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第18話 ハツの試練

 ハツを含むAIヒューマノイドたちは、基地の外に出て横須賀の街をしばらく歩いた。


 着いた先は何の変哲もないマンションだった。こんなところで何をやらされるのだろう?


「グッドラック」


 ヒメネス博士はハツの横を通り過ぎながらやさしい声をかけた。


 そして彼女はAIヒューマノイドの一団の前に立った。


 取り出した山吹色の扇子でみんなを指し示す。


「君たちは、スキルによる能力個体差が大きい。はっきりと得手不得手がある。だから全員に同じ種目をやらせても意味がない。今からいくつかの種目を提示する。自分でどれに挑むか選択してほしい。選んだ種目で対決。勝てば合格」


 科学者らしい簡潔な説明が終わり。ハツたちの前の中空に種目の一覧が大きく表示された。


 オレンジ色に光る、空に浮かぶ文字。


 種目の横にはそれぞれ3桁の数字があった。


 ハツは種目一覧をしばらく眺めた。


「野球がないな……」


 あるわけがあるかとは思いつつ一応探してみたが、やはり、ハツの持つスキルである『捕手』を生かせるような種目は見当たらなかった。


 ヒメネスがぴしゃりと扇子を鳴らした。


「決断が遅い奴って好きじゃない。速やかに移動してよね」


 彼女の言葉に緊張が走り、AIヒューマノイドたちは動き出した。


 ハツも完全に考えがまとまったわけではなかったが、とりあえず動き出した。


 ハツの近くにいた着物姿の男性タイプAIが「移動としろと言われても、どこにいけというのか。ちゃんと説明をしなければだめじゃないか」と不平をこぼした。ヒメネスにその声が聞こえていた。


「決めろと言われたら決めろ。そして動け!」

 彼女の一喝。


 叱られた着物AIは不満げに「ダメだな。国のやることは」とつぶやいてなおもその場に立ち尽くしていた。


 ハツは(彼はもう不合格でいいんじゃないかな)と思いながら歩いた。


 ダメな国の人たちも同じ考えだったようで、マンションの扉が突然冷たく閉じられた。


 ハツはもう扉の内側に入っていた。2割くらいは外に締め出されたようだ。


 同行していた係員が外のAIヒューマノイドたちに説明をしていた。


 しかしおそらくどれだけ説明を重ねたところで、外にいるものたちは何を言われているかわからないのだろう。そして人のせいにするのだ。


 ハツはマンションの203号室に向かった。エレベーターがあったが、混んでいたので階段を使った。


 薄紫色の扉の横の呼び鈴を押すと、小さなスピーカーから女性の声がした。


「はーい、どうぞお入りくださーい」


 まるで、ただ単に知り合いの家を訪ねてきたと勘違いをしそうになるほどの、のんびりした声だった。


 玄関の扉を開けると廊下の向こうからエプロン姿の中年女性が小走りでやってきた。


「よーこそー、靴はそこでいいからね。あがってあがって」


 花柄のエプロンを身に着けたふくよかな女性は、ハツに部屋の中へと入るよう促した。


 生まれた時からずっと笑い続けてきたような目元のしわがとても感じの良い女性だった。髪をまとめてそのうえから白い三角巾で結んでいた。


 彼女の後ろからハツは部屋の奥へと進んだ。


 リビングに入るとそこからはさすがにただのお宅訪問とは様子が違った。


 キッチンがとても大きい。流し台とコンロが2組ずつあって、冷蔵庫も中型のものが2台並んでおかれていた。


 リビング部分には白い大きなテーブルがひとつ中央に置かれていた。椅子はなかった。


 さきほどハツを迎えに来てくれた女性と、AIヒューマノイドと思しきメイド服に身を包んだ小柄な少女がテーブルのわきに立ってこちらを見ていた。


「わたしはおふたりの試験を担当するロッテおばさんです。よろしくね」


 自分でおばさんと名乗った、ふんわりな口調。


 わたしこの人好きかも。ハツはクスっと笑った。


「田中ハツです。よろしくお願いします」

「みゆみゆです。よろしくでーす!」


「みゆみゆ?」

 ハツは怪訝な顔で小柄な少女にたずねた。……なめてる?


「あ、本名は高桑モスコミュールです。でもファンのみんなにはいつもみゆみゆって呼ばれてまあす!」


 綿菓子に人格があったらこういう話し方をするのではないだろうかというような甘い声だった。……なめてる?


 メイドさん姿のみゆみゆこと高桑モスコミュールは長い黒髪をツインテールにしていた。インナーカラーのピンク色がなかなかに賑やか。たれ目で幼い顔立ちをしている。


 でも、そこがある意味人間以上に難しいところで、設定年齢が実際どうなのか、童顔な大人なのか多少大人びた子供なのかがなかなか判別つかない。


 そんなものデザインした人間の思惑次第なのだが、AIヒューマノイドデザイナーの執念というものはすさまじく、何がそこまでさせるのだと思わせるような、趣味嗜好を詰め込んだ繊細で通をうならせるデザインのものがたくさんいた。


 ハツは自分のわりとこざっぱりとしたデザインが気に入っていて、こんな感じでよかったと常々思っていた。


「おふたりともよろしゅうに」


 ロッテおばさんのはんなりとした声が心地いい。


「みゆみゆちゃんとハツちゃんには大きな台所を使って料理対決をしてもらいます。冷蔵庫がふたつあるでしょ、でも今現在あの中身はからっぽなのね。そとで自分の好きな材料を買い集めるところからやってもらいます。テーマは『友達を呼んでのお誕生会』それではスタート!」


 なんだろう、そのテーマ。

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