表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/87

第66話 運命


 リンドウ丸の機関室と格納庫の間にある人気のない廊下で、ヒメネス博士と彼女の夫ペドロ親方が向かい合って立っていた。

 それぞれ壁に寄りかかっている。灯りはわずかで表情が良く見えない。


「どうしてもやるんだね、マリア」

「状況が硬直して、らちが明かないようだったらね」


 船内には盗聴器がいくつかある。しかしここにはない。それを二人とも知っている。


「機関室の一部を爆破する。もちろんリンドウ丸の機能に影響がなく、乗員に負傷者がでないような部分を。そしてそれをアゲハによる攻撃であるとして、わたしたちは『反撃』を開始する」


 ヒメネス博士は、小型の機械をその手にもって見つめていた。爆弾の起動スイッチ。


「その役目は僕がやる」

「わたしがやるよ。大丈夫、誰にもばれない」


「ばれなかったとしても、歴史に残らなかったとしても、君にそのスイッチを押してほしくない。君に背負わせたくない」


「ありがとうペドロ。でも同じ理由で、わたしもあなたにやらせたくない」


 人の声がした。ヒメネス博士は起動スイッチを素早く白衣のポケットに隠した。


「博士、探しました」

 制服姿の男性乗組員。


「おう、どうした。まったく女房といいところだったのにとんだお邪魔虫だ!」

 ペドロが現場での口調に戻って、明るく振る舞う。


「何かあった?」

 ヒメネス博士の問いに、乗員は目くばせで答えた。


 ペドロ親方は、階級が妻のヒメネス博士よりずっと低い。彼には聞かせてはいけない情報のようだった。


 ヒメネス博士と乗員は、ペドロから少し離れて話した。


「分かった。君は持ち場に戻れ」

 話が終わり、男性乗組員が去ると、ヒメネス博士は夫の方を振り返った。


「ああペドロ、一番悪いことが起きてしまった」

「なんだって?」


「今から30分前のことだ。正体不明の飛行物体が、リンドウ船団の近郊に現れた。リンドウの偵察機がこれを追跡、相手はこちらの呼びかけに応じず、挑発と受け取れる行動を繰り返した。こちらの偵察機は警告射撃を行い、それに対して正体不明機は実弾で反撃。偵察機が応戦。戦闘となった。正体不明機を追撃しながら、リンドウの偵察機はアゲハ船団の領空に入ってしまった。そして……」


「おい、まさか」


「リンドウの偵察機が、アゲハの小型船を誤射してしまった。墜落したようだ」


 ペドロは天を仰いだ。

「神よ、あんまりだ」


 このときの『国籍不明の飛行機』の正体については説がいくつかある。


 紛れ込んだ自衛隊機とも、他国の偵察機だったともいわれている。リンドウとアゲハに対抗する第三の未来勢力『アラベスク』だった可能性もある。(そもそも飛行物体は存在しなかったという説もある)


 とにかく『リンドウがアゲハに攻撃を加えた』という状況がこの瞬間に発生していた。ヒメネスの想定していなかった最悪の事態。


 アゲハはリンドウの先制攻撃に対して、速やかに反撃をしてくるだろうと、ヒメネス博士は予測した。    

 一ノ瀬アンとしての彼女がその手はずを整えていたのだから。


 ムニョスが不在とはいえ、こうなると話は別だ。


「一秒の猶予もない。わたしはこのスイッチを押すよ、ペドロ。いまなら、先制攻撃はアゲハからだったと、情報を上書きすることはできる。これがわたしの運命だったんだ」

 

 ペドロ親方はヒメネス博士を見つめた。

「マリア、愛しているよ」


 ヒメネス博士はスイッチを押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ