九十ニャン 緊急事態には手を取り合い
やはり、緊急事態になると、いつもの一人きりが急に恐ろしくなる。女性の一人暮らしなら特に。
だから、椿はひどい嵐や大雪の前夜になると、決まってかつおの家まで来る。
猫達と戯れる目的もあるのだが、その方がかつおにとっても安心できた。
近頃は、相次ぐ自然災害に対応する為に、家をリフォームする家も増えている。
アパートやマンションの災害対策も検討されているが、地方の小さなアパートやマンションになると、まだ行き届いていないのが現状。
かつおの家は中古物件であるにしても、アパートよりも一軒家の方が災害に強い。
それに、もし椿に何かあったら、自分の両親や椿の両親に申し訳ない。
最悪、怒られるどころの騒ぎにはならない。かつおにも、『男としての面子』がある。
椿はかなり逞しく、ソファの上でも普通に熟睡する為、お泊まり用のセットもそこまで多く必要ない。それは、かつおと幼馴染関係だからこそなのかもしれない。
昔から素顔を知っている相手に、今更化粧で誤魔化した顔を見せたところで、笑われても仕方ない。
それに、椿は元から顔の質がいい。だからそれ程バッチリ化粧をしなくても、普通に良い。
「ハイ こんにちわ。かつおですー
いやー・・・凄かったなぁ・・・
今ですね、この直前にですね、かなり大きな地震があったんですよ。
編集作業中だったので、動画にはできなかったんですが、無事5匹とも、怪我はありませんでし
た。
はぁー・・・
久しぶりだったな・・・あんな大きな地震・・・」
いつもより早口なかつおのペース、話し方に気を遣う余裕がない証拠だった。
5匹達も、だいぶ落ち着いてはきたものの、今度は部屋中をウロウロと徘徊する。落ち着いていない証拠。
仕方ない、人間も動物も、天災には弱い。それが『命ある生き物』だから。
ニュースを確認すると、震源地にはそれ程近くはないものの、それでもかつおの住んでいる地域では、かなり珍しいくらい大きな震度だった。
家のみならず、脳内が掻き回される錯覚を感じるレベルの地震、ニュースキャスターもだいぶ慌てている様子だった。
幸い、地震以外に大きな『二次被害』は出そうもないが、しばらく動画を回しながらニュースを見ていると、外が徐々に騒がしくなっていく。
「トミさーん!! 大丈夫ー!!
お邪魔するよー!!」
「うぇーん!!! ママぁぁぁー!!!」
「大丈夫だった?!!
大悟くんも大丈夫?!!
大吾くんの家、お母さん今日は夕方までいないんでしょ? うちにしばらく居なさい!」
「ありがとうございます!」
現在時刻は午後三時半頃の平日。丁度、学校に通っていた子供達が下校している時間帯に地震が来てしまった。
その為、近隣住民も協力しながら子供達を宥めていた。
家にいる時の地震でも相当怖いのに、外で地震に遭遇したら、怖いどころの話ではない。
揺れる電柱や電線、グラグラと揺れ動く周囲の家々、メキメキ悲鳴をあげるコンクリートの地面。
非日常的な光景を、大人でも受け止められなくて当然。
大人でも外出先で大きな地震に遭遇すれば、腰が抜けて動けなくなってしまう。
最悪、『帰る事』もままならなくなる可能性だってある。
そして、まだかつおの足元でプルプルと震えているまんぷく。
その光景は、可愛らしくもあるのだが、同時ににかつおの心を締め付けていた。
『もしも・・・』を、どうしても想像してしまうのである。
「・・・・・引き取ってよかった・・・
あの路地裏でこんな地震に遭遇していたら、怪我どころじゃなかったかもね・・・」
「・・・ニャーン・・・」
(・・・うん・・・)
かつて、まんぷくが棲家としていた、あの裏路地。あの路地には、割れやすいビンやガラスが散乱していた。
そんな場所がグラグラと揺れれば、あちこちにある危険物が倒れてくる。
ビンやガラスが粉々になれば、人間の素足でさえも簡単に切り裂ける程の『罠』と化す。
かつてネネとさくらが生きていた、今にも倒壊しそうな家も、大きな地震や台風に巻き込まれれば、『崩れかけた積み木』の如く、あっという間にバラバラになる。
災害や事件に巻き込まれるのは、人間だけの話ではない。
日本だけではなく、世界中にも、『人為的災害』や『自然災害』に巻き込まれる動物は多い。
中には、何の予兆もなく訪れる地震のように、どうしようもない件も存在するものの、事前にどうにかできる件も少なくない。
もしヤマブキ・ネネ・さくら・まんぷくが保護されず、荒んだ環境の中に生き続けていたら・・・
もし、レイワガあの猫カフェに置き去りにされていたら・・・
そう考えると、かつおは猫達を抱きしめずにはいられない。
人間よりも小さな体で、自分の命は自分で守らなくちゃいけない。
そんな過酷な世界で生きるのは、想像もできないくらい辛い事なんだろう。
でも、守ってくれる人間が一人でもいるだけで、幸せになれる動物は沢山いる。
まんぷく達も、そう思っていた。
「・・・かつおー・・・」
「うわぁ!!!
ちょ・・・ちょっと!!! 呼び鈴くらい鳴らしてくれよぉ!!!」
「いや・・・すぐに家の中に入りたかったから・・・」
かつおと猫達が熱いハグをしていると、後ろから椿が、大きめのカバンを持って来ていた。
椿を見つけた猫達は、椿にも甘え始める。
「よしよしよし・・・・・怖かったんだよね。」
「・・・・・で、椿のところのアパートはどうだったんだ? 大丈夫だったか?」
「大丈夫・・・なのかな・・・??」
「???」




