七十四ニャン 猫の気分に合わせて
「実際にお風呂上がりの撮影だと、より商品の魅力が皆様にお伝えできると思うんですけど、ヤ
マブキはもうつい先日お風呂に入ったばかりなんですよね・・・
で、せっかくならドライヤー嫌い『第二号』のさくらをお風呂に入れた後に・・・と思ったん
ですけど・・・
さくらの場合はね、お風呂でもんのすごい暴れるので、その後に撮影・・・となると、さすが
に自分の体力が切れちゃうので。
今回だけはちょっと・・・乾いている状態で勘弁してください!
今回はね、さくらがこの箱ドライヤーの中に入れても大丈夫なのか・・・という実験も兼ねて
いるので。
・・・というか、さっき入ってたんですけどね。
・・・というかさくら何処行った? さくらー?」
かつおがレイワを床に置き、リビング中を探してみる。
すると、やはりさくらにとっては『定位置』の窓際にいた。
今日は生憎の雨・・・だが、さくらは身を乗り出す勢いで、景色に見入っている。
さくらは、道行く人々が手に持っている『傘』が気になっている様子だった。
確かに、家の二階から見れば、まるで『花』が水面を流れている様に見える。
特に今の時間帯は、小学生達が列を成して下校中。
子供の持つ傘は、大人の持つ傘に比べると、とてもカラフルで個性的なものが多い。
アニメのキャラクターがプリントされている傘だったり、水玉模様やチェック柄だったり。
さくらが窓からずーっと見ている気持ちが、かつおにも何となくわかるような気がした。
普段は見えないような景色も、動物をきっかけに、見つけることができる。
それも、ペットを飼う魅力。
普段の生活では「そこまで面白くない」と思うものでも、愛するペットと一緒に見る事によって、「こんなに面白かったんだ」と思えるような事は、世の中に沢山ある。
「・・・・・あっ!! ついついボーッとしてた!!」
かつおも、ついシトシトと雨の降る外の景色に魅了され、さくらと一緒に外の景色を眺めていたら、もう10分も窓辺でたそがれていた事に気づく。
カメラの電源が入れっぱなしである事に気づいて、さくらを抱きかかえて撮影を再開しようとする・・・が、既に窓辺に、さくらの姿はない。
慌てて振り返ってみると、また箱ドライヤーの中に入っているさくら。彼は慌ててカメラの前に立ち、弁解を始める。
「すみません・・・家中を探し回ってたんですけど・・・いつの間にかこの中にいて・・・」
まさか、「自分もさくらと一緒に窓辺でぼんやりしていたら、いつの間にかさくらが窓辺から離れてました・・・」なんて言えない。
かつお自身、自分で自分が恥ずかしくなった。
だが、それと同時に、「自分、そんなに疲れてるのかな・・・??」と、自分で自分が心配になってきた。
だが、まずは撮影に集中する為、かつおは一旦カメラを三脚から外して、自分の手で握る。
そして、箱ドライヤーの中でくつろぐさくらにカメラを向ける。
相変わらず、さくらはマイペースに箱ドライヤーの中で毛繕いをしていた。
「せっかくだから、このままやっちゃうか・・」
そう言って、かつおは箱ドライヤーのドアを閉めると、コンセントをプラグに差し込み、スイッチを入れる。
すると、ほんの僅かではあるが、箱から『ブォー』と、空気が流れる音が聞こえる・・・が、ドライヤーよりも圧倒的に静か。
一応、風力は最低にしてあるのだが、それでもさくらの体毛が、暖かい風に揺られているのがよく分かる。
これには、中にいるさくらも、箱の周りで様子を伺っていた猫やかつおもびっくりしていた。
まさに、『毛のウェーブ』である。
「えぇー・・・すっごー・・・」
かつおは、ただただ最新テクノロジーに圧倒され、猫達は、一体どうして箱の中で風が吹いているのか、不思議でしょうがない様子。
ヤマブキとレイワが、箱の上に乗って確認しようとする。
まんぷくとネネは、箱よりも中に入っているさくらに興味が向き、ドアを前足でコンコンノックする。
すると、さくらが前足でカリカリとドアを掻き始めた。
そんなさくらに、かつおは「・・・・・嫌だった?」と言いながら、ドアを開けてあげると、やはり箱から出てこない。
どうやら、箱の中の居心地は良いのだが、元々じっとしていられないさくらにとって、箱の中は『退屈な場所』と思われている様子。
だが、当初の目的は達成できたかつおは、ついついドアの隙間から手を突っ込み、さくらを撫でてあげる。
一応、ドアを開けても風が吹き続ける仕様になっている為、さくらが箱から出ないのなら、開けっぱなしでも全然問題はない。
「これでねー、お風呂にかかる労力が減るから助かるよー・・・」
その後、かつおは動画を締め括り、箱ドライヤー『だけ』片付ける。
段ボールは、しばらく5匹の『遊び相手』になってもらう事に。
まんぷくは、段ボールで遊んでいる途中に、さくらに箱ドライヤーの居心地を聞いてみた。
(・・・あの中って、どんな感じだった?)
(とっても暖かかったよ! まだ体がちょっと暖かいくらい!
・・・でも、あの中にずっといるのは嫌かな。狭いし、変な音がするし・・・)
(・・・って、今の僕達も、『箱の中』なんだけどね・・・)




