七十ニャン 報酬のモフモフ
ブォー!
「・・・まんぷく、ドライヤーも大丈夫なのかな?
凄いなぁ・・・」
かつおが耳にタオルを巻いてくれた事もあり、ドライヤー中でも全然暴れないまんぷく。
時折、ドライヤーが気になって軽い猫パンチを繰り出すものの、至って平穏に、まんぷくの『お風呂デビュー』は終わり、拍子抜け状態のかつお。
どんなに頭が良い猫でも、体の大きな猫でも、苦手なものはいくらでもある。
人間だって、頭が良い人でも、体が丈夫な人でも、必ず何かしらの『苦手』や『嫌い』がある。
それくら理解しておかないと、人付き合いなんてできない。
猫に関しても、ちゃんと相手(猫)の良い所も悪い所も受け止める覚悟がないと、ちゃんと愛してあげられない。
だからこそ、手のかかる子程、愛らしいものはないのだ。
だが、まんぷくのお風呂が予想以上に早く終わってしまい、複雑な気持ちが拭えない様子のかつお。
彼自身、苦労する事を覚悟で撮影したのに、結局見所があるのかどうかもわからない動画になってしまった。
別に彼自身が面白くしたいわけでもなければ、猫達に何かを求めているわけでもない。
いつも通りの、かつお一家の日常を撮影しているだけだから。
しかし、お風呂を済ませたまんぷくの姿を見たかつおの頭は、もうそんな事どうでもよくなってしまう。
「あらー!! まんぷくー!!
また一段と可愛くなっちゃってー!!!」
(そ・・・そうかな?)
白い体毛に黒い斑点がついたまんぷくの体は、さながら『マシュマロ』か『わたあめ』と同じくらい、フワフワでモコモコになる。
お風呂に入る前より、毛量が倍近く増えてしまったような錯覚に陥りそうな程、様変わりしたまんぷくの姿。
普段の彼も可愛いのだが、お風呂上がりはその可愛さが倍になる。
かつおが試しに、まんぷくのお腹に手を突っ込んで、そのモフモフ具合を確認すると・・・
「ふぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ・・・・・」
あまりのモフモフ具合に、ついおかしな声が出てしまうかつおに、ドン引きするまんぷく。
飼い主にとって、お風呂上がりの達成感は、綺麗になった猫を見るだけで、十分満たされる。
このモフモフを味わう為・・・と言っても過言ではない飼い主も多い筈。
体を洗うのは衛生面でも良い事ではあるが、それとは別に、洗い立ての毛並みを楽しむ目的もある。
まんぷくも、綺麗になった自分の毛並みに満足している様子。
かつおの体は汗やお湯でビシャビシャだが、その苦労ににあった分の『報酬(触り心地)』は得られた。
「よーし! 時間かからなかったので、ヤマブキもやっちゃいたいと思いまーす!」
そう言って、かつおはヤマブキを探しに行く。
家自体は広いものの、ヤマブキが家の何処を好んでいるのか、かつおには手に取るように分かる。
案の定、キャットタワーの巣の中でまったりしていたヤマブキを持ち上げ、お風呂まで運ぶ。
まんぷくはその場を退場して、リビングに行き水を飲んでいた。
その間、レイワ達が頑張ってまんぷくの体を舐める。
そして、ほんのちょっとだけ疲れたまんぷくは、ヤマブキと交代して巣の中へ潜り、眠ってしまう。
その間にヤマブキは、かつおの手によって洗われていた。
ヤマブキはまんぷくと同じく、お風呂に入ってもそこまで暴れたりしない子で、かかった時間はまんぷくとさほど変わらない。
だが、夕方に始めた撮影は、もう夜を迎えようとしていた為、今回は2匹で区切りにした。
ヤマブキはドライヤーが苦手、だから自然乾燥をする為、リビングにあるサーキュレーターのスイッチを入れるかつお。
すると、ヤマブキもそのサーキュレーターの前まで行き、そのまま風に煽られる。
ヤマブキにとって、ドライヤーの『熱風』が嫌いなのか、それとも『音』が嫌いなのかは、まだよく分かっていない。
しかし、手段を問わないのなら、いくらでも方法はある。
天気が良くて風が心地良いなら、そのまま外で乾燥させる手もあるのだが、今日は生憎の曇り空。
そんな天気で、濡れている体のまま飛び出せば、風邪をひいてしまう。
「・・・ヤマブキ、もう体はちゃんと乾いてるんだけど・・・
まぁいっか、このままで!」
サーキュレーターの風になびかれているヤマブキは、不思議と気持ちよさそうな顔をしている。
ドライヤーの熱風はダメでも、サーキュレーターなら大好き・・・という、よく分からないこだわりも、猫の魅力。
かつおはもう一度ビデオカメラの電源を入れ直し、風を受けてうっとりしているヤマブキを撮影する。
まんぷくの『お風呂デビュー』も、無事成功を果たし、かつおはまだ濡れている髪をタオルでゴシゴシ拭きながら、動画を締めくくる。
「えー、猫にもね、お風呂が大丈夫な猫ちゃんと、そうでない猫ちゃんがいるんですけど、今の
ところ、お風呂が苦手なのはさくらだけかな?
ヤマブキはドライヤーだけダメみたいだから、そこら辺も変わらないみたいだね。」
シャンプーの香りがまだほんのり残っているかつおの指を、ヤマブキは優しく舐めていた。




