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第53話 戦い終えて

 みゆみゆの強烈な火炎放射によって戦闘型AIロルバーンが動かなくなったことを確認すると、すぐに数名のスタッフが消火器のようなものをもってすっ飛んできた。

「消火! すぐ消火!」


 アイドル型AIヒューマノイドであるみゆみゆだが、いまは戦士の顔をしていた。


 この前彼女にしつこく質問をしたあの記者が、カメラを手にこちらを伺っていたが、みゆみゆがまっすぐ彼のほうを見ると、カメラをおろして引き下がった。


「ミユ……、君すごいね?」

 みゆみゆはユキナガの言葉に返事をする代わりに、彼の胸ぐらをぐいっとつかんだ。彼女の顔がふにゃっとなった。


「お主、どういうつもりじゃあ! 失踪などしおって!」

 みゆみゆはゆっさゆさとユキナガをゆする。ユキナガの首は前後にシャッフルされた。


「わたしが『これでさよならの握手』みたいなのが大嫌いなことを知っておるだろうに、燃やすぞ!」


「そこまで深い意味はなかったんだけど。どうなるかわからなかったからさ、……でも、ごめん」


「ごめんじゃないわ、馬鹿者があ!」

 それからみゆみゆはユキナガの胸に飛び込んでしがみついた。


「今日はわたしのそばにいておくれ、お前さま」

「ああ、うん、はい」


 確かに、ユキナガは職場の上司でもあるみゆみゆに大きな心配をかけてしまった。悪いことをした。


 しかし。


 回収されていく、黒焦げになったロルバーンをユキナガは振り返った。


「燃やすって、ものの例えじゃなかったんだなあ……」


 リンドウとアゲハのあいだで、今後のことについて協議が行われた。

 ムニョスが気だるそうにアゲハとしての見解を述べた。


「幸い被害は少なかった。公式行事の予定を急遽変えた形跡が残ると、帰ってから説明の仕事が増える。面倒な手続きが必要となる。このまま予定通りに行うのが良かろう」


 ヒメネス博士も彼の意見に同意した。

 今日はこのまま、ユキナガがヒメネス博士に助言したプラン通りに進む。


「しかし……自分の部下を犠牲にしてもかまわぬなどとは、なんとも野蛮な物言いだ。わしはそんなことを言わなかった。ヒメネス博士は言った。どこかに記録で残らぬといいがのう……」


 ムニョスの言葉を背に受けて、ヒメネス博士は振り返った。しかし彼女は何も言わずに向き直り、歩いて行った。


「夏目ユキナガ」

「ヒメネス博士、大変だったね」


 さきほど言い争ったので少し気まずい。


「戦闘における多大な貢献に感謝する。君とハツの規則違反は、この殊勲をもっておそらく不問にすることができるだろう。でも船に戻ったら一転して懲罰房の可能性もあるから一応覚悟はしておいてね」

「へいへい」


 ヒメネス博士は事務的に語り終えてから、ユキナガのところをじっと見つめ、それから足早に去っていった。


 ヒメネス博士は近くの物陰で、携帯式変換装置を使い自分の姿を一ノ瀬アンに変えた。リンドウ船団のトップから、アゲハ船団の臣下に姿を変えた。


 そしてムニョスの元に戻った。

 いくつか確認が終わると、アンはユキナガに近づいて行った。


「ユキちゃん」

「アン、君も同行していたのか」


「すごい騒ぎがあったことをいま聞いて、驚いていたところ。……まったく、ヒメネスはひどい女ね」

「そうかな? 非情な判断の必要な時が指揮官にはある。概ね妥当だったと思うよ」


「当り前じゃない! ヒメネスがどれだけつらかったと思っているの?」

「え、え、どっち?」


 アンはユキナガに詰め寄った。

「だいたいあなたは年下のくせに生意気なのよ! 全部わかっているみたいな顔して、本当にむかつく!」

「こういう性分なの、僕はこういう性分なの!」


 ユキナガは慌てるしかない。何なのだみんなして。僕だって頑張って生きているのに。


「まあ……ヒメネスもあなたに感謝はしていると思うけれど。言いにくいことを言ってくれる人のことをありがたく思っているはずだけれども……」


「ああ、だといいね」


 アンはユキナガのことをジトっとにらんだ。

「ユキちゃん、ほんとにヒメネスのこと嫌いじゃない?」

「嫌いじゃないよ」


「そう……ならいいけど。ねえ」

「ん?」


「……わたしたちがいまいる、この年の映画でおすすめって何?」

「1977年でしょ? 『ロッキー』だろうねえ」

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