九十三ニャン 一匹の猫の為に 様々な人が・・・
幸い、かつおからの連絡を受けた動物病院は、すぐに来ても診察してもらえる事に。
かつおはまだえずいているまんぷくを抱きかかえると、ケースの中に入れ、すぐさま車のキーを手にする。
その間も、ヤマブキ達はずっとかつおやまんぷくの側から離れなかった。
自分達ではどうする事もできないから、せめて側に寄り添っていたのだ。
何故、まんぷくの体調がいきなり悪くなったのか。
食べる直前は何も異常はなかったのに、食べてからほんの少しの間で、何が起こったのか。
体調が悪くなる予兆もなかった、魚が痛んでいた・・・とも考えにくい。
何故ならヤマブキ達4匹はパクパク食べても何の異常も見られなかった。同じパックの中の魚を食べさせたのに・・・だ。
魚自体が傷んでいたら、かつおもすぐ分かる上、ヤマブキ達にも異変が起きる筈。
かつおにも分からなければ、ヤマブキ達にも分からないこの状況。
まんぷくがマグロを嫌がっていた様子もなく、自ら進んで食べていた。嫌いなら、食べる前に逃げてしまう。
とにかく獣医に任せるしかなく、かつおは見送りしてくれるヤマブキ達に「行ってきます!」とだけ告げ、車の中に飛び込むと、すぐ出発してしまう。
ついさっきまで、マグロをゆったりとした気持ちで味わっていたネネやさくらですら、不安で不安でしょうがない様子。
2匹はしばらく玄関をウロウロして、頭の中を整理する。
レイワに関しては、リビングで固まったまま動けない。
普段は冷静沈着なヤマブキですら、家の中をウロウロと彷徨っている。
かつおのピンチは、ヤマブキ達のピンチでもある。
そんな猫達の様子は、切り忘れているビデオカメラにしっかり映っていた。
4匹は家の中を右往左往しながら、かつおのいない家の中で、自分達だけでも落ち着こうと必死になっている。
一方、早急車で動物病院に向かっているかつお。
赤信号で止まる度に、かつおはケースの中に手を突っ込み、小さくなってしまったまんぷくを優しく撫でてあげる。
もうゲロゲロ言っていないものの、様子はまだ落ち着いていない様子。
かつおでも経験した事のない事態に、焦る気持ちが止まない。
いつもは急ブレーキや急発進なんてしないかつおだが、その時ばかりは車が揺れるくらいのスピードで、動物病院へ直行した。
幸い、動物病院までの近道もバッチリ把握している為、連絡してから十数分で到着。
その日は病院が開いている日である事も知っていた為、かつおがケースを持って受付に駆け込むと、もう診察の用意を済ませている助手の姿があった。
もう一つの幸いは、その日に限って、診察待ちの飼い主が殆どいなかった事。
運が悪い時には『何十人待ち』・・・なんて日もある。
「かつおさん、あなたは受付で待っていた方がいい。」
「えぇ・・・でも・・・・」
「いいから、あなたが落ち着くのが先決です!」
そう言われ、かつおは診察室から追い出された。
それもその筈、かつおの息遣いは、窒息寸前・・・に思えるくらいの過呼吸。
かつおにとって、『健康の礎』である愛猫が体調を崩せば、彼の体調も一気に悪化してしまう。
フラフラとソファに座りながら、頭を抱えて俯くかつお。まんぷくもそうだが、かつおの方も重症だった。
そんな彼の様子を見ていられなくなった動物病院の職員や、たまたまそこに居合わせたおばちゃんが、彼を必死になって宥める。
おばさんが連れて来た大型犬でさえ、かつおのそばから離れようとしない。
まるで、出産を心待ちにしながらも、動揺が隠しきれない夫の様で、おばさんは時折笑いを堪えていた。
本人はだいぶダメージが大きいのだが、周りから見れば、逆に滑稽に見えてしまう。だが、本人は至って真剣。
原因が分からない・・・というのも、また怖いのである。
まんぷくは獣医に見てもらった時に、アレルギーの検査も一応やってもらっていた。
後になってから、『取り返しのつかない事』にならないように。
だが、そこで出た検査結果は、そこまで悪いものでもなかったのだ。まさに『健康体そのもの』
医師の診察が間違っていた・・・とも言いにくい。
何故ならかつおの行きつけの動物病院は、まんぷく以外の4匹を、毎年毎年しっかり検査している。
かつてさくらが、キャットタワーから床への着地を失敗した際、心配になったかつおの為、その獣医はレントゲンでしっかり検査していた。
そして、色々と検査した結果、さくらが後ろ足を捻挫している事が発覚。
かつおでも全然気づかなかった、猫が着地を失敗するのはよくある事であり、今回もそこまで重症ではない・・・と、かつおは心の何処かで思っていた。
だが、もしかつおが、心配になって病院まで来なかったら、悪化していたかもしれない。
獣医はすぐさま処置をして、かつおには捻挫した猫の扱い方について、1から10まで教えてくれた。
かつおと獣医の行動力もあり、さくらの捻挫は短期間で治った。
さくらの捻挫が完全に治った時、獣医はかつおのことを誉めていたが、かつおは獣医に頭が上がらなかった。
処置をしてくれた事も、もちろん感謝している。
だが、かつおの不安を聞いて、きっちり検査して処置してくれたのは、他でもない獣医。
捻挫だって馬鹿にはできない怪我、放置していたら、さくらの下半身がどうなっていたか分からない。
世の中には、『利益優先の獣医』も少なからずいる。
だからこそ、飼い主や動物に対して、心の底から親身になってくれる獣医は、飼い主にとっては『神様』のような存在なのだ。




