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第21話 思わぬ結果

 田中ハツ、君は残念ながら不合格だ。


 ヒメネス博士は、あまりにもあっさりとした言い方で、ハツを絶望に叩き落した。


(駄目だった……。わたしの作ったゴハン、おいしくなかったんだ。ごめんユキナガくん)


「あの……、わたしの料理はどこが良くなかったですか。できれば教えてください」


 ハツの問いに、ヒメネスは淡々と答えた。

「実を言うとね。料理の良し悪しはこの試験に関係ないんだ。見ていたのはそこじゃない。そしてもう一つ言うと、このみゆみゆはリンドウ丸の乗員としてすでに内定している。今日は君を試験するために仕掛け人をやってもらった」


「ごめんねえ。てへ」


 みゆみゆがピースサインとウインクをハツに投げかけた。もやもやする。


 ヒメネスが言葉を続ける。


「君は商店街で買い物をしたとき、お釣りの計算間違いに気づいて、金を返した。素晴らしいことだ。さらには料理試験においても、冷蔵庫を閉め忘れたみゆみゆのミスをフォローした。これも素晴らしいことだ。知らないふりしていれば自分が有利になったというのに。けどね、わたしたちが今回必要としているのはそういう正直なAIヒューマノイドではないんだ。相手が隙をみせたらそれにつけこんで確実に勝利をつかむことができるかどうか。勝者に必要なずるさというものを持ち合わせているかどうか。わたしたちはその点を見ていた。だから田中ハツ、残念ながら君は不合格だよ」


 ああ、ほんとだ。確かに。ハツは思った。


 たしかにほっておけば、みゆみゆはプリンを作りそこなって自滅してくれていた。


 ハツは別にフェアプレー精神から冷蔵庫のドアを閉めたつもりはなかった。


 みゆみゆを陥れることを思いつかなかったのだ。


 それが求められている適性の欠如だといわれれば、まあそうなのかもしれない。


 ハツはうつむいて、ステンドグラス柄の手帳を取り出して開いた。そして緑色のカートリッジを小指で触れて、コックスキルを消去した。


 ユキナガくんに申し訳ないな。さっきの様子だと彼はきっとオセロに勝利して合格しただろうに。


 もしかしたら。ハツは思った。


 ユキナガくんがとてもとても優秀な成績であれば、AIヒューマノイドの自分とペアでなくともリンドウ丸に乗船することができるかもしれない。


 そうであればまだ救われる。

 いや、だめだ。彼は投手だ。それしかできない人だ。


 彼にはボールを受けてくれる捕手が必要なのだ。わたしが必要なのだ。


 どうしても合格しなければならなかった。


 ハツはお辞儀をして部屋を去ることにした。これ以上ここにいても何も変わらない。


「ハツちゃん♪」


 みゆみゆがハツに近づき、右手を差しだした。ハツはその手をぼんやりと眺めて、鈍い動きで右手をだし、手を握った。


 なんだか強く握ってくるなあと思っていたら、みゆみゆが真剣な目でハツを見つめていることに気づいた。


 彼女の表情からはさきほどまでの甘々な微笑みが消えていた。


 みゆみゆは低い声でささやいた。

「そなたのような正直者と一緒に仕事をしたかった。残念じゃ」


 そして彼女は握っていた手を離した。

「それじゃあ、お元気で。縁があったらまたいつか~♪」


 すぐにみゆみゆは声も表情も普段の彼女に戻っていて、にこやかに手をひらひらと振って見せた。


(あの子あんな顔するんだ。ちょっとびっくりした)


 やがてハツもみゆみゆも出ていき、部屋にはヒメネス博士とロッテおばさんだけになった。


 夕日が差し込んで部屋の中全体が赤く染まっていた。


 ヒメネス博士とロッテおばさんも赤く染まっていた。


 ヒメネス博士の眼鏡に光が反射して、表情が良く見えない。


 うつむいていたヒメネスがつぶやいた。


「ロッテおばさん、わたしのやっていることは醜いかい?」


「いいえ、そんなことは思いません。ただ、ハツちゃんはあなたに喜んでほしくて一生懸命料理を作りました。感想くらいは言ってあげてもよかったかもしれません」


「あれ、わたし感想言わなかったっけ?」

「なにも言っておりませんでしたね」


「そうか、気づかなかった。試験のことで頭がいっぱいだったからかな。自分で思っているよりも周りが見えなくなっていたんだね。いい味だったんだが」


「気を付けないと。そのときに言えないと一生言えないことって割とありますから」


「そうだね、その点はすまないことをした。伝えたかったな。おいしかったんだよ、ほんとに」

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