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第14話 ユキナガの試練

 大きな広間にユキナガ達『人間組』の採用試験参加者が集められた。見回すとざっくり100人ほどいる。


 予想はしていたことだが、高校生のユキナガはこのなかで一番若いようだった。


 いろいろなタイプの人間がいる。


 いままでも大きな仕事にかかわってきたことが想像に難くない高そうなスーツが似合うエリート風もいれば、白いタンクトップ姿の『力こそパワー』なタイプもいた。


 3,000人が乗るリンドウ丸には無数のポジションがある。多様な種類の人間が集まるのは自然なことだろう。


 一段高いステージに大きな演台があった。


 ステージの手前には礼装の兵士が4人みじろぎ一つせずに立ち、重たい威圧感を放っている。銃は持っていない。


 きっとこれから演台でデスゲームの説明が始まるように思われた。


 そのまましばらく待たされて少しざわつきだしたころに、4人の兵士が突然同時に向きを変えて敬礼した。


 ユキナガが彼らの目線の先を伺うと、一人の少年が演台に向かって歩みを進めてきた。


 つかつかと、神経質そうな歩き方だった。


 中世の礼装のような恰好をしていた。まるで騎士のような。


 彼はユキナガよりも若く見えた。


「うるさいな」

 その少年の口調は初手からけんか腰だった。


「話を聞く気がないものは帰っていい」


 少年の声は広間によく響いていたが、それを聞いても『人間組』たちのざわめきはなかなか収まらなかった。


 少年は剣を抜いた。彼は帯刀していた。


 彼が剣をかざすと剣先に大きな光の球が生じた。


 赤黒い光の球はなおも静まらない人間たちに向かって放たれた。凄い音。衝撃波。


 あれ? これっていっぺんに大量に死ぬやつ?


 一瞬、ユキナガの脳裏にハツの「オワタ」という声が聞こえた気がした。


 赤黒い光球はユキナガを含む人間たちに直撃するように思えたが、彼らの手前で大きく軌道を変えて、天井に吊るされた大きなシャンデリアに命中した。


 シャンデリアは砕け散り、ガラスの破片が人間たちに降り注いだ。


「痛い痛い痛い」


 死ぬよりはましだったが、ある程度のけが人が出た。


 ユキナガは少しガラスを浴びたが無傷で済んだ。


「だまれ」

 少年はさきほどよりも声量を落として静かに命じた。


 しかし興奮した人間たちの騒ぎは静まらない。


 少年は再び剣をかざした。


 まがまがしく輝く光球が別のシャンデリアを粉々にした。降り注ぐ破片。人間の悲鳴。


「だまれ」


 もう一度少年の静かな声。


 黙らない限り少年は淡々と赤黒い光球を放つつもりだ。


 人々は恐怖で静まり返った。彼の望んだ沈黙が広間に訪れた。


「試験は2人ずつの対戦形式で行う。部屋に移動してそこで競技ルールを説明する。名前を読み上げるので試験管の誘導に従うように」


 淡々と説明をする少年。


 壊されたシャンデリアの残り部分が天井でまだ揺れている中、少年は自分のやったこととその結果に一切興味がないようだった。


 誰も納得はいっていなかったが、少年の傍らの兵士が名前を呼び始めるとぞろぞろと移動を開始した。


 やがてユキナガの名前が呼ばれた。そして同時におそらく彼が競うことになるだろう相手の名も続けて呼ばれた。


 広間を出るときに、ユキナガは説明役の少年の横をすれ違った。


 ユキナガは少年のほうは見ずに声をかけた

「君は僕の知っているAIとはだいぶ違うね」

 

 いつも優しかったシバのすけ。そしてその妹のハツ。


「わたしはこういうふうに作られた。それだけだ。ほかなど知らぬ」


「一番質の低そうなAIだよあんたは」


 ユキナガが振り返ると少年はこちらを見ていた。その目の奥が赤い光を放っていた。


「わたしはこれでも最新型なんだがな。人間、お前の名前は?」


「夏目ユキナガ」


「どうしてそんな学校にいくような恰好でここに現れたのだ? 浮いているぞ」


「制服で会場に現れるなんて、尾崎豊みたいで格好いいじゃないか」


「誰だそれは。お前のことを覚えたぞユキナガ。わたしの名は」


「いいよ、別に名乗らなくとも。覚える気ないし」


 リンドウ丸に乗るとなると、これからこのAIヒューマノイドと関わることは避けられないのかもしれない。良い関係を築いた方が利口なのかもしれない。


 それでも、ユキナガにとって彼の名前は聞く必要のない情報だった。

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