第51話 平和公園での激闘
「ムニョス男爵が襲撃を受けただと? それでどうなった。まさか」
「現在も交戦中です」
「なんだよあいつ本当に狙われていたのか……。グスタフ戻るぞ!」
「承知」
ヒメネス博士とグスタフは、詰問中だったユキナガとハツには目もくれずに行ってしまった。
「おーい、いいの? 僕らまた逃げちゃうよ」
ユキナガとハツは顔を見合わせた。ハツはぷいっと横をむいた。
ユキナガはそのとき、さっきまでの試合中のことを思いだした。
1アウト2,3塁。バッター四番。この試合一番のピンチだったあの場面。
マウンドにキャッチャーのハツが駆け寄って来た。
彼女のユニフォームは汚れていて顔にも泥が少しついていた。
真剣な表情。なんとかこの場面を切り抜けたいと頭脳をフル回転させているのだろう。
きれいな子だなとユキナガは改めて思った。ハツは青いキャッチャーミットを口に当てて、ユキナガに向けてつぶやく……。
そこでユキナガは我に返って、彼もハツから目をそらした
「……逃げたところで、逃げ切ることは難しいのかもな」
ヒメネス博士たちを追いかけようとする重臣にユキナガが呼びかけた
「ねえおじさん、何が襲撃してきたのかわかる?」
「小型戦闘員型AIシュナイダーだ。以前、リンドウ丸船内に出没したものと同じ」
「ああ、あれか。グスタフはあれが苦手なんだよな。仕方がない、手伝ってやるか」
平和公園にて休憩を取っていたところをAI戦闘員の襲撃にあった。
複数の『シュナイダー』
護衛たちが拳銃などで必死にVIPを守っているところに、グスタフが風のように駆けつけた。シュナイダーは小型ですばしっこく、グスタフの巧みな剣技をもってしても倒すことは容易ではない。
「この……!」
グスタフは剣先から赤黒い球体の光線を放つ。
しかしシュナイダーは横に飛んでそれもかわしてしまう。
外れた光線は遠くの石碑に直撃した。
ロッテおばさんがガイドの旗を握りしめて悲鳴をあげた。
「ひいー、たぶん壊しちゃだめな何かを壊したー!」
シュナイダーの1体がその声を聞いて、ロッテおばさんに向かってきた。
「きゃ」
その瞬間、彼女の後ろの方から、風切り音とともに高速の何かが飛んできて、それはロッテおばさんに襲い掛かろうとしたシュナイダーの頭部を直撃した。
崩れ落ちるシュナイダー。飛んできたものはボールだった。硬そうなボール。
ロッテおばさんは自分の後ろを振り返った。
「ユキナガくん!」
「ボールは返してよ。記念にもらったウィニングボールだ」
「……ユキナガ氏」
ヒメネス博士もこの場にたどり着いた。
グスタフがユキナガをにらみつける。
「夏目ユキナガ、余計な真似を……!」
「出しゃばられるのがいやなら、さっさとお前が片づけんか」
「言われなくとも、……あ!」
グスタフが一瞬目を離したすきに、残り2体のシュナイダーが、ムニョス男爵に向けて襲い掛かった。
グスタフが追うが届かない。
「これがムニョスの受ける報いか」
ヒメネスがつぶやき、ムニョスは羽織っていたコートをマントのようにたなびかせ、左手で自分の体を覆うようにした。
2体のシュナイダーはしかし、ムニョスの直前で止まった。
「なんだ?」
ユキナガは何が起きたかわからない。
シュナイダーは真っ二つに切り裂かれていた。2体ともごろんと転がる。
ムニョスの前に、主と同じように翼を翻して自らの顔を覆う黒い物体が現れた。
グスタフは、自分よりもはるかに鋭い動きで飛び込んできたそれを見て呻くようにつぶやいた。
「ブラックウィングか……!」
エスカミーリョ・ムニョスの守護者。鳥型の戦闘用AI、ブラックウィング。
その姿をリンドウの者たちが見たのはこのときが初めてだった。
ブラックウィングは、じっとグスタフを観察していた。
リンドウとアゲハの主力同士の対峙。グスタフも引くつもりはなく、正面からブラックウィングを見据えていた。このさきどこかで戦う可能性があることは、きっとお互いにわかっていた。
そのときハツが叫んだ。
「まだなにかいる!」




