第37話 ダンスパートナー
リンドウ船団とアゲハ船団の交流パーティーが行われたのは、オーロラの中を漂うような時間を逆流する空間に入ってから2日目のことだった。
数百年を遡る旅の途中に置いて、2日目という時間経過の表現にどれほどの意味があるかは分からなかったが、とにかくいまは2日目であると彼らは定めた。
音楽家たちが奏でる曲がひときわ華やかなものに変わった。
いよいよパーティーが本格的に始まるようだった。
ホールの真ん中で踊り始めた二人がいた。
その周りをリンドウ丸とアゲハ号の若者たちが取り囲んで声援を送る。
踊っているのはみゆみゆとグスタフ。2体のAIヒューマノイド。
みゆみゆは白いシャツにあずき色のスカートという格好だった。
真珠のネックレスと、木の実や貝殻で作った首飾りを二重に身に着けていた。
首飾りは彼女がステップを踏むたびにシャラン、シャランと音を鳴らした。
みゆみゆのツインテールも彼女と一緒に踊っていた。黒髪とインナーカラーのピンクがとても映えた。
グスタフは白いシャツの上から薄緑色のベスト。ズボンも薄緑の縞模様で、ゆったりとしたデザインのもの。
ふたりのダンスは見事だった。
みゆみゆの素晴らしさは言うまでもなかったが、グスタフがこれほど踊ることができるとはユキナガにとって意外だった。
楽しそうに、時として意味ありげに見つめあいながらみゆみゆとグスタフは踊り続けた。
花がいっぱいに咲く野原のような舞だった。
誰もが二人の踊りに魅了されていた。
ユキナガには当たりのきついみゆみゆだが、今の彼女は誰よりも華やかで、心から人々を愛しているように見えた。
やがて音楽がやんでダンスが終わった。万雷の拍手。
オープニングアクトを終えた踊り終わった二人は手をつないで、周りの人々に笑顔で礼をした。
何度か礼をしてから二人はつないでいた手を離した。すると互いにすんっと表情が消えて、パートナーに対する挨拶も何もなく背を向けてそれぞれの席に戻っていった。
「ビジネスカップル……!」
ユキナガは、二人の豹変ぶりに心が冷えた。
宴の会場はリンドウ丸内部のセレモニーホール。
巨大な戦艦の内部とはいえ、豪華客船とは違ってホールはそこまで広くない。天井も低い。壁には油絵や、異国の織物が数多く掛けられていた。
白いテーブルが並び、たくさんの料理が置かれている。
さっきまではユキナガも配膳を手伝っていたが、いまはとりあえずテーブルのひとつにハツと一緒に座っていた。
みゆみゆはユキナガとハツの向かいの席に腰かけた。
「人間、食事をしていてもいいけれど、手早くな。わたしたちは片づけを始めなければならぬ」
「承知しました。ボス」
「誰がボスじゃ。燃やすぞ」
「へいへい」
「なんだその態度は」
みゆみゆはまだ何かいいたそうだったが、舌打ちをしてぷいっと横を向いてしまった。
ハツが小声でユキナガにささやく。
「あまりみゆみゆの神経を逆なでするようなことは言わない方がいいと思う」
「知らんよ。どうせ何をどう言っても怒られるんだ」
そのときまた大きな拍手が起こった。ユキナガがそちらを見ると、ヒメネス博士と軍服姿の老人が笑顔とともに握手を交わしていた。
老軍人は胸にいくつもの勲章を付けていた。
「博士が話している相手が、もしかするとアゲハ船団のトップ?」
「違うな」
ユキナガの問いに、不機嫌なままのみゆみゆが答えた。
「彼がアゲハ船団のとても偉い人物であることは確かじゃが、トップではない。むこうの最高司令長官はエスカミーリョ・ムニョス男爵といって、もっと若い」
ハツがその名前を聞いて、何かをすこし考えているようだった。
「ユキナガくん、怖い話をしてもいい?」
「急にどうしたのさ。いいよ、聞くよ」
ハツは腕組みをして首を傾げ「うーん」とうなった。それからユキナガのほうを見た。
「あのね、それは『4隻の船』のはなし。ヒメネス博士から聞いた。おおっぴらにしていない情報らしいので、話していいものか少しためらいがあったのだけれど、わたしユキナガくんは知っておくべきだと思うの」
そしてハツはユキナガに話した。
はるか昔、外国へ船で向かう際に、帰ってこられる確率がたった25%だった時代。
必ず4隻で向かうことが習わしで、最低でも1隻が任務を果たして帰ってくることができればそれでOKと考えられていた。
その習わしに倣って、自分たちは2つの船団で過去へと向かうのだ。
今回の予測生還率は50%と見られている。つまりリンドウ船団とアゲハ船団のどちらかは帰ってこられないことが前提の事業計画。
「へえ……」
ユキナガはハツの話を聞き終えて少し考えこんだ。なにか言おうとしたが、そのまえに、自分たちのテーブルに近づいてくるものがいることに気づいた。
ハツの話を一緒に聞いていたみゆみゆが振り返った。
彼らの傍らにヒメネス博士が立っていた。




