八十六ニャン あまりにも・・・
ピロピロッ!
「・・・・・ん?」
(・・・・・ん?)
かつおがヤマブキに、のんびりをおやつをあげている最中、突然かつおのスマホが鳴る。
かつおのスマホが鳴るのは、かなり珍しい事の為、ヤマブキはその音を聞いて、何処かへ逃げてしまう。
だが、驚いたのはヤマブキだけではない。
かつおも驚きのあまり、持っていたおやつを盛大にぶちまけてしまう。
おかげで床がベトベトになったものの、ヤマブキが綺麗に舐め取ってくれる。ある意味結果オーライ。
かつおがスマホ画面を確認すると、メッセージが一件入っていた。
その送り主は、最近かつおの動画配信でお世話になった『猫カフェ』から。
地元で新たにオープンした猫カフェであった為、かつおが動画内で紹介したのだ。
その頃、まだ猫動画を配信して間もない頃だった為、まだ家にいる飼い猫がヤマブキだけだった。
だが、それでも徐々に人気になっていったのが、かつおのチャンネル。
かつおのコツコツとした『毎日投稿』と、本気で猫を愛する『熱意』が、視聴者達に刺さったのである。
ネットで有名になってくると、当然『現実世界』からのオファーも来るようになる。
当初、かつおはあまり乗り気ではなかったが、業務提供先も『猫・動物関連』だった為、かつおも渋々慣れようと努力していた。
「・・・何だろう・・・また何か、動画内で紹介したい事でもあるのかな?
それとも・・・別の猫カフェからの紹介と・・・か・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・は???」
かつおが落としたおやつを、ヤマブキが懸命に舐め取っている最中、かつおは思わずスマホまで手から離しそうになる。
スマホに送られてきたメッセージは、あまりにも衝撃的すぎて、かつおの思考を停止させるには十分な事情だった。
メッセージ自体は、長々と綴られてはいないのだが、その短い文章を読んだだけで、かつおの危機意識が一気に跳ね上がる。
ただ、それは『かつお自身の危機』ではない。
『猫カフェの猫達』の危機
・・・いや、猫達は、詳しい事情を知らない。知らなくて当然だ。
何故ならこの問題は、『事業主』の問題である。
そんな無関係な問題に、何も知らない猫達が巻き込まれてしまったのだ。
メッセージを読んだかつおの脳内は、『怒り』が5割『心配』が3割、その他の複雑な感情が2割・・・という割合。
かつおは滅多なことでは怒らない。そんなかつおが唯一怒りを覚えるのが、『猫関連』
最近では、猫だけではなく、動物が悲惨な目に遭う事件が多く、かつおもニュースを見る度に、テレビを叩きそうになる。
だが、今回に関しては、『怒り』というよりは、『呆れ』という感情の方が近かった。
だからといって、この一件は許されるわけがない。
あまりにも『無責任』で、あまりにも『身勝手』な事件内容だった。
「店長が4日間も連絡をくれないんです! 猫達の餌はどうにかなるんですが・・・
とにかく助けて下さい!」
それは、経営者を失っても尚、猫達の今後を心配する、従業員からのSOSであった。
連絡を受け取ったかつおは、なりふり構わず猫カフェへ直行。
すると、お店の入り口から店員が飛び出してきて、今にも泣き出しそうな程悲しげな表情をしていた。
その従業員の話によると、どうやら店の経費を全て管理しているオーナーが、4日間も音信不通になり、オーナーの家を知っている従業員が、住んでいるアパートを捜索したが、そこは既にもぬけの殻。
アパートの大家に話を聞いたが、やはり大家も詳しい事は分からず、大家からも猫達の餌を分けてもらい、とりあえず従業員のお金で、猫達の餌代は数日どうにか賄っていた。
普通の一軒家の、1匹の猫なら、餌代はそれほど痛手ではない。
だが、猫カフェに住んでいる猫は、1匹ではない。何十匹という猫が、猫カフェで従業員達を待っているのだ。
それなのに、オーナーは店の売上金も抱えて雲隠れ。
こうなってくると、猫達にかかるお金をどうすればいいのか、従業員たちも頭を抱えていた。
従業員のなかにも、数匹は引き取ってくれる人がいるのだが、それでもまだ、引き取り主がいない『元・猫カフェ猫』が数匹も残っていた。
そこで従業員達は、とにかく知り合いや家族に連絡して、事情を説明して、引き取ってくれる人を探していた。
かつおが呼ばれた理由も同じである。
特にかつおは、猫に関しての知識が従業員よりも多かった為、従業員達は、藁にもすがる思いで、かつおに何度も何度も頭を下げた。
「申し訳ありません!!!
お店をPRしてもらったにも関わらず、このような事態に・・・!!!」
「ちょ・・・ちょっと・・・・・
謝らないでください! 貴方達は何も悪くないんですから!」
普段は外で声を発さないかつおでも、その時ばかりは、声を荒げた。
確かに猫達が心配だから現場に来たのもあるが、それよりも何より、従業員達が気掛かりだったのだ。
オーナーはさておき、従業員達は血眼になって、猫達を引き取ってくれる家を探していた。
それを、見て見ぬフリもできなかったのだ。
オーナーに関しては、特に抱く感情もない。だが、もし居場所が分かったら、SNSに自分の気持ちを拡散したかった。
それくらい、普段温厚なかつおでも、怒りで我を忘れてしまいそうだったのだ。
顔を見かけたら、殴りかかりそうな程。
人の手を借りないと生きていけない猫達をほっぽり出して、お金だけ持って逃げて行ったオーナーに、怒りを覚えずにはいられなかった。




