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第65話 布陣

 リンドウ船団、ならびにアゲハ船団は、今回の時空遠征のベースキャンプの近くである『昭和34年6月25日』に、その戦力の大半を終結させていた。


 互いの母艦の特性上、リンドウは海へ、アゲハは空中に待機している。


 ここまで彼らは戦闘型AIヒューマノイドによる数回の襲撃を受けている。


 懐中時計型AIユンハンス、小型戦闘員型AIシュナイダー、そして移動簡易砲台型AIロルバーン。


 それらの襲撃を実行した可能性が高い『第三の勢力』がベースキャンプ近郊に集結しつつある。


 そのような情報がもたらされ、彼らはこうして厳戒態勢をとっていた。


 リンドウとアゲハというのは、お互いに元々は自動車メーカーだ。

 

20世紀に世界中で興り、繁栄を極めた自動車産業は、時代が移るにつれ経営統合されていった。


 その末に、日本に自動車メーカーは1社だけという状態になった。


 極超巨大企業。それはもはや日本政府を超える存在であった。


 この時期に同様な企業が世界中に発生した。


 そしてそれぞれが国の実質的な統治者となっていく


 一企業が軍事力を持ち、社内の派閥争いは内戦と同義であった。


 やがて1つの極超巨大企業が2つに分かれた。リンドウとアゲハになった。


 時空遠征事業はリンドウから始まり、のちにアゲハが参入。共同プロジェクトとなった。


 国家事業という旗印は国民の同意を得るうえで有効であったが、実際に遂行するのは企業だ。


 2強時代にあって、他の有力企業も後発ではあったが時空遠征技術を独自に研究、実用化が進んでいた。


 ここでヒメネスたちが問題としていた、そのもう一つの勢力が『アラベスク』である。


 ヒメネス博士はリンドウ丸の司令塔で現在の配置図を眺めていた。ヒメネスとして、そして同時に一ノ瀬アンとして、彼女はこの状況を俯瞰していた。


 アラベスクが我々の妨害をしていることは本当。


 集結して攻勢に出ようとしていることが嘘だ。


 アラベスクにリンドウ、アゲハを向こうに回して正面から合戦をする戦闘能力はない。


 小規模なゲリラ戦を続けることが、彼らにとって現状の最善。


 嘘。ヒメネスの嘘。


 彼女の嘘によって、アゲハにとって絶好のチャンスが訪れた。現在リンドウ船団はアゲハに背中を見せる陣形をあえてとっていた。


 もしアゲハが、同盟関係にあるリンドウ船団を隙あらば壊滅に導こうとしているとしたら、この状況は千載一隅のチャンスであった。


 とおい過去の出来事。世界の果てでの出来事。起こったことがその通りに伝わることはまずない。生き残った者の言葉を未来の人間たちは事実と受け止めることになる。


 ただ、ヒメネスにとって計算外の事柄が一つあった。

 ムニョス不在。


 この状況をどう考えるべきか。


 『暗殺』という選択肢もよぎったが、アゲハのトップとして決断を下すムニョスにはいてもらわないと困る。

 ことが起きるのはあやつが帰還してからだ。

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