八十九ニャン 鎮まる世界
「・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・やっと止まった・・・???」
揺れは一分程続いた。だが、体感的には何十分も揺られていた感覚がするかつお。
彼の人生でも、1・2を争う程、強くて長い揺れであった。
日本は『地震大国』であり、年に何度か、かつおの住んでいる地域でも、ちまちま地震が発生する。
ただ、それでも怖い事に変わりはない。
いつもは静かな地面が、まるで沸騰するお湯の水面の様に荒れ狂うと、人間でも動物でも危機感が一気にMAXになる。
そして、地震後の不気味な静寂も、地震でグラグラになった心をより不安にさせていた。
地震が起きると、ありとあらゆる物が揺れ、迫るような轟音が、押し潰すようにのしかかる。
その轟音が一瞬にして消えた後に残るのは、荒れ果てた現状。もう、愕然とするしかない。
かつおもまんぷくも、しばらくその場から動けなかった。
揺れはおさまったのだが、まだ揺れている感覚が消えないのだ。
爪切りやお風呂の時と同様、まんぷくの心臓の鼓動が、全身を伝っている。
かつおですら、自分の心臓の鼓動が鼓膜を伝って聞こえている現状。
地震の影響で開いてしまったクローゼットの戸は、まだ開閉を繰り返している。
「・・・・・ミャオーン」
(・・・・・かつおさーん・・・)
「ネネっ!!!」
下の階から聞こえたか細い声。その僅かな鳴き声を聞いたかつおの体は、瞬時にして再起動する。
そして、まだ震えが止まらないまんぷくを、パーカーの腹部にある大きなポケットの中に入れ、焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくり下の階まで降りる。
まだ揺れの感覚が体に残っていた為、急に走り出したら、転んでしまいそうだった。
ゆっくりゆっくり、階段を一歩ずつ踏み締め、リビングに向かうと・・・
「ミャーン!!!」
(かつおさーん!!!)
「ミィー!!!」
(怖かったよー!!!)
「ネネ!!! さくら!!!
無事だったかぁ!!!」
かつおの姿を認識した瞬間、ネネとさくらの2匹は、かつおに向かって突進する。
そして、キャットタワーの巣の中からは、『四つの目玉』が覗いていた。
かつおが近寄って見ると、キャットタワーの巣の中で、ヤマブキとレイワがおしくらまんじゅう状態で隠れていた。
1匹専用の巣なのだが、2匹も押し込められている状態。
巣の出入り口から、クリーム色の体毛と白い体毛がはみ出ていた。
「そっかそっか、2匹はそこに隠れてたんだな。偉いなぁー!!」
教えたわけでもないのに、緊急事態が起きると、身の安全を確保する行動を最優先に行うのは、まさに『本能』なのかもしれない。
確かに四方八方が守られている巣の中なら、物が落ちてきたり倒れてきたりしても、ある程度大丈夫。
かつおもこれには、脱帽するしかない。
この場で一番パニックになっていたのは、かつおだったのかもしれない。
とりあえずかつおは、テレビをつけて地震情報をチェックしつつ、猫達1匹1匹を、改めてしっかり見る。
やはり5匹とも、どこも怪我をしていなかった。
だが、だいぶ大きな揺れにびっくりしたのか、その後もしばらく、5匹がずっとかつおの側から離れようとはしなかったのだ。
普段は好奇心旺盛で賢いまんぷくでも、この事態はキャパオーバーだった様子。
地震は、まんぷくの野良時代でも経験していなかったのだ。
唯一の経験者は、猫よりもずっと長生きで歳上なかつおか、猫達の中で最年長のヤマブキくらい。
ただ、ヤマブキが経験した地震は一度だけだった上に、そこまで大きな揺れではなかった。
今回の地震は、それとは比にならないくらい、揺れも大きく長時間だった。
ちょっとの揺れでも怖いのに、規模や大きさが倍になれば、当然怖さも倍になる。
だが、かつおはまだマシなのかもしれない。
翼や椿は一人暮らしだが、かつおには可愛い『同居猫』が5匹もいる。
そんな環境なら、怖がってもいられない。
『自分が守らないといけない存在』がいる・・・という事は、色んな意味で、素晴らしい事なのかもしれない。
ピリリリリリリリリリリッ!!!
ピリリリリリリリリリリッ!!!
「ひゃあぁぁぁ!!!」
突然鳴り響いたスマホの着信音に、かつおも5匹も跳ね上がった。
普段からかつおのスマホに電話なんて滅多来ない為、初期設定のままの着信音が、余計にかつお達の心臓に追い打ちをかけている。
着信のバイブでブルブルと震えながら、机から落ちそうになっているスマホをかつおがキャッチして、画面を確認すると、着信先が椿である事が分かった。
「も・・・もしもし??」
「あぁ、良かった!! 繋がった!!」
「そうだな、大丈夫か?」
「私は大丈夫。それより、猫ちゃん達はどうなの?」
「俺の心配よりそっち?
・・・まぁ、いいけど。大丈夫、皆怪我もないよ。
一応、これから動画撮るつもりだけど・・・」
「お願い!! ちょっとだけでもいいからお邪魔させて!!
怖くて一人きりじゃいられないの!!」
「いいけど・・・道気をつけるんだぞ。」




