八十八ニャン 地が揺れる
(・・・ねぇ、レイワ)
(何?)
(何で僕達、高いところが好きなんだろう・・・?)
(うーん・・・昔は『高いところ』に住んでいたから・・・とか??)
(・・・・・はい??)
すっかりキャットタワーの登り方もマスターしたまんぷく。
よくちょっかいをかける、レイワとの距離感にも慣れた様子。
まんぷくは賢い為、レイワのちょっかいに本気にならない。
レイワにちょっかいをかけられても、流すか無視するスタンス。
まんぷくの賢さにはいつも驚かされているかつお。
「もしかしたら、自分よりも賢いんじゃ・・・??」と思ってしまう程に。
親バカなわけではない、割と本気で思えているかつお。
何故ならまんぷくの賢さは、ちょくちょく家に来る椿も思っている程だから。
椿とヤマブキ達が仲良くなるまで、何度も顔を合わせないと、警戒して近づく事すらできなかった。
しかし、まんぷくの場合は、かつおや他の猫達の態度や様子から、椿が怖い存在ではない事をすぐ学習して、会って数回ですぐ仲良くなれた。
しかも、頻繁にかつおの家に来るわけではない椿でも、数回会っただけでその『顔』や『足音』をバッチリ覚えてしまう。
キャットタワーの登り方や、自分の餌皿・・・等、覚えがレイワ達よりも格段に早い。
それは、カツオにとっては嬉しい事なのだが、同時に少し寂しくもあった。
キャットタワーの登り方が分からず、ずっとオドオドしていたさくらも。
自分の餌皿を目の前にしても、それが自分の物である事が分からずにひっくり返していたネネも。
椿が来る度にビクビクと怯えながら、かつおの元へ逃げてくるレイワも。
皆、家に来たばかりの新鮮さもまた可愛かったのだ。
家に来たばかりの猫は、分からない事だらけで右往左往状態。
そして、飼い主であるかつおにも、ぎこちない態度をとってしまう。
そんな無垢であどけないところも、見ていて微笑ましくなる。
ただ、そんなぎこちない生活が終わりを迎えるのはあっという間。
飼い猫としての生活に馴染むと、今度はまた違った可愛さを見せてくれる。
ただ、まんぷくに関しては、そんなあどけない姿を見せてくれた時期が、極端に少なかった。
それは、飼い主としては喜ぶべき事なのかもしれない。
でも、猫に関する苦労を、『愛情表現の一つ』と思っているかつおにとっては、複雑な事この上ない。
「・・・次はどんなおもちゃを買ってあげようかな・・・?」
しかし、それでもまんぷくが、今も昔も可愛い事に変わりはない。
まんぷくは賢いけど、ちゃんと甘えてきてくれる。お腹が空いた時、おやつが欲しい時には、しっかりアピールする。
今まで数々の猫と出会ってきたかつおだが、どんな猫も可愛くて可愛くて仕方ない。
野良でも、元・家猫でも、元・野良猫でも。
「ニャー!」
(・・・あっ! なんかおやつが見えるー!)
「ん?
どうした、まんぷく。降りられなくなっちゃったのか?」
まんぷくは、かつおが流し見しているパソコンのデスク画面に、猫用おやつがズラリと並んでいる事に気づく。
まんぷくは颯爽とキャットタワーから降り、かつおの膝の上へダイブ。
そして、画面に映るお菓子の数々に、目を光らせていた。
まるで、レストランでメニューを見ながら、何を注文しようか迷っている子供の様に。
その一連の行動で、まんぷくが何を狙っていたのか察したかつおは、笑いながら画面をスクロールさせる。
「これねー、美味しそうだよねー
まんぷくはカリカリ系が好きなのかな? それとも、ゼリー系?」
(皆好きー!)
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・
「・・・・・・・・・・???」
かつおが、あれこれ商品をカートに入れている時だった。あちこちから『軋む音』が鳴り響き始めた。
そして、その音がしばらく続いた後・・・・・
ドゴォォォ!!!
「ばあぁぁぁあああ!!!
じじじじじじじじじじじ地震だぁぁぁ!!!」
パソコン画面が、まるで高速で会釈をする様に忙しなく動き、かつおが立ち上がった拍子に吹っ飛んだキャスター付きの椅子は、縦横無尽に彷徨い始める。
まんぷくも即座に床の揺れを感知して、机の下で固まってしまう。
そして後に続いて、かつおも机の下に避難する。
幸い、そのタイミングで動いている家電が、パソコンだけだったのが幸いだった。
もしキッチンで火が使われていたら、急いで止めに行かなくてはいけない。
そして、下の階では、置きっぱなしにされたスマホから、『地震速報』のアラームが鳴り続けている。
かつおは怯えるまんぷくを抱きかかえながら、揺れが静かになるのを、ただじっと待ち続けた。
今すぐにでも、まんぷく以外の猫の安否を確かめたかったのだが、揺れている状態で家の中を歩くのは非常に危険。
それに、かつおの家は『耐震設備』が整っている為、キャットタワーやケージが倒れる事はまずない。
焦って揺れている家の中で歩き回り、怪我でもしたら大変。
地震が起きた直後では、救急車も早急に来てくれない。
万が一、かつおが病院に搬送されたら、猫達の世話を翼か椿に任せる事になってしまう。
飼い猫にとって、一番大きな支えは、飼い主であるかつお。
それに、年に何回か、ちょくちょく地震が来ても、猫達が怪我をする事は一度もない。
猫達も本能的に、地震が起きた時の対処法をしっかり実行しているのだ。
こうゆう事態に慌ててしまうのは、非常に危険。学校でも頻繁に習っている。
だが、どんなに落ち着こうとしても、揺れ動く家具達がかつおの心をザワザワと揺るがす。
クローゼットの中は、まるでミキサーの様にグチャグチャと掻き回され、まるで突風が吹いている様に、開閉を繰り返す。
一番大変な状態になりそうだったのは、キッチンだ。
かつお家に置かれているお皿やキッチン道具はそれ程ないのだが、それでもある事に変わりはない。
ガラスのコップひとつが割れて、破片が床に散乱しただけでも、相当危険。




