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第16話 オセロ

 そして巨大な石を使ったオセロ対決が始まることになった。

 

 ユキナガがリンドウ丸に乗ることができるかどうかの採用試験。


 順番は河原田ダイゴが黒の先番。


 スタートを告げるブザーが鳴り、河原田は大きくて平らな白黒の石を両手でもった。


「あれ……お、重い!」


 体幹の強そうな河原田の足腰が、予想外だったからとはいえ石の重さで少しふらついた。


「え、それ重いの?」

「すごく重い!」


 河原田は改めてしっかり大きな石を持ち直して階段を降りだした。


 ユキナガは聞いてみた。


「ねえ、その石何kgくらいありそう?」

「たぶん25から30㎏のあいだかな」


 取っ手があればまた別だろうが、両腕で抱きかかえてその重さの石はなかなか大変だ。


 空中に大きな数字が浮かび上がった。120,119,118……、減っていく数字。


 2分の制限時間を表していた。0になる前にこの鉄塔の屋上まで戻ってこなくてはならない。


 ユキナガは手すりに両肘でもたれて河原田の様子を眺めていた。


 マス目にたどり着いた河原田は、すでに中央に置かれている4つの白黒の石のそばに、自分が運んだ石を置いた。


 そして一枚白から黒にひっくり返した。


 のこり時間は90秒。河原田は小走りで階段を上り戻ってきた。


 屋上に足を踏み入れた瞬間に空中のデジタル数字が120に戻った。


 数字の色が黒から白に変わりチロリンとチャイム音がなった。


 ユキナガが石に触れていいのはこの瞬間から。


「さて行くか」


 ユキナガは河原田と同じように石を両腕で抱えて階段を下りた。


「なるほど、これを一手一手繰り返すのはしんどい。知力と体力が同時に試される試験か」


 リズミカルに階段をおりてマス目の中央に駆け寄る。

 

 たった一度負けたら終わりの勝負。


「こういうの好きだ」

 ユキナガはやる気出てきた。


 テンポよくユキナガと河原田の対局は進んだ。


 互角の展開だったが、河原田の一手で4枚の石が黒色にひっくり返された。


 単純な数では河原田がリードしたように見えるが、オセロというものは後半勝負だ。前半の中途半端なリードはあまり意味がないことが多い。


 河原田は鉄塔の上まで戻った。時間は20秒の余裕があった。


 ユキナガが石をもってマス目に向かう。


 屋上で息を整えながら河原田は考えた。

(結局は隅っこを取ることができるかどうかだな。そのためには隅っこの一つ手前のマスに石を置かないことが基本だ。しかしこれは疲れる)


 ユキナガが白い石を置いた。そして2枚の石をひっくり返す


 そのとき河原田は、はっとした。突然思いついた。

(……違う。このゲームの本質はそういうことじゃない)


 額に汗を浮かべて階段を上ってくるユキナガを河原田は見つめた。

(このことにユキナガくんは気づいているのだろうか。もし気づかなければ早々に僕が勝つことになる)


 ユキナガが戻り黒の河原田の順番、石を抱えて階段を下る。

(オセロの強い弱いはあまり意味をなさない。おそらくほかの組でも、最後までゲームをやりきって純粋にオセロの実力で決着することはほとんどないのではないだろうか。この試験のポイント、それはうまく相手を時間切れ失格に追い込むことができるかどうかだ)


 河原田はさきほど4つ石をひっくり返した。体力的にも結構大変だったし、屋上までもどったときの残り時間は20秒だった。


 4枚でこれだ。これがもし5枚、6枚、もっと多くなればどうなるか。


 単純なオセロとしてみればそれはゲームの流れを決めうるビッグプレーだろう。しかし重い石をひっくり返して、時間内に戻ることができなければその瞬間失格になってしまうのが今やっている試験のルールだ。


 河原田の体力でいけるのは何枚までだろうか。そしてユキナガの限界は。

(限界点はおそらく8枚ではないだろうか。相手にわざと8枚以上をめくらせる。そのためにはあえて四隅のマスをユキナガに取らせるのだ)


 河原田は自分のめくる枚数はほどほどに抑えつつ、四隅の一つ前のマスに黒石を置いた。


 普通ならば河原田のミス、ユキナガのチャンス。


 でも今は違う。もしユキナガが河原田の罠に気づかずに四隅に置けばその場合・・・・・・。

(なんと縦横斜めあわせて11枚じゃないか。決まる。もしユキナガくんがそこに石を置けば間違いなく時間切れで僕の勝ちだ)


 そしてユキナガは白石を置いた。河原田が願ったその場所へ。


 河原田の顔に笑みが浮かんだ。

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