第63話 ちゃんとしたお別れ
ムニョスとの接見を終えて、ユキナガとロッテおばさんがリンドウ丸にもどると、なぜか厨房と食堂がパーティ会場と化していた。
「ロッテおばさんおめでとー!」
「あらあら、まあまあまあ、何ごと、何ごと?」
ロッテおばさんはピンクのドレスのままで、リンドウ丸の若者たちに取り囲まれた。
なぜか大きなホールケーキがあって、なぜかローソクまで数本立ててあった。
「お誕生会なの? 今日はわたしのお誕生会なの? 違うと思うけど! 違うと思うけど!」
ゴンゾーが駆け寄って来た。
「ムニョスに招かれるなんてすごいよおばさん。大変な栄誉だ。俺たちは自分のことのように嬉しい。どうか祝わせてくれ!」
ユキナガやゴンゾーはいつも仕事の後におにぎりやお茶をロッテおばさんにごちそうになっていた。同じように、彼女の日頃のあったかいもてなしに心を癒されてきた者たちがこんなにいたのだ。
ロッテおばさんはローソクを吹き消して、オーバーな動きで、体全体で喜びの意を示した。
「おめでとー!」
「なんだかほんとにおめでたい気分になってきたわ。みんなありがとう!」
食堂でロッテおばさんを中心にダンスパーティーが始まった。
彼女の手を取ってみんなが躍りたがった。そのまわりで楽し気におどる男女も数組いる。
食堂の端の方に、顔に(わしも行ったんじゃが)と書いてあるユキナガがぽつんこと立っていた。
みゆみゆが彼を見つけて歩み寄った。
「ユキナガ、お疲れじゃったの」
「ロッテおばさんに嫉妬する自分がいる」
「あの人には敵わんよ。彼女こそがアイドルじゃ」
並んで立つみゆみゆはユキナガよりも頭一つ背が低い。その綺麗な横顔をユキナガは見つめた。
いつものメイド服に身を包んだ、アイドルタイプのAIヒューマノイド。
腰くらいまでの黒髪をツインテールに束ねて、ピンクのインナーカラーがとても鮮やかな、ユキナガの上司。美しい少女。
出会った頃より、ずっと彼女のことを近くに感じる。
「ミユ、僕と踊ってくれる?」
ユキナガは、みゆみゆに睨まれた。
「お前はまたそうやって、フラグじみた行動をとる。反省というものをせぬのか」
「悪い悪い。でもね、実はそうなんだよ。これはフラグ」
「え、そうなの?」
みゆみゆの顔がこわばった。そして彼女はもう一度「そうなの?」とつぶやいた。少し目が潤んだようにも見えた。
「お前がなにか普通でないことは、わたしでもわかる。理由もなくルールを破る男でないこともわかる。そのお前が……決めたというのか?」
次の過去世界への外出では、ユキナガのような末端のスタッフだけでなく、アゲハの総大将ムニョスが失踪する。ユキナガとムニョスで立てた計画だ。国を揺るがす騒ぎとなる。引率者の責任問題になる。というか死んだって責任なんか取れない。
だから今度はロッテおばさんをガイドとして連れて行くわけにいかなかった。
「わかった。踊ろう」
みゆみゆはユキナガの手をとった。
「わはは、何なのだお前は。誘っておいて1ミリも踊れぬではないか」
「君がなんとかしてよ。一流のプロレスラーはほうきを相手にしてでもプロレスができるらしいよ」
「ほうきのほうがマシじゃ。ねえ、今のうちに、キスぐらいしておいたほうがいいかのう?」
「戻ってきたら考えようか」
「ほんとにお前という男は」
踊り終えたあとで、みゆみゆがたずねた。
ハツとはちゃんと話しているのか?
「彼女には彼女の生き方がある。僕はそれを尊重したい」
名古屋で、ユキナガはハツから告げられた。自分は、過去の世界に逃げて、そこで生きることはできない。リンドウ丸に残りたい。
「ユキナガくん、今日はナイスピッチでした。あしたはノースローで体をちゃんとケアしてね」
あの日、手を振って、笑顔で、ハツは自分の持ち場へ帰っていった。
それから彼女に会っていない。




