五十六ニャン 『カタツムリ』は這うだけで一苦労
ピーンポーン!!
「えぇ?! は、はぁーい!!」
インターホンの音が聞こえたと同時に、驚いた猫達は一目散にあちこちへ隠れる。
だが、驚いているのは猫達だけではない、家の主であるかつおも、びっくりしてすぐに起き上がった。
何故なら今日、宅配業者が来る予定もなかった上に、こんな場所にまで、セールスや勧誘が来るとも思えなかった。
時計を見ると、いつの間にかもう夕方だ。
窓からは夕陽が差し込み、夕飯の食材を買いに行く主婦達の井戸端会議が、何処からか聴こえる。
「はーい、今行きま・・・・
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・!!!」
かつおは、そのまま起き上がって玄関に向かおうと、足に力を入れた瞬間・・・
足に『ビキーン!!!』と激痛が走り、また床に崩れ落ちてしまうかつお。
いきなり立ちあがろうとしたせいで、足をつってしまったのだ。
「うぅぅ・・・ううう・・・」と呻き声を上げながらも、頑張って玄関まで向かおうとする。
しかし、あまりの激痛に立ち上がる事すらできず、逆に痛みを長引かせてしまう。
廊下には出たものの、そこからは這っても動けない状態に。
その間も、チャイムは鳴り続け、外にいる人物も違和感を感じたのか、ドアをドンドン叩き始める。
猫達はこのハプニングに、どうすればいいのかわからず、とりあえず5匹全員で玄関の前に来た。
(どうしようどうしよう・・・!!)
(私達、玄関のドアなんて開けられないよぉ!!
どうしよう・・・玄関で待っている人を呼んだ方が・・・)
落ち着かない様子のまんぷくとさくら。
レイワとネネが2匹を宥めようとしているものの、相変わらずかつおの足は痛いまま。
そこで、ヤマブキがドアの前で「ニャー、ニャー」と鳴いてみる事に。
するとヤマブキの鳴き声を聞いたドアの前の人物が、ドアを思いっきり開けた。
まんぷく達の前に姿を現したのは、『かつおと同い年くらいの女性』
女性の手に吊るされているのは、パンパンに荷物が詰め込まれているエコバッグが四つ。しかもその中からは、『いい匂い』がする。
保護施設にも女性の職員はいたものの、久しぶりに直で見る『かつお以外の人間』に、まんぷくはその場から後ずさる。
だが、まんぷく以外の4匹は、至って普通に彼女を接している。女性はそのまま家の中へ入ると、猫達を撫で始めた。
「・・・・・ヤマブキ君、かつおは??」
いつまで経っても玄関へ姿を見せないかつおを心配して、女性は靴を脱いで上がり込む。
まんぷくはびっくりしたものの、その声に聞き覚えがある。
その声は、つい最近、『スマホ』から聞こえてきた声にそっくりだった。
そう、かつてヤマブキが説明してくれた、『かつおの幼馴染』
「・・・あ、君がまんぷく君だね、初めまして。
私、『椿』っていうの。
君の分の『お土産』も持って来てるから、後で一緒に食べようねー」
椿も、猫の扱いに慣れている様子。
初めて対面するまんぷくに、いきなり寄って来るのではなく、手を振っただけで初対面は終わった。
まんぷくも、最初はびっくりしたものの、椿の落ち着いた態度に、ちょっとだけ安心する。
いきなり近寄って来られたら、逃げようと思っていた。そんな逃げ腰のまんぷくに、ネネが補足を入れておく。
(椿さんは、よくこの家に出入りしているの。椿さんも、この近所に住んでいるみたいよ。
まんぷくは初めて会うよね、よく私達におやつをくれるの。)
(そうなんだ・・・・・)
ネネとまんぷくが話し込んでいると、廊下の奥から「かつおぉ!!!」と、椿の大声が聞こえる。
行ってみると、まだかつおは立てない状態で廊下を這っていた。
椿は持っていたエコバッグを全部床に落とし、かつおを支えるようにして、とりあえずリビングまで運んだ。
「あんた・・・何かおかしな物でも食べたんじゃないんでしょうねぇ?!」
「違うって! ただ足をつっただけ!」
「まったく・・・普段から運動していないからそうなるのよ。」
「・・・仰る通りです・・・
・・・ていうか、何で来たんだ?
来るなら来るで、連絡くらい入れてくれよ。」
「別にいいじゃん、家近いんだし。」
「よくねぇって・・・」
かつおの家には、ちゃんと『救急箱』が常備されている。
・・・というのも、かつおは昔から怪我をしやすい体質なのだ。
子供の頃から擦りむいたり、転んだり、指を挟んだりして、怪我が治ってもまた別の場所に怪我をしたり・・・と、そんな体質は結局、大人になっても治らなかった。
だから、かつおの家には『絆創膏』『消毒液』、そして『湿布』が常備されている救急箱がある。
それは、この家によく出入りしている椿もよく知っていた。
椿は棚の中にある救急箱を取り出すと、中にあった湿布を何枚か取り出し、かつおの足裏に『ベチーン!!!』と勢いよく貼ってあげた。
それと同時に、かつおの情けない悲鳴が家中に響いたのは、言うまでもない。




