七十七ニャン 救出活動
かつおは、まずレイワを動かしてみようとした。
だが、レイワはまだパニックが抜けていないのか、下半身を掴むと後ろ足でかつおの両手を引っ掻いてしまう。
次に、ネネの下半身をゆっくり持ち上げると、若干暴れてしまうがレイワ程ではない。
かつおは、最初に引っ張り出す猫をネネに決め、ゆっくりと、慎重に、ネネを後ろへと引っ張る。
その間、ネネは鳴き声をあげなかったものの、レイワの方が鳴き声をあげていた。
すぐにでもレイワの状態を確認したかったのだが、早くこの状況を何とかしないと、二次被害が起きてしまう。
すぐ様子を見に行けない代わりに、レイワをドアの後ろからずっと応援するかつお。
「大丈夫!! 大丈夫だから!! 今助けてあげるから!!
ごめんね!! もうちょっとだけ辛抱してぇぇぇ!!!」
横で見ていたまんぷく・さくら・ヤマブキも、ずっと鳴きっぱなしだった。
レイワとネネがパニックになっているのも当然怖かったが、いつもは温厚で優しいかつおが、一瞬『別人』に見えてしまう程、鬼気迫る顔。
だが、自分達ではどうしようもない状況に、ただただ鳴き叫ぶ事しかできない。
手を出したいけど、レイワのキックに巻き込まれそうなのだ。
「よいしょ・・・よいしょ・・・・・・
・・・・・お?!! いけるか?!!」
ゆっくりゆっくり、かつおがネネをバックさせていくと、『詰まりがなくなったような感覚』がした・・・と思った直後、レイワが前進して廊下に出る。ネネも無事に救出。
・・・が、その直後。かつおは全身が脱力して、そのまま床に転げ落ちてしまう。
一時はどうなる事か分からず、ずーっとパニック状態だった反動が、一気に押し寄せてきたのだ。
仰向けになりながら、ネネの体を調べたが、やはりどこにも傷を負っている様子はなく、かつおの側まで来てくれたレイワの歩き方にも、何の異常も見られなかった。
気づけば、かつおの目には涙が浮かんでいた。
途中から、自分の手を使っても助けられない事態を想像してしまい、不安で心が押し潰されそうになっていたのだ。
そんなかつおに、猫達は優しく寄り添う。傍観していた3匹も、猫ドアに挟まっていた2匹も、自分達よりかつおの方が心配だったのだ。
自分達をいつも大切にしてくれているからこそ、緊急事態には必然的に弱くなる。
かつおにとって、一番危機感を感じる出来事は、自分の事ではなく、猫の事。
しかも今回の事件は、今までの生活で経験した事のなかった、ある意味『珍』事件であった。
一応、猫が出入りしやすいように、猫ドアはなるべく大きいサイズを選んだのだが、そもそも飼っている猫が増え、このような事故に繋がってしまったのだ。
挟まっていたレイワとネネは、申し訳なさそうにかつおを見ていたが、かつおは自分自身に猛省している様子。
確かに、1匹だけ飼っている家庭なら、まずあり得ない事故。
飼う猫が増えていくと、こうゆう問題にも目を向けないといけない。それを、2匹によって教えられた
かつお。
ちなみに、
『写真に撮ろう!』『動画に撮ろう!』
という考えは、一瞬でも湧いてこなかった。
引っかかっていた2匹よりもかつおの方がパニックになっていた為、そこまで頭が回らなかった。
それに、
「このまま抜けなくなったらどうしよう・・・!!」
「もしかして、2匹が暴れて怪我をしているかも・・・!!」
と思い込んでしまうと、すぐにでも助けてあげたかった。
マゴマゴしていたら、パニックになった2匹が互いを引っ掻きあって、傷だらけになったかもしれない。
間一髪、かつおに見つけてもらえただけでも幸運だった2匹。
もし、少しでも助けるのが遅れていたら、どうなっていたか分からない。
「・・・・・ニャ・・・」
(・・・すいません、かつおさん・・・
力になれなくて・・・)
「・・・あぁ、ごめんね。ヤマブキ達もびっくりしたよね。」
まるで破れた風船の様に萎れてしまったかつお。
そこまで激しい運動はしていないのだが、体力と気力が底を尽きてしまったのだ。
今回のような、『想像すらできないアクシデント』のダメージは大きい。
ただ、かつおにとって、萎れている原因は『パニック』によるもの・・・だけではない。
かつおは、自身の『無力感』と『注意力の低さ』を痛感して、改めて飼い主としての自覚を叩き込まれたのだ。
ただ、猫達は決してかつおの事を責めているのではない。むしろ感謝しかない。
特にレイワとネネは、かつおにくっついたまま、一向に離れようとはしない。
2匹も、怖くて怖くて仕方なかったのだ。かつおに怒られる事・・・・・ではない。
「かつおとの楽しい生活が、このまま終わってしまうのではないか・・・?!」という妄想に駆り立てられていたのだ。
「自分達は、ずっとこのまま・・・?!」と、思考を巡らせていると、かえって悪い方向に行ってしまう。
そんな悪循環を断ち切ってくれたのは、かつおである。
2匹が十分に反省している事は、体を撫でてあげるだけで分かる。猫達も、かつおが心配なのだ。
・・・・・グゥーウウウゥゥ・・・
「・・・・・あぁ、お腹減っちゃったなぁー・・・
そっか、ご飯の時間だったから、こっちまで呼びに来たんだもんね。」
かつおは、クニャクニャになっていた自分の体を根性で叩き起こした。




