六十五ニャン 突然の緊急事態
(・・・・・?
ヤマブキ、何を見てるの?)
(あぁ、まんぷく・・・
ちょっと・・・な・・・・・)
夕ご飯を食べ終わり、かつおはリビングのソファでまったりくつろいでいた。
お花見シーズンが終わりを迎え、季節を感じさせるようなニュースが一気に減った頃。
かつおはテレビのリモコンをカチカチといじりながら、面白そうなテレビがないか散策する。
しかし、その日はクイズ番組や旅番組ばかりで、かつおが好きそうな番組は流れていなかった。
そこでかつおは、旅番組を流しながら、今度はスマホをいじり始める。
かつおが見ているSNSも、ペットや動物ばかり。
一応、宅配業者や通販会社のアカウントもフォローしているが、通知が来た時にだけ見ている。
毎年に数回訪れる『宅配セール』だけは、見逃すと勿体無い。
「・・・へぇ・・・このカレー専門店、宅配始めるんだ・・・
上に乗せるのは、自分でお好みに・・・って感じか。
・・・・・そういえば、前に椿が、
「私、カレーに『納豆』かけて食べるんだよねー!」
とか言ってたな・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・やっぱやめよう。」
『挑戦者』は、『新たなる領域(新しいカレーのトッピング)』に挑戦しようとしたが、無謀である事を悟り、引き返した。
そして、自分はやはり、『今の領域(カレーには何も乗せない)』に残る、安全策を取ったのであった・・・
ランチの宅配の利点としては、自分好みにアレンジできるところにある。
カレーなら、家にあるチーズやウインナーを山盛りにしても、周囲から引かれる事はない。
コンビニで良い付け合わせを買うのも良し。
店の中では遠慮がちになってしまう食べ方をしても許される、カレーを箸で食べる・・・なんて事もできるのだ。
かつおの場合、家の中ではご飯を食べながらスマホを見るのだが、もちろんそんな事を外でやれば、人から嫌な目で見られる。
ただ、かつおは食べるのが遅い上に、じっくり味わって食べていたい為、ただ食べているだけでは、物足りなくなってしまうのだ。
「・・・・・?
ヤマブキ、どうした??」
かつおは、ようやくヤマブキが壁を見ながら硬直しているのに気づいた。
ヤマブキは鳴き声も発さない上に、動きもだいぶ緩やかな為、かつおでも気づくのに少し時間がかかってしまうのだ。
猫によくある『虚空を見つめる』・・・という雰囲気にも見えず、かつおがヤマブキの元に歩み寄り、ヤマブキの目線の先を確かめると・・・
「・・・・・ヒィィィイイイ!!!」
壁に張り付いていたのは、立派な『蜘蛛』
いつ進入したのかは分からないが、ヤマブキはその蜘蛛を、ずーっと監視していたのだ。
捕まえるでもなく、鳴くわけでもなく、ただ・・・ずっと。
「ど・・・どどどどどどどどどど・・・
どうしろと?! どうしろとぉ?!」
蜘蛛がいるのは、壁の高い方。三脚を持って来て、ハエ叩きを用いてようやく届くくらい、高い場所にいる。
だが、虫嫌いなら、虫から目を背ける事は、『逃す』という意味でもある。
それは余計に心臓に悪い。どんな手を使ってでも、蜘蛛から目を背ける事なく、倒してしまうのが一番ベスト。
だが、これはかつおが圧倒的に不利な状況。
三脚は、三階にしかない。ハエ叩きも、どこにあるのか分からない。
今はまだ冬が終わってからまだ間もない。こんな時期に、虫と戦う可能性は考えられなかったのだ。
虫が活動を始める春本番には、まだちょっと早かった。だから武器や装備がまともにない。
だが猫にとって、小さな虫は『餌』や『獲物』でもある。
丸投げにはなってしまうが、虫嫌いなかつおにとって、猫は『虫バスター』としての役目も任せているのだ。
しかし、今回は『敵の場所』が分かっていても、『場所』が最悪であった。
いくら運動神経が良いヤマブキでも、足場もない壁を登る事なんて不可能。
まんぷくもヤマブキの隣で、考え込んでいた。
一方、レイワとさくらは、山吹の目線の先を察した直後に、キャットタワーに避難してしまう。
2匹もかつおと同様、虫が嫌いなのだ。ネネはというと、トイレ中で参加できない。
「え・・・えっとぉ・・・えっと・・・
何か・・・棒みたいなもの・・・」
とは言うものの、かつおのキッチンにある道具なんて、一般家庭にあるキッチン道具の三分の一にも満たない。
そんなキッチンで、都合よくハエ叩きに代わるものが見つかるわけもなく。
仕方なくかつおは、冷蔵庫にマグネットで貼り付けておいた『スーパーのチラシ』を『武器』に選んだ。
『新聞』は取らないものの、チラシは取っているかつお。
チラシの中にも、『割引券』や『クーポン』がある。
今ではスーパーのチラシや割引券もスマホで済ませる時代ではあるが、まだ地方のスーパーは『紙』のクーポンが主流なのだ。
そのチラシのクーポン部分はもう切り取ってある為、それをクルクルと丸め、スティック状にする。
これで即席ではあるものの、壁の蜘蛛にギリギリ届きそうではある。
もちろんその間も、かつおは蜘蛛から目を離さなかった。ヤマブキやまんぷくも含めて。




