六十一ニャン 初・お花見
「本当にその通りだよ。」
後ろから声が聞こえ、土手で座り込んでいたかつおと椿は、驚いて川へ落ちそうになった。
2人に声をかけたのは、色々と商品が詰まったコンビニ袋を持つ翼。
「・・・というか椿、俺ちゃんとメッセージ送ったんだぞ。」
「え・・・・・」
椿がすかさずズボンのポケットからスマホを取り出し、メッセージを確認すると、確かに翼からのメッセージはちゃんと届いていた。
しかも、メッセージが送られて来たのは、かつおの家でのんびりしている時。
椿は、頭を抱えながら、「あぁー・・・」と、声を漏らす。だが、誰でもよくある事だ。
「・・・で、おふくろさんは、どうだったんだ?」
「あぁ、ちょっと風邪をひいただけみたいだ。季節の変わり目は、どうしてもな。
・・・あ、
「かつお君と椿ちゃんによろしく」ってさ。」
翼と椿も、かつおと同じく幼馴染同士。この3人は、成人してもこの地方に残り続けた、数少ない若人。
3人の同級生だった人達は、仕事等の関係でほぼ全員他県へ行ったり、海外へと移住してしまう。
かつおや椿の場合、場所に拘らなくても働ける仕事だった為、残り続けたのだ。
かつおには『猫達』と『一緒に住む家』があれば、
椿には『ペンタブ』『PC』『漫画作成ツール』があれば。
翼の場合は『出戻り』ではあるが、なんだかんだ3人は、この生まれ育った場所が、昔からずっと好きだったのだ。
地元ならでばの不便もあるが、『不便』と『安心感』を計った時、一番重要だったのが、『安心感』だった。
やはり、どんなに便利な土地でも、どんなに住民と仲良くできても、居心地が悪い場所には住みたくない。
ホラー企画で心霊物件に寝泊まりをする芸人はいるが、彼らは『安心感』を『お金』に変えて営業している。
普段から心霊物件に寝泊まり・・・なんて、ある意味地獄だ。
「あ、そういえば椿ちゃん。椿ちゃんが出版した本、ウチのコンビニで出したら売り切れちゃっ
たよ。」
「えぇ?! そうなの?!」
驚いた椿は、その拍子に大声を出してしまうが、隣にいたかつおが椿の口を塞ぐ。
やはり人気がジワジワ来ている事もあり、椿の描いた作品がコンビニで売られていても、不思議ではなくなった。
今では『クロスワード雑誌』や『オカルト系の本』も、コンビニに売られている。
人気漫画となれば、全巻棚に並んでいる事も珍しくない。
特にかつお達が住んでいる地方では、本屋に行くにも車が必要になる。
だから、この一帯に住んでいる子供達にとって、『コンビニ=本屋』であるのだ。
地元住民のなかで、椿が漫画家として生計を立てている事を知っているのは、かつおと翼くらい。
そこまで広く知ってもらう必要もない為、同じアパートの住民に聞かれても、「漫画を描いて生計を立てています」としか言わない。
それに、自分が人気作品の作者である事が周囲に知られたら、仕事に支障ができるかもしれない。
それは、かつおも同じである。
「分かったから静かにしろって!」
「ご・・・ごふぅー・・・
(ご・・・ごめん・・・)」
翼は、持ってきたコンビニの袋を開くと、そこにはやはり、ギリギリの商品達が詰め込まれていた。
でも、お花見にはもってこいのお菓子やおつまみばかり。ちなみに、翼は2人とは違い、結構お酒を飲む。
「酒飲みの俺がいうのも何だけどさ、やっぱりゆっくり飲みたいわけよ。
ほら、お酒を飲むと他人だろうが絡んでくる人っているだろ?」
「あぁ・・・いるいる。居酒屋とかにね。」
翼はもちろん、2人様にジュースも持って来てくれた。
かつおと椿はジュースを開け、翼は缶ビールを開け、乾杯する。なるべく小さな声で。
「かんぱーい!」「かんぱーい!」「かんぱーい!」
翼と椿は一気に飲み干したが、かつおはちょっと落ち着かない様子。
子供の頃なら、誰でも友人と一緒に、外でジュースやお菓子を楽しむ事は割と普通な筈。
しかし、かつおにはその経験がなかった。
だから、初めての体験に、心の奥底では興奮を抑えきれていない自分がいたのだ。
そんなかつおとは対照的に、椿と翼はお菓子の袋を広げ始める。
『月明かり』+『満開の桜並木』というのは、まさに絵になる光景。
ライトアップこそされていないものの、人工の光が少ないこの地域では、月や星の光が眩しく感じられる。
木々の隙間から漏れる月の光は、まるで雲の切れ目から差し込む日の光の様に、美しく輝いていた。
月明かりの光だけで、手元が見えるくらい、今日は夜桜にうってつけの日である。
かつおと椿がが観賞に浸っているうちに、翼はもう2缶目のビールを飲み干していた。
そして、そのまま地面に寝っ転がってしまう。
「ちょっとちょっと、こんな場所で爆睡しないでよ。連れて帰れないわよ。」
「大丈夫だろ、その時は川の水でもぶっかけてやれば。」
「これくらいで酔う俺じゃありませんー」
川に浮かぶ桜の花びらは、ゆっくりと川の流れに身を任せ、何処かへと向かっていく。
ヒラヒラと降り注ぐ花びらは、まさに『紙吹雪』
よくテレビ等でも、桜の名所が報道されているが、やはりテレビで見る光景より、自分の目に映る光景の方が綺麗なのは明確である。
「・・・はぁ。」
「・・・かつお? どうしたの?」
「あ・・・いや・・・
どうせだったら、家でいい子にお留守番してくれている皆にも、この景色を見せてあげたいん
だけどね・・・」
そう言いながら、かつおはスマホで『お留守番カメラアプリ』を起動する。
すると、5匹は揃って、リビングで遊んでいる光景が、スマホの画面に映し出された。
そして、そのスマホ画面に着地する、桜の花びら・・・
「・・・・・・・・・・
じゃあ、『お持ち帰り』すれば?」




