九十六ニャン 夏の訪れ
ピンポーン!
「ん? 何だ?
何か頼んだっけ??」
季節はもうあっという間に夏になり、クーラーの冷風を求め、猫達がクーラーの真下を陣取るようになった。
まんぷくも、最初はボーボーと風を吐くクーラーに警戒していたが、クーラーの冷気と床の冷たさを合わせると、もう暑さなんて忘れてしまう。
かつおも割と『暑がり』な為、6月になるとクーラーが欠かせなくなる。
かつお家では、暖房を使う冬よりも、冷房を使う夏の方が電気代が多くなってしまう。
猫を飼っているからしょうがないのだが、なるべくこまめな節電を心掛ける。
テレビはなるべく見ないようにして、電気も極力弱くして灯す。
普段は窓辺にいるのが好きなさくらでも、夏になると窓から遠ざかる。
天から降り注ぐギラギラした太陽の光は、窓に取り込まれると部屋の温度ですらも暑くしてしまう。
もちろん、そんな状態の窓に触れたら、人間でも動物でも跳ね上がる。
だから夏の時期は、カーテンを閉めるのが『節電術』の一つでもある。
その分、少し部屋は暗くなってしまうものの、生活に支障はでない暗さ。
それに、猫は暗い場所に強い。むしろ部屋が暗いと、ヤマブキ達はハイテンションになって元気になる。
かつおが玄関のドアを開けると、ムワッとした熱気が押し寄せ、段ボール箱を届けに来た配達員の額にも汗が滲んでいた。
そんな姿を見てしまうと、自然と「ご苦労様です」と、労いの言葉をかけたくなってしまうもの。
世の中には様々な仕事があるが、『一番大変な仕事』というのは、『年齢』や『季節』によって変わる。
気温が高くなる夏や、気温が低くなる冬になると、途端にいつもの仕事が『苦行』と化してしまう仕事だって多い。
その代表が、『外仕事』なのかもしれない。
夏には暑さに耐えながら汗を流し、冬には寒さに凍えながらも真っ白な視界で仕事をこなす。
『慣れ』とか『経験』とか、そうゆう問題ではない。
年々変わり続ける気候や気温に翻弄されながらも、それでも仕事を全うしようと努力している人がいるからこそ、人々の生活は成り立っている。
「車の中、エアコンついてるんじゃないんですか?」
「さっき隣の家にも荷物を運んで来たんですよ。自分、暑がりなので・・・」
「いやいや、仕方ないですよ。たった一分でも、この炎天下に晒されたら・・・」
割と大きめの段ボールを受け取ると、かつおはすぐさまリビングへ戻る。
そして、段ボールの匂いを嗅ぎつけた猫達は、一斉にかつおの元へ集まってきた。
まだ箱ドライヤーが郵送された時の段ボールが残っているのだが、やはり好きなものは多い方が良い。
また、段ボール一つ一つにも、『猫にしか分からない特徴』があるのか、段ボールが多くなると、猫達はそれぞれ厳選した段ボールでくつろぐようになる。
ヤマブキやレイワの場合、寝転がっても余裕があるくらい、大きな段ボールが好み。
ネネとさくら、まんぷくの場合、体をギュウギュウに押し込められるくらい、小さな段ボールが好み。
段ボールに限りがある時は、いつも取り合いになるものの、段ボールが多くなってくると、猫達の厳選が始まる。
かつおがふと、箱ドライヤーが入っていた段ボールを覗くと、レイワがのんびりとくつろいでいた。
茶色い筈の底が、真っ白な毛で覆われ、時々レイワのふわふわ尻尾がビクビク動く。
こんな状態では、ヤマブキも一緒に入れるわけがなく、結局お気に入りのキャットタワーを陣取っていた。
今回届いた段ボール箱は、箱ドライヤーの段ボールと比べると小さい方なので、こっちはネネとさくらとまんぷく用になるかもしれない。
「さーってっと・・・宛先は・・・
・・・あぁ??」
宛名を見たかつおは、早速カメラをセット、撮影を始めた。その宛名に記されていたのは、とある『猫グッズメーカー』
かつおも、動画活動で何度もお世話になっている企業な為、撮らないわけにはいかなかった。
「ハイ こんにちわー! 配信ニャンの黒子、かつおでーす!
えー今回はですね。こちらのご紹介をさせていただきまーす!」
よく見ると、段ボールの側面には、『猫の肉球』がプリントされてある。
そして、さくらが伝票部分に乗っかっている為、後々その部分だけ編集で隠さなくても大丈夫。
伝票を剥がそうとした頃には、もう既にさくらは段ボールの上でくつろぎ始めていたのだ。
このまま段ボールの上に乗っているさくらを移動させるのも、なんか勿体無いと感じたかつお。
段ボールを押して動かしてみたり、段ボールの周辺でまったりする猫達をずーっとカメラに収め続けていた。
こうゆうのんびりした動画撮影の方が、かつお自身は楽しい。
気を張らなくても、のんびりとした気持ちで撮影できるから。
色々と周辺がゴタゴタしている状況の撮影は、気が休まらなくて疲れる。
視聴率的にはそっちの方がいいのかもしれないが、やはりそこは、『配信主』であるかつおのサジ加減。
「・・・さてと、そろそろ開けないと・・・あはははっ」
かつおがカッターを引き出しから取り出すと、猫達はそそくさと退散する。
カッターを見るだけで、段ボールを開封する事を皆が学習しているのだ。
やはり猫が好きなのは、『空』の段ボール。
かつおが段ボールの中身を全部出すと、散り散りになっていた猫達が一斉に集まり、空になった段ボールの争奪戦が始まろうとしていた。




