六十六ニャン 猫と共に『強敵(小さな侵入者)』に立ち向かう
「・・・・・ふぅーぅぅぅ・・・・・」
まるで猫の唸り声の様なため息をつくかつお。
いつもは見せない彼の気迫に満ちた顔に、ヤマブキもまんぷくも、その場から撤退した。
これで完全なる『一騎討ち』になる。だが、かつおの足は、ずーっと震えていた。
武器も一応手に入れたのだが、心もとない上に、倒せる自信がない。
ハエ叩きのように、一発で相手を仕留める事ができる武器ではない。それだけで、難易度は上昇する。
かつおは意を決して、力いっぱい背伸びをしながら、まだ微動だにしない蜘蛛に、紙のスティックを伸ばす。
すると、蜘蛛の足はそのまま壁から離れ、落下。つまり・・・
「ギニァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
かつおは両手や体を、とにかく小刻みに動かしながら、落ちてきた蜘蛛を薙ぎ払うようにして暴れ回る。
この奇行には、ヤマブキやまんぷく、他の猫3匹も驚いて、颯爽と廊下へ逃げた。
だが、まだ戦いは終わったわけではない。確実に仕留めないと、虫嫌いでも安心できないのだ。
かつおはひとまず落ち着いて、前後左右を見る。しかし、この一瞬で蜘蛛を完全に見失ってしまう。
蜘蛛はそこまで大きくなかったのだが、複雑に入り組んでいるキッチンの中では、探すだけでも一苦労。
かつおは電気をつけ、注意深くキッチン周辺を捜索したのだが、蜘蛛の姿は見当たらない。
何度も電気のスイッチを連打して、部屋の照明をチカチカさせても、手を叩いて驚かせようとしても、全然反応がない。
反応があるとすれば、廊下に避難している猫達の方である。
かつおが手を叩く度に、5匹はビクッと反応していた。
いよいよ本格的に困ってしまったかつお、そのまま見なかった事にするのも可能だったが、それでは色々と気持ち悪い。
かつおはキッチンで立ち尽くしたまま、動けなくなってしまった。
「ニャオッ!!!」
(そこだー!!!)
猫ドアから飛び出してきたのは、ネネ。ネネは、かつおの真後ろにいる蜘蛛を見逃さなかったのだ。
そしてそのまま・・・・・
「ネネストーーーーーーーーーーッッップ!!!」
ネネが蜘蛛をそのまま、口の中に蜘蛛を放り込もうとした瞬間、かつおがスライディングしてそれを阻止する。
そして、蜘蛛を捕まえる際に予め持っていたティッシュに、蜘蛛を丸め込む。それまでにかかった時間は10秒足らず。
『一騎討ち』になると弱いものの、『チームワーク』を駆使すれば、どうにかなるのだ。
・・・これは完全に、『多勢に無勢』なのだが・・・
「うぅぅぅうううううぅぅぅー・・・・・
ネネぇぇぇ・・・ありがとぉぉぉ・・・」
「・・・ミャオ?」
(・・・何が??!)
かつおは涙目になりながら、ネネに何度も頭を下げてお礼を言う。その姿勢は、もはや会釈レベルではなく、完全に『土下座』レベル。
だがネネは、この状況が全然分からない。
ネネはただ、床でウロウロしていた蜘蛛が気になって、突撃しただけ。本能による行動に過ぎない。
それなのに、何で目の前にいる飼い主から、こんなに感謝されているのか、意図が全く読めなかった。
そして、見事蜘蛛を退治して、落ち着いたリビングに猫達が戻って来る。
・・・が、かつおが全力で床に頭を擦り付けている奇行を目の当たりにして、また皆は静かに廊下の奥へと逃げる。
ネネも逃げたかったが、かつおが離してくれない。とりあえず、かつおの気が済むまでそこにいるしかなかった。
たった1匹の蜘蛛で、そこまで大騒ぎできる飼い主に、ちょっと微笑ましさすら感じているネネ。
本人は至って真剣に、蜘蛛と戦っていたのだ。
奮戦はしたものの、どうにか決着がついた。このまま決着がつかないままなのは、一番気持ち悪い。
・・・大袈裟なのかもしれないが、虫嫌いにとっては、1匹の虫が『恐ろしい存在』なのである。
だからこそ、『決着』をつけなければ、枕を高くして眠れない。
我が家が安息の地ではなくなるのは、かなり恐ろしいのである。
その後、かつおはしっかりティッシュをゴミ箱へ捨て、ソファに全身を預けた。
蜘蛛と格闘していた時間は10分にも満たない筈なのに、大幅に体力を消耗してしまったのだ。
ネネが蜘蛛を仕留める瞬間も、動画にしたかったかつおだが、そこまで頭が追いついていなかった。
毎回毎回、家に虫が出現する度に大騒ぎするかつおだが、一応防虫対策もしっかりとっている。
リフォームしたとはいえ、古い家には虫が湧きやすい。
アリならギリギリ自分の力だけでどうにかなるかつおでも、ゲジゲジやムカデが出現した日には・・・
翼が住んでいるアパートもかなり古い為、かつおが翼の住んでいるアパートにお邪魔した時には、しょっちゅう出会している。
しかし、翼は全く動じる事なく、淡々と処理している。その逞しさには、一周回って偉大に見えたかつお。
「・・・翼だったらなぁ・・・」
そう言って、かつおはそのまま寝入ってしまった。
ネネ達がかつおの体の上に乗っても、全然動く気配を見せない。
ヤマブキは、かつおが仕留めた蜘蛛が捨てられたゴミ箱をチェックする。
まんぷくは、何故そんなに、かつおが蜘蛛を怖がるのか、全然分からずに混乱していた。
「・・・ミャオ」
(人間にとって、『蜘蛛』はそんなに怖いものなのかなぁ?)
その疑問に対しては、いつもはおとぼけになるレイワでさえも、真剣に返した。
(いや・・・あんな反応をするのは、かつおさんだけだと思うぞ。)
(そう・・・かな?)




