六十二ニャン お土産採取
「・・・・・はい?」
「・・・・・はい?」
翼の発言に、かつおと椿は声を合わせ、持っていたお菓子を落としそうになる。
だが、翼は微笑みながら、地面に落ちている桜の花弁を、一枚一枚拾い始める。
その行動で、二人は『お持ち帰り』の意味が分かった。
そして、翼と一緒に、椿も綺麗な花弁を探して、地面のあちこちをガサゴソと探し始める。
側から見れば完全に『不審者』だが、今日は珍しく、人気がなかった。
何処かでパトカーか何かにサイレンが聞こえているだけで、足音すら聞こえない。
だから、綺麗な花弁を厳選する事もできる。
地元住民の中には、ゴミ捨ての当番ではなくても、当番の住民に協力しながら、特権である夜桜をする住民もいる。
若干ずるいのかもしれないが、別にルールを破っているわけでもなければ、協力してくれているわけだから、そこら辺は自治会長さんも目を瞑っている。
「こうゆう花びらをさ、水の入っているコップに浮かばせてみたら、きっと綺麗になるんじゃな
い?」
「そうだね・・・・・これなら猫達も喜びそう!」
かつおは、持ってきたハンカチに花びらを挟み、優しく畳んだ。
「じゃあ、そろそろ解散としますか。あ、ゴミないかちゃんと見てくれよ。」
「翼さんが見てよ・・・・・」
「酔いが回って頭がグラグラするんだよ・・・」
かつおは「ヤレヤレ」・・・と言いながらも、しっかり足元をチェックする。
椿は、ヨレヨレになっている翼に肩を貸してあげる。
その間、椿は翼から発せられるアルコール臭を、必死になって堪えている様子だった。
翼はお酒が好き、だがお酒に強いわけではない。だがら缶ビール3つで、もう悪酔いしてしまう。
だったらお酒をやめれば・・・という話なのだが、そうもいかない。
かつおの猫好きと、ほぼ動機は変わらないのかもしれない。
『お酒が好きだから』 『猫が好きだから』
「おーい、アパート着いたぞー」
「あぁ・・・ありがとう・・・
じゃあおやすみ。」
「ちゃんと鍵閉めるんだぞー」
「大丈夫・・・盗まれたら困るものなんてないから・・・」
「それもそれでどうよ・・・」
先に翼をアパートまで送り、次に椿のアパートまで行く。
ついこの前まで、椿や翼の住んでいるアパートに明かりが灯っている部屋は、2・3ヶ所しかなかった。
だが、最近ではどのアパートの部屋にも明かりが灯るようになり、ちょっと騒々しくなった反面、椿のような一人暮らしの女性でも、安心して過ごせるようになった。
近頃は『地方移住ブーム』もあり、地元にも綺麗なアパートが建つようになった。
元々建っていたアパートにも、次々と入居者が現れるようになり、椿や翼も喜んでいる。
赤の他人とはいえ、隣部屋にも誰かが住んでいる状況と、そうでない環境では、『安心感』が違う。
『空き家問題』と『地方移住ブーム』を合わせた結果、かつお達が住んでいる地元の空き家も、徐々に少なくなってきている。
『一軒家の空き家』でもやはり怖いものがあるのだが、『空いているアパート部屋』というのも、また違った怖さがある。
騒がしいのは苦手なかつおだが、
「大事な友人が安心して地元で暮らしてくれるなら、移住する人が増えてきても悪くない」
・・・と、最近思うようになった。
一種の『成長』である。
「この辺りも人が増えてきたんだから街灯くらい新しくしてほしいな・・・
・・・こうゆうのって、自治会長さんに言えばいいのかな? それとも市役所?」
「それは・・・うーん・・・
『市役所の窓口』に、相談役を決めてもらう・・・とか?」
「もうそうなったら市役所に直接相談します。」
そんな会話をしているうちに、椿のアパートへと到着する。
椿を見送ったかつおは、一人ぼっちの夜道が急に怖くなり、早足で家まで戻った。
夜もだんだん深くなり、寒さが一段と強くなっていく、午後8時過ぎ。
こんな時間の夜道を一人で歩くのは、臆病なかつおでなくても足が震えてしまう。
本当はダッシュで帰りたかったかつおであったが、ゴミ拾いで体力を消耗した結果、走る事すらできなかった。
玄関の明かりのついているあちこちの住宅からは、夜のバラエティ番組を楽しむ、住民の笑い声が聞こえる。
その笑い声にちょっとほっこりしつつも、かつおとにかく周囲を見ないように、真下だけ見て進む。
かつおも、バラエティ番組もそこそこ見るが、やはり猫が登場しない番組は見ない。
だからかつおがよく気に入って見る番組は、動物についての知識や歴史が学べる『教育番組』が多い。
「ふぅー・・・・・」
ガチャッ
「たっだいまー!」
「ニャ!」「ニャァーアァー」「ミャーオ!」「ウミャー!」「マァーオ!」
かつおがドアを開けた途端、玄関に猫達が大集合してやって来る。
皆、てっきりすぐ帰ってくるものだと思っていたが、なかなか帰って来なかった為、心配していたのだ。
かつおは、すぐナデナデしたい気持ちを堪えながら、手洗いとうがいを済ませ、お留守番をがんばった猫達を、1匹ずつ褒めちぎってあげる。
「会いたかったよぉー!!!」と言いながら、猫達を抱きしめるその様子は、まさに『生き別れた親と再会した子供』
猫達も、そんなかつおに付き合ってあげている。心配はしたが、そこまで気負う程心配していない。
さっきまではすっからかんだった彼の体力は一気に満タンにまで回復して、今からもう『お土産』を皆に見せる為、準備を進める。




