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第13話 ハツの特殊機能

「ハツ、明日は何時まで行けばいいんだっけ? えっと、朝の8時だったかな、9時だったかな」

 気を取り直してユキナガは確認した。


「あやふやなひとですね。8時ですよ。その感じだと集合場所とかもうろ覚えですね」


「悪かったな。昔……僕の前世、むかしの時代だとさ、こういうときにスマホで簡単に情報を検索出来たんだけどね。ハンバーガーショップなんかだとフリーWiFiに接続できたし」


「都会では、あなたの時代ほどではないにしても、そういう類のものが徐々に復権しているはずですよ。ええと、ほらこのへんってWiFiにつながる」


 ハツの言葉にユキナガは驚いた。


「え? WiFiになにがつながるの?」

「わたしがです。すごいでしょ」


 よく見るとハツの左目の奥が普段の紫色ではなく緑色に輝き、ゆっくり点滅していた。


 たしかに『何かに接続した状態』に見える。なんとWiFi規格がこの未来世界で現役だったとは。


「すごいね、助かる。でもAIヒューマノイドにそんな機能があるなんて知らなかったな」


「最近のタイプには一切この機能がついていません。わたしが開発された時期にごく一部の機種にだけWiFi接続機能がつけられて、ひとつも流行らなかったので廃れちゃったみたいですね」


「へえ。テレビデオみたいなものかな」


「その例えはぜんぜんわかりませんが……。お、情報を発見しましたよ。やっぱり集合の時刻は午前8時。場所は南ゲート内。どう? わたしは便利でしょ。おまぬけなユキナガくんを立派にサポートしてるでしょ。称えよ」


「はいはい。それで試験の内容は何か情報出てる?」


「ん?」

 かわいらしいどや顔だったハツがきょとんとした顔になった


「……試験ってなあに?」

「へ?」


 そして次の日。


 乗船希望者が集まる会場にはたくさんの人やAIヒューマノイドが押し掛けた。


 時間になると責任者が今日の試験内容について説明を始めた。試験。


「採用試験あるんじゃん!」

 ハツは大きな声をだしてしまった。


 彼女は彼女で実施要項の大事なところをろくに読んでいなかったのだ。


「え、聞いてない! わたし全然そんなつもりなかったよ! ここに来れば自動的に採用だと思ってた! え、え、いま倍率10倍って言った。行けるかこれ? 厳しくないかこれ?」


 それは確かに厳しい関門ではあった。


 ここで不採用になったら、ユキナガの過去へ帰るひそかな計画はスタート地点に立つことすらなく終わる。


 それどころか、リンドウ丸に乗船できなきゃ実家に帰るしかなくなり、その場合ユキナガはただ数日家を空けただけのバカ息子。


「受かるしかないよ。ハツ、ふたりで一緒に力を合わせて受かろう」

「そうですよねユキナガくん。いまこそわたしたちは互いに助け合うとき」

 

 二人は手を取り合った。


 そのとき係の大きな声が響いた。


「乗船採用希望者の選別試験は、種別ごとに行います。人間はゲートAに、AIヒューマノイド類はゲートBに進んでください。はい移動開始、わかれてわかれて」


「はなればなれ!」


 ハツの悲痛な声が響き渡った。


 ユキナガはため息をついた。自分自身にも動揺はあったが、でも彼女ほどではない。


 ユキナガの前世で、このような大切な節目は何回もあった。


 その都度勝ったり負けたりを積み重ねて、幸い勝てたことの方が多くて、結果としてどうにか彼はプロ野球選手になることができたのだ。


 ある意味いつも通りであり、この緊張感こそ彼がずっと望んでいたものであった。


「僕たちは負けるもんか」

 ユキナガは右のこぶしをハツに向けて差しだした。


 ハツは左のこぶし。ふたりはこつんとグータッチをした。

 

 彼女は微笑んだ。少し落ち着いたようだった。

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