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第43話 彼女の気まぐれ

 ハツがユキナガの速球をミットで取った瞬間、大きな炸裂音があたりに響き渡った。


「また爆発?」

 誰かが叫んだ。そう思っても無理がない種類の音だった。この世界の人間が聞いたことのない音。


「ハツ!」

 みゆみゆが叫んだ。彼女はハツのところへ駆け寄った。


「ひどい音がした。すぐにメンテ部に診てもらわなきゃ。あの人間はなんてひどいことをするの!?」


 みゆみゆはユキナガによってハツの左手が壊されたと思ったようだ。


 しかし、ハツは心配するみゆみゆに向かってこともなげに微笑んだ。

 心配してくれてありがとう。でも、わたしは捕れるのよ。


 人々から驚嘆の声が上がった。


「ボールのスピードもすごかったが、あの女の子はなんだ? 平然とあのボールを捕ったぞ!」


「称えなさい。もっとわたしを称えなさい。わたしたちを称えなさい」

 ハツは嬉しそうだった。


 みゆみゆはしつこい質問攻めから抜け出せた形になった。

 彼女はあたりを見回す。

(あれ、あいつは?)


 みゆみゆはユキナガがこの騒ぎのなかどこかに行ってしまったことに気づいた。


 一番しつこくみゆみゆの過去について質問していた男はぽかんとしていたが、ここまでくると見事というべきか、なおもあきらめず、みゆみゆに名刺片手に近づいて来ようとした。


 もう本当に勘弁して。


 そのときほがらかでのんびりした声が聞こえた。

「いいお天気ね。お茶にしませんか!」


 声の方をみるとロッテおばさんがいた。


 大きなお盆におにぎりがたくさん乗っている。


 ロッテおばさんの後ろにはユキナガがいて、彼はポットとカップを持ってきていた。


「食べる!」


 まっさきに手を挙げたのは、たしかゴンゾーというパイロットの若者だった。


 ゴンゾーに続いて乗員たちが次々と集まってきた。


 ロッテおばさんはみゆみゆの耳元でささやいた。

「ユキナガくんがね、わたしのところへ来たのよ。あなたを助けてあげてくれって」


 みゆみゆは、はっとしてユキナガのほうを見た。


 彼はただ淡々と、お茶をみんなのカップに注いでまわっていた。


 そして甲板の床に座って、おにぎりパーティが始まった。


「ロッテおばさん、いただきまーす♪」

「いただきまーす!」

 みゆみゆの声に、たくさんの野太い声が続いた。


 しつこかった男はさすがにあきらめたようだった。


 みゆみゆはおにぎりを食べる面々にひととおり愛想を振りまき終わると、ユキナガの隣に座った。


 ハツは向こうにいる。あっちはあっちで、彼女の見事な捕球にファンになったものが数名いたらしく、囲まれておしゃべりをしている。


 お茶を飲みながら、みゆみゆは、もののついでであるかのようにそっけなくユキナガに聞いた。

「聞いていたのだろう、さっきの話を」

「ああ、聞こえてたよ」


「わたしの立場じゃと、ああいうことはたまにあるのだが、さすがに今日はうんざりした。確かにわたしには所有者がいない。所有者同乗の原則に反しているから、厨房室の備品扱いというか、とにかくあやふやな立場でリンドウ丸に乗っている。その理由をまわりは勝手に推測する。他のAIとケンカしたからだとか、わたしが人間を好きになったからだとか。……そなたはどっちだと思う?」


「え、知らない」

「……ああ、そう」


 ゴンゾーは、ユキナガのとなりでおにぎりをぱくつきながらちらちらとみゆみゆを見ていた。


 アイドルモードを怠っちゃいけないと思い、彼女はゴンゾーにも話しかけた。


「あなた、おにぎりもっと食べたら♪」


「あ、あざっす! えっと、俺あなたのような有名な方とこんな近くで話すのは初めてで……緊張しちゃって……なんとお呼びすれば? 本名は確か……」


「『高桑モスコミュール』だけど、長いから誰もそんなふうには呼ばないわ」


 二人の会話にユキナガが口をはさんだ。

「みんなと同じで、『みゆみゆ』でいいんじゃない? 俺は部下だから彼女をそう呼ぶと怒られるけれど」


 みゆみゆはユキナガをにらみつけた。

「別に怒ってなどおらぬ。それに、みゆみゆではまだ長い。無駄を省け馬鹿者が。……ミユでいい」


「え、そうなの?」

「不満か?」


「別にそんなことは。……わかったよ。ええと、ミユ。けれどいったいどうして急に」


「気まぐれじゃ。ユキナガ、お前まさかこのわたしが、ちょっと心を許しはじめたなどと思ってはおるまいの? だとしたらとんでもない勘違いじゃ燃やすぞ。いいから茶を飲め茶を」

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