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第15話 一発勝負!

 暗く長い廊下を受験者たちは進んだ。


 しかしさっきのAIヒューマノイドはいやなやつだった。ユキナガは思った。


 AIにもいろいろな性格があるようだ。『人間だって同じでしょ』とハツならいいそうだ。


 シバのすけはとてもいいやつだった。ハツはどうだろう。少なくともあの少年型AIとは違うように思える。


 ハツも、あちらはあちらで試験が始まるころだろうか? 


 AIヒューマノイドは人間の所有者と一緒にでなければ時空移動戦艦リンドウ丸への乗船はできないとのことだったので、とにかくユキナガが合格しないことには始まらない。

 

 移動する途中で声をかけられた。


「やあ夏目くん、これから何をするのかは分からないけれど、よろしく頼むよ!」


 さきほど河原田ダイゴと呼ばれたその男が、ユキナガの対戦相手だった。


 髪は短く刈り込み、黒いジャージ姿だった。


 これから動き回ることを最初から想定していたような感じだ。


 二十代だと思う。背はユキナガより少し高く、肩幅がある。


 しっかりとした筋肉がついていることがジャージの上からもうかがえる。


 あと10年もすると昭和の典型的な体育教師になるような、その前段階にいる男性のように思えた。


「あーはい、よろしくです」


 向こうが右手を差し出したのでユキナガもそれにこたえて握手をした。


 なんだか腹まで響く声で話す男だなあとユキナガは思った。


 重低音の河原田はそのあとも歩きながら話し続けた。社交的な男のようだった。


「過去へタイムスリップして、安全に帰ってこられることを実証すること。そして失われた歴史を調査すること。大きな危険を伴うだろうが崇高な仕事じゃないか。そう思わないか」


「そうですね。人類には取り戻さなければならないものがある。心からそう思う」


「どちらが勝っても恨みっこなしだ。胸を借りるつもりでぶつからせてもらうよ」


「お手柔らかに」


 さわやかな男だ。


 でもこの人は、自分が勝つと思っているのだろうな。若いユキナガを格下だと思っているのだろうな。


 謙虚な態度の向こうがわに、彼の本音が透けて見えた。


 そういうやつをやっつけるのは楽しい。


 外の見えない長い廊下をしばらく歩いた。


 それから窓のない待合室のような場所にたどり着き、そこで少し待たされたあと、ユキナガと河原田ダイゴは奥の扉から屋外に出された。


 水泳の飛び込み台のような鉄塔がまず目に入った。


 鉄塔は高さが20mほどあるだろうか。階段と踊り場が見えて、その屋上のひらべったい場所にはなにかが大量に積み上げられているようだった。


 二人はその鉄塔の階段を上るよう促された。


 屋上は良い景色だった。遠くに海と白いリンドウ丸。ほかにも何隻かの軍艦が見えた。


 そして自分たちがいるものと同じような鉄塔が距離を置いていくつもある。何かの訓練施設なのだろう。


 ユキナガたちと同じような受験者の人影が見えた。


 鉄塔の足元は広い芝生のグラウンドのようになっていて、そこには白いラインで8×8、計64のマス目が描かれていた。


 下からも見えたなにかが傍らに大量に積み上げられている。


 それは薄い円形の物体だった。大きい。直径1m近くある。見えている面は白色。


「裏は、黒かな」

「なるほど」

 ユキナガの言葉で、河原田も気づいたようだった。


 係がルール説明を始めた。


 巨大オセロ。


 この鉄塔においてある石を運んでゲームを行う。勝てば合格。


 時間制限がある。1手に費やしていい時間は2分。


「1手ごとにこの鉄塔のてっぺんまで登ってきて、良く盤を見渡してから石を持って降りる。そういうことだな」


 説明の最後にもう一言が付け加えられた。


 このゲームに負けたものは敗退。救済処置は無し。この場でおうちに帰らされる。


「このオセロ一回で僕の人生が決まるのか」

 ユキナガは自分の状況を理解した。


「一回で終わりか。ひどい試験だな。そう思わないかユキナガくん」

 スタートを待つ間に河原田が話しかけてきた。


「そうですね、僕けっこう遠くから横須賀まで来たんですよ。これで終わって速攻帰るのは避けたいですねえ」


「ふうん、そうなのか。たったひとつ負けただけで人生がガラッと変わってしまうなんて、とても理不尽なことだよ。一発勝負で実力を判断することなど難しい。かといって大勢をじっくりと時間をかけて選別することが現実問題難しいというのも確かなのだろうが。まあできれば避けるべき乱暴な方法だな」


 ユキナガは河原田の言葉を聞いて少し黙った。

確かに彼の言っていることは、正しいのだろう、が。


「昔ね。高校生のする野球が国民的な人気コンテンツだった時代がこの国にはあるんですよ」


「野球……? それはいったいなんだったかな」


 知らないだろうなとは思ったが、この世界での知識階級に見える河原田もやはり野球のことは知らない。


「それの大会形式がまさに一発勝負だった。どんな強いチームでもたった一度負けたらそれで敗退」


「本当に強いチームを決める大会とは呼べないな、それは」


「そうかもしれない。でも彼らはその稚拙なルールを受け入れて、自分の人生を賭けました。たったひとつの偶然で大きく人生が変わってしまう。将来が変わってしまう。夢が終わってしまう。その不思議を人々は愛した」


 理解してもらえないことは分かっていたが、それでもユキナガは話した。


 高校野球、もう一度やりてえな。彼は思った。

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