第55話 制服デート
みゆみゆは、ユキナガの学生服に合わせてメイド服から着替えることにした。
「瞬間着せ替え機のユニットは、この時代の公衆電話ボックスと親和性が高いのよ」
手伝ってくれたのはアンだった。
「ユキちゃん、じゃあ、わたしはここで。ツアーのほうへ戻ります」
「あれ、アンは僕の見張りをするんだと思っていた。アゲハの結構ちゃんとしたポジションの人なんでしょ、君は?」
ユキナガは今しがた脱走を企てたばかりの問題児だ。見張る必要が大いにあるはず。
「必要ない。階級的にみゆみゆさんが現地での単独行動を許されるはずだから。だいたい、わたしがいたら邪魔でしょ」
「じゃまじゃないけど」
「いいのよ」
アンは手を振って去っていった。
「どうじゃユキナガ?」
着替えが終わったみゆみゆ。昭和のセーラー服。
「すごくかわいい。この時代でアイドルやったら山口百恵なみに人気が出そうだ」
「わたしたちは学校帰りだ。寄り道をしようぞ」
「うん」
みゆみゆは嬉しそうだ。
「あ、でもユキナガ、ハツには言ったのか?」
「さっき声はかけておいた」
「一人にしてしまって、悪いな……」
「僕は君に心配をかけちゃったしね。ミユルートを選択した」
「相変わらず、たまに意味の分からないことを言う」
名古屋の町で二人。
同じような高校生がたくさんいる。
「さてユキナガはわたしをどこに連れて行ってくれるのじゃ? お前のような気が利かない男に期待はしておらんけどな。しかし、あまりに変な提案をしたら容赦なくダメ出しをさせてもらうぞ」
「君ってローリング・ストーンズの曲をカバーして歌っていたよね。この時代のレコード屋にいくと、彼らのレコード山ほどあるけど」
「そ れ じ ゃ な」
めっちゃ食いついてきた。
レコード屋に着くと、みゆみゆは嬉々として棚を漁り出した。
「ここは天国じゃ。宝の山じゃ。全部ほしい。しかし、この時代の資料を勝手に持ち帰ることは許されん。悩ましすぎる」
「ヒメネス博士に申請すれば、1枚ぐらい持って帰ることができるかもね」
「1枚か。ねえ、ユキナガが選んでよ」
「自分で選んだものの方が、好きになれるよ」
ジャケットを見比べるみゆみゆを、店内の他のお客がちらちらと見ていた。
美しい彼女はすごい目立ち方をしている。
「ユキナガ、わたしこれがいい」
大きなホールケーキが描かれたジャケット。
「レット・イット・ブリードだ。名盤だよ。いいの選んだね」
それからふたりでレコード店の中を歩いた。
「あ、生写真がたくさん。ん? この『ブロマイド』ってどういう意味なのじゃ?」
「この時代は生写真をそう呼んでいた」
「そうなんだ。うわあ、この時代のアイドルもかわいいな。髪型も素敵、真似してみたいのう」
いろいろなブロマイドを手にしながら、みゆみゆの表情に少し陰りがあることにユキナガは気づいた。
「ミユ、気分でも悪い?」
彼女は首を横に振った。
「ユキナガ、第二次遠征のときの話はあなたに少ししたな。タイムスリップに参加する乗員たちが、旅立つ前にたくさんわたしのライブに来てくれたこと」
「ああ、うん」
「『未来人』という異物である彼らは、過去の時代の人たちの激しい抵抗にあって、大勢が亡くなった。その過去時代の一部の人々のあいだで、実はわたしの顔ってよく知られているのじゃ」
「え、どうしてだろう?」
「亡くなった『未来人』たちの胸ポケットからわたしの生写真がたくさん見つかったから。『え、誰これ?』ってなったみたい」
「そっか」
みゆみゆの写真をお守りにして危険な任務に臨んだ若者たち。彼らはもう一度みゆみゆに会いたかったろう。
ユキナガはその言葉を口には出さず、彼女と一緒にブロマイドを眺めていた。
「ユキナガ」
気付くと彼女はユキナガのほうを見ていた。
「もしかしたらユキナガは、お前にわたしの所有者になってほしい、お前にわたしのパートナーになってほしい、わたしがそう願っていると思っているかもしれん。もしそうだとしたらそれは大きな勘違いじゃ」
「勘違い?」
「誰かの役に立つためにわたしたちは造られた。上下とまではいわんが、使うものと使われるものという境界線が人間とAIヒューマノイドの間にははっきりとある。それを否定するつもりはない。しかし」
みゆみゆはまるで愛を告げるかのように、微笑んだ。
「わたしとユキナガは、王と王の関係がいい」
ユキナガは美しい少女のことをじっと見つめた。
「黙ってないで何かいわんか」
みゆみゆは肘でユキナガを突っついた。ユキナガは苦笑した。
「僕はさ、ミユのことを『明日待子』のようだと思ってた。日本で最初のアイドルといわれている一人。でも、もっと君に似ている人がいるのかもね、もしかして」
「わたしに似ている人?」
「うん、それはキング牧師っていう」
「牧師さん? 何をやった方なのじゃ?」
「いつか話すよ」




