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四十九ニャン 旧友は今日もコンビニに立つ

「いらっしゃいませー」


店内に入ると、平日にいつも勤務している『海飛うみとび つばさ』に会う。

翼は今日も相変わらず、人の来ない店内で大きなあくびをしていた。

かつおと翼とでは、翼の方が6歳年上だが、地元に残っている数少ない『旧友』である。

ちなみに翼は、かつおが『配信ニャン』の主である事を知っている、数少ない人間。

これはかつおが打ち明けたのではなく、翼の方から聞いてきたのだ。

翼も動画を見る事が趣味な為、猫関連問わず有名になってしまったかつおのチャンネルが『オススメ動画』として出てきても、何の不思議もなかった。


「おー、かつお。」


「翼さん、今日の『ギリギリ』って何?」


「えーっとな、そこにある『苺饅頭』と『サラダ』と・・・

 ・・・あ、フライドチキン揚げたてだけど、買う?」


「買う買う。」


『ギリギリ』というのは、『賞味期限ギリギリ』の事。

コンビニにとって、『廃棄処分』は只ではない。

買ってもらわないとそれこそ商売にならない為、賞味期限が近い商品は、積極的に安売りにしている。

しかし、それでも余ってしまう商品は、結局店員が始末するしかない。

よく裏界隈で囁かれている、『コンビニの裏事情』というものだ。

かつおも、翼と親しくしているうちに、そうゆう話を聞き、せめてもの貢献に・・・と、翼にギリギリの商品を聞いて、積極的に購入している。

地方にあるコンビニを、一番多く利用しているのは、地元住人・・・ではなく、荷物を運んでいる『長距離トラック運転手』

実際、このコンビニの駐車場はやけに広い。

それは土地の関係もあるが、トラックを何台も停められるようにする為でもある。

現代は『食材』も『娯楽道具』も『育児道具』も、ほぼ宅配で済ませている人が多い。

わざわざ店に出向かなくても、家で荷物を待つだけで済む。

だからこそ、運送業者は現代において、人々の生活を一番身近で支えている存在。

そんな人々の心や胃袋を満たしているのが、あまり有名な土地にあるわけでもない、こんな小さなコンビニである事も、ちょっと面白い話ではある。

最近では『無人運送』や『ドローン宅配』も有名になっているが、まだまだ人の手が必要な職だって、世の中には山のようにあるのだ。


その日は、たまたまかつお以外のお客はいない。

翼はレジを抜けて、かつおの持っているカゴに、ここぞとばかりにギリギリ商品を持ち込む。


「なぁなぁかつお、お前って『料理』する?」


「しないしない。・・・というか、やってたら此処で買わないって。」


「『みりん』もそろそろギリギリだから、買ってもらおっかなーって思ったんだけど・・・」


「自分より翼さんの方が料理できるでしょ、どうせだったら自分で買って、自分で・・・」


「・・・みりん使った料理って・・・例えば・・・??」


「・・・何だろう・・・??」


あっという間にかつおの持っているカゴからは、商品が溢れた。

そのままカゴに入っている商品の数々を、翼がバーコードを読み取り、かつおがせっせとリュックの中に詰めていく。

待っている人がいないから、互いに無駄話しながらでも作業ができる。

翼は、よくかつおを『スカウト』していた、コンビニの従業員に。

手際も良いし、記憶力も良い為、どの棚に何の商品があるのか、翼よりもよく知っている。

しかし、かつおは何度も何度も断っていた。

コンビニで働かなくても、配信主としてだけでも、彼1人と猫5匹で、十分に生活費が賄えた。

その上、コンビニはかつおが最も嫌う『接客業』

昔から人当たりがよく、人との距離の詰め方が上手い翼ならまだしも、かつおが見知らぬ人を数十人、毎回相手にするのは、かつおにとって『氷点下の滝修行』よりも辛い。

いくら手際が良くて記憶力が良くても、『一番苦手な事』が混ざっていると、どんな好条件の職でも、自信がなくなってしまう。

例えるなら、給食で『ご飯』『おかず』『汁物』『デザート』が大好物のメニューだとしても、給食の中で一番嫌いな『飲むヨーグルト』が出てしまうと、途端に食べる気が失せてしまう・・・という感覚である。

それに、従業員を増やしすぎても、経営そのものに問題が起きてしまう。

都心のコンビニなら、従業員が何人いても不思議ではないが、こんな地方都市のコンビニで、人を何人も雇える筈がない。

もちろんこのコンビニにも、バイト従業員はいる。それで事足りるのである。


「俺、最近は休日も出勤しているんだよ。」


「・・・・・あぁ、お花見客が・・・か。」


「そうそう、ヤバい人はヤバいからな。酒を飲みすぎたのか、トイレで・・・」


「あー!!! 分かった分かった!!! 

 言わなくても分かったって!!!


 ・・・まぁ、互いに大変なのはよく分かったよ。」


こんな事を暴露する事ができるのも、平日だから。かつおが相手だから。

かつおは、決して個人の情報や企業の情報を、自身の口やSNSで拡散したりなんてしない。

人によっては、自分の情報でも他人の情報でも、すぐSNSに載せて拡散してしまう人がいる。

だが、かつおは翼よりもネットリテラシーを弁えている。

だからこそかつおは、何年もネット関連の仕事を続けているのだ。

ネットの仕事でも現実の仕事でも、やはり一度ヘマをやらかしてしまうと、なかなかその余波が消えないもの。

目に見えないネットの世界では、現実の世界よりも長く余波が残ってしまうのだ。

今でも、数年前に起きたネットの事件が、今現在でもネタとして扱われているように。


「・・・まぁ、稼ぎ時でもあるから、この期間はいつも忙しいよ。こうしてお前と喋っていられ

 るのは、休日じゃないからだ。」


「だろうな、次の土日も晴れるみたいだから、お客が押し寄せるんだろうな。」


「それを言うなって・・・

 こっちは花見どころじゃねぇんだよ・・・

 この時期になると、酔っ払いの相手もしなくちゃならないし。」


「翼さんでも、『嫌な客』っているんですね。」


「そりゃいるさ、いない方がおかしいって。」

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