八十七ニャン 被害に遭った 一匹の猫を・・・
当時は、『猫カフェ』だけではなく、『動物カフェ』が話題になっていた。
『猫カフェ』『犬カフェ』に留まらず、『ハリネズミカフェ』や『子豚カフェ』、『爬虫類カフェ』等にも、連日多くの人々が通っている光景を、ニュースでもよく見ていたかつお。
純粋に、その動物が好きだからこそ経営している人も多いのだが、やはりその中には、『営利目的』飲みに視野を置いている経営者もいる。
動物カフェに限らず、利益だけを求め、倫理等を無視して儲ける会社というのは、いつの時代、何処の世界にも、必ず一つはある。
ビジネスや経理について、かつおも詳しくは分からない。
ただ、倫理に反した営業をしてでも、お金儲けなんてしたくない。少なくとも、かつおはそう思っている。
そして、そうゆう非合法な商業というのは、『流行りに乗る』のが上手い。
変わり続ける旬や流行に乗る事は、確かに普通のビジネスでも重要な事。
「流行っている話題に乗って、大儲けを企んでいたのかも・・・?」と、従業員の一人が、ポツリと呟いていた。
だが、どんなに思考を巡らせても、幾つもの論を編み出したとしても、当の本人であるオーナーがいないのでは、話はもう打ち切りにするしかない。
今は『逃げた存在』より、『取り残された存在』を気にかけてあげるのが先決。
警察の方でも動いている様子だった為、かつおも従業員達と協力して、SNSに事の顛末を投稿して、拡散していく。
「ミャーア・・・」
「・・・・・・・・・・
不安なんだよな。ごめんな。」
猫カフェの一角で、スマホの画面を凝視していたかつおに寄り添う、1匹の猫。
その猫は、ただ単に彼に甘えに来ただけだった。猫達にとっては、一種の『営業』である。
しかし、かつおの悲しげな表情を見たその猫は、思わず後退りしてしまう。
今まで何人もの人間に撫でられ、「可愛い!!」と言い続けられてきた猫だったが、こんなに悲しげに、自分を撫でる人を見るのは初めてだった。
だが、その猫も、自分達が置かれている状況について、薄々勘づき始めていたのだ。
そんな状況にも関わらず、優しくて暖かい手で撫でてくれるかつおに、耐えきれなくなったその猫の不安な気持ちが、ついに爆発してしまう。
結果、その猫は何分経っても、何時間経っても、かつおの側から離れようとはしない。
かつおもかつおで、全員の猫の飼い主が決まるまで、何時間も猫カフェで粘り続けていた。
途中、従業員の何人かが、コーヒーや軽食を差し入れしてくれた為、かつおも粘る事ができた。
猫1匹1匹の特徴を事細かに伝えたり、このままでは取り残された猫がどうなってしまうのか・・・等、とにかくSNSで発信を続けていたのだ。
不安を抱えつつも粘るかつおと同様、先が見えない事がどれ程恐ろしいのか、身をもって体験してしまったのだ猫達。
今までずっと、安全な家の中で飼われていた生活が、終わりを迎えそう・・・
生まれてから、外を知らない猫。飼い主がいなければ、生きられない猫。
ある日突然、その生活が壊れてしまいそうになった。自分達には、何の責任もないのに。
自分の心境を『言葉』では発せられない猫でも、『態度』や『鳴き声』を読み取れば分かる。
かつおには、自分に寄り添ってくれる猫の苦しみや不安が、重く心にのしかかっていた。
不安を訴える猫は、1匹だけではない。大勢の猫達が、一箇所に固まりながら、従業員達を凝視している。
不安に混じった、『疑念』を滲ませながら。
今回の件は、猫達が人間を恨んでも、仕方のない事だった。
無関係とはいえ、従業員も、かつおですらも、逃げたオーナーと同じ『人間』
だからこそ、従業員やかつおの行為は、その『罪滅ぼし』でもある。
かつおは休憩がてら、自分に寄り添ってくれた猫の事を、従業員に聞いた。
その猫カフェに住んでいた猫は、全員が『血統種』
血統は違えど、皆は『子猫』の時にこの猫カフェに引き取られていた。
そして、後に『レイワ』と名付けられるその子は、まだ生まれてから1年しか経っていない、猫達のなかで一番の末っ子だったのだ。
かつおが当時飼っていたヤマブキの、正式な年齢は分からない。
ただ、大きさや顔の雰囲気からして、ヤマブキとさほど変わらない気がしたかつお。
続々と猫達の飼い主が決まっていくなか、自分もこの件に関わった『責任』を感じていたかつおは、自分に寄り添ってくれた猫を抱きかかえ、従業員にこう言った。
「この子、引き取ってもいいですか?」
これが、『レイワ』と『かつお』の出会いだった。
一時期はピンチに陥っていたレイワだったが、かつおとの出会いを経て、今ではすっかりかつおの飼い猫として定着した。
その後、置き去りにされてしまった猫カフェの猫達全員に、無事飼い主が決まり、猫カフェがあった場所は、既に取り壊されてアパートが建っている。
猫カフェ自体は綺麗だったのだが、その一件があってからは、地元住民達も取り壊しを望む声が多かった。
『事故物件』・・・とはまた違うが、地元住民としても、この一件は『醜態』でもあった。
全国ニュースにも取り上げられる程の大惨事となったが、この件をきっかけに、皮肉にもかつおの活動が世間により広まる結果になった。
本人は、そんな事考えている余裕もなかった。
下手したら、取り残された猫達の命に関わるかもしれない事態だったから。
今ではその事件を覚えている人も少なくなってしまったが、レイワやかつお、そしてヤマブキも、まだ当時を覚えている。
レイワが初めてかつお家に来た時、やはりヤマブキもレイワも、互いに互いを警戒してばかりで、なかなか仲良くなれなかった。
しかし、じっくりじっくり時間を重ねていくなかで、互いの事を理解して、認め合うようになってからは、毎日喧嘩する程仲良くなった。
ヤマブキもレイワも、しょっちゅう喧嘩するものの、相手を傷つけるような猫パンチは、今まで一度も出さない。
それは、力加減を学習したからでもあるが、怪我をさせたくない程、大切な存在である思いの証拠。
かつおもレイワを譲ってもらった当初は、「ヤマブキに申し訳ない事をしたかな・・・」と思っていた。
だが、時間が経つと共に、
「ヤマブキの遊び相手ができてよかった」
「レイワにも大切な存在ができてよかった」
と、いざこざやドタバタはあったものの『多頭飼い』の大変さと、喜びを毎日噛み締めるようになった。
大変ではあるものの、可愛さは倍以上に増したのだから。
その後、猫カフェの元・従業員とは、その後も何度か連絡を取り、レイワとヤマブキが仲良くしている様子を動画にして投稿すると、早速喜びのコメントを貰った。
だが、まだかつおの胸の内に残るモヤモヤは、残ったまま。
何故なら今現在も、『動物関連の商業』には、悪徳なものがある。
そんな悪徳商法が横行する度に、犠牲になっている動物達がいると思うと、同じ『人間』として、恥ずかしいのだ。
そして、悪徳商法の尻拭いをさせられてしまう悔しさも、まだかつおには残っている。
確かにあの一件は、かつおとレイワを引き合わせてくれた、大切なきっかけになった。
でも、だからと言って、許せるわけがないのだ。




