を好きでいてくれる人と、共に寄り添いたい。彼女がやっているのはそれだけのこと。


 ユキナガとハツは自分の両手でメガホンを作り、野太く叫んだ。

「みーゆーみーゆー!!」


「応援ありがとーー!!」

 みゆみゆは左手を振った。ファンサをしてくれた。


 そして向こうをむいて口から巨大な炎の帯を放ち、艦内へと走り去っていった。歌を口ずさんでいたかもしれない。


 ユキナガは、みんなのそばにいてくれたアイドルの背中を見送った。

「死なないでね、ミユ」


 このいくさの終わりが近づいていた。

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